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【報告】FFPJ第40回講座:EU共通農業政策(CAP)はどのような支援を提供するのか?(豊嘉哲さん)2026.1.16

· イベント

FFPJオンライン第40回講座「EU共通農業政策(CAP)はどのような支援を提供するのか?」が1月16日に開催されました。講師は福岡大学商学部の豊嘉哲教授になります。講座の概要をご紹介します。

福岡大学商学部の豊と申します。よろしくお願いいたします。今回、このような機会をいただいて非常にありがたいなと思っております。「EU共通農業政策(CAP)はどのような支援を提供するのか?」というテーマでお話をさせていただきます。もともとは「CAPと家族農業支援策」という題名ではどうかというお話をいただいておりました。家族農業だけを支援するような政策に限定してお話しするのは難しいかなと思いましたので、このような題名に変えさせていただきました。ではよろしくお願いいたします。

 はじめに(自己紹介、報告の要旨と構成)

己紹介

紹介を少しさせていただきます。ヨーロッパの農業について話しますが、もともと経済学ベースの人間です。理系の話、例えば農薬の話とかになってくると、正直なところよく分かっていません。文系の人間ですので、その辺りのことはご理解いただいた上で聞いていただければなと思っております。

報告料に写真を載せて宣伝みたいになっていますけれども、『欧州統合と共通農業政策』という本を2016年に出しました。最近はといいますと、「欧州困窮者援助基金(FEAD)の予算をめぐるEU加盟国間の不均衡について」(https://fukuoka-u.repo.nii.ac.jp/records/2000633)という題名で書きました。EUの困窮者援助がもともとどこから出てきているのかというと、CAPで農産物を作りすぎて余りました。余った農産物をどうしましょうかというときに、困っている人に配ればいいのでは?という話が1980年代末にヨーロッパで出てきて、それが現在に至っています。このようなテーマにも関心を持っております。ざっくりとはしておりますが、自己紹介は以上になります。

*報告要

今回、EUの話が結構出てくると思います。EUの行政機関もしくは執行機関と呼ばれる欧州委員会というところがありまして、そこのトップにフォンデアライエンさんというドイツの方が就きました。この人が2019年に欧州グリーンディール(EGD)というものを発表しました。グリーンという言葉が入っていることからお分かりだと思いますけれども、環境にいいことをしましょう、気候変動対策をしましょうということを打ち出します。これの影響を受けてCAPも変えないといけないねという話になりまして、2023年からその影響を受けたCAPが始まりました。

その中でどなことが行なわれているのかということをお話していくことになります。もう少し言えば、農業者がどんな支援を受けられるのか、農業者が支援を受けるためには条件がつきますが、それはどんなものかということをお話させていただきます。

*報告の構成

から現在のCAPの中身をしゃべりますが、その前に20世紀と21世紀のCAPでそれぞれどんなことをしていましたかということを簡単にお話させていただきます。20世紀、21世紀というふうに大雑把に分けていますけれども、エポックメイキングというか、CAPにとって決定的に重要な年は1992年です。この年に改革が始まって、それ以降とそれ以前でCAPは大きく変わったといえます。20世紀、21世紀という分け方は嘘というか、大胆に書いているだけであって、正確には1992年を区切りとした方が正確な表現です。

現行CAPを構成るEDG、「農場から食卓まで(F2F)」戦略、EU生物多様性戦略(BDS)などについて話します。これらにどんな目的があり、どれほどの予算が充てられているのかについて聞いていただければと思います。

② 20世紀のCAP:制度と問題点

そもそもEU(European Union)とは

まず、簡単に20世紀のCAPがどういうものであったかという点をお話させていただきます。そもそもEUって何?という点ですが、ヨーロッパの国々でまとまって政策を実施している。去年末時点で27か国が入っている。その中ではヒト、モノ、カネが移動を自由にできます。国境を越えるときにパスポートが要らないという理解でいいかと思います。

これらの国々が様々な分野共通の政策を採用していますが、その一例がCAPです。CAPって何?というのを農業の観点からじゃなくて、EUの観点から簡単にいうと共通政策の一つだということになります。ただちょっと誤解を招く表現になっているのでもう少し申し上げると、「共通」農業政策では、農業政策のすべてがEU全体で共通化されているかというと、それは完全に嘘というか、大げさ過ぎる表現です。すべてがすべてEU加盟国で農業政策を共通化させているわけではありません。一部は共通化させていますが、そうでない部分が多々見られます。近年の傾向として、共通化をやめていくという傾向の方がむしろ強くなっていると思います。CAPの共通性というのは、すべてには及ばないという点をご理解いただければと思います。

*20世紀のCAP:どのよう業保護政策

20世紀のCAPの反省を踏ま現在のCAPにつながっていますが、初期のCAPはそもそもどのような農業保護政策を実施していたのでしょうか。CAPは1962年に始まります。問題視れたのは「ある国全体で過剰生産が起きると当然ながら値段が下がる。値段が下がると収入が下がるだろう」というプロセスです。これは困るよね、というのが基本的な問題意識になります。

このプロセスを止めるために最低証価格を設定しましょうというのが、最初のCAPで行われたことです。つまり値下がりをどこかで止める政策を行うということなのですが、その方法として、余った農産物を全部、買い取りましょうとなりました。初期CAPがしたことは、要するに余剰農産物を全部、税金で買い取るということです。

ただ先ほど申し上げたとおり農業政のすべてが共通化された訳ではないので、すべての品目の農産物で余剰農産物が買い取られたということではなく、主要農産物に限定してそれが実施されました。主要品目の余剰の買い取り、これが20世紀のCAPの根幹です。

*20世紀のCAPの問題

このようCAPは問題を生みました。いうのは、消費者が買わない農産物を買うために多額の税金が投入されるからです。これは、納税者から見ると税金の無駄遣いだ、おかしいということになり、CAPへの批判の一つになります。

もう一つの批判は次のようなものです。余た農産物を全部、政府が買ってくれるということはいくらでも作っていいよねと生産者側に思わせてしまった。少しでも多く作ろうと生産者が思ったときに、化学肥料を使う、農薬を使う、必要以上に使うということが起きた。この結果、環境悪化、とりわけ水質の悪化が起きて、問題視されていくことになる。

20世紀のCAPが実はまずいよねと言われ由の一つは税金の問題、もう一つは環境汚染の問題です。先ほどのスライドにCAPは1962年に始まったと書いていますが、開始らしばらく経ってダメだねって言われはじめて、結局30年ほど経って1992年からCAP改革が本格的に始まりました。

 21世紀のCAP

*直接支払いの導入

う改革したのか。先ほど書いたプロセス「作り過たら値下がりして収入が下がる」というのは農家にとってよろしくない。これを防ぐためにEUは二つの点でCAPを変えました。第一に、値段が下がってもいいじゃないかという考えを採用しました。余剰農産物なんて買わない、値段が下がっても構わないということです。そうなると農家の所得は当然下がるでしょう。これに対応するために第二の変更を採用します。すなわち生産者に直接補助金払おうという支援方法に変えます。

20世紀型というか、以前の支援策は、値段を高く設ることによって農家の所得を支援していました。21世紀になってEUが採用しているのは、原則的には値段に対して介入はしない、値段が下がっても知らんという姿勢です。その一方で農家に対して直接、補助金を支払う。簡単にいうと口座に振り込む。もし仮にこの直接支払いという補助金が十分な額であったとすれば、農産物の値段が下がったところで農家は生活できるであろうという発想です。EUはこのようなスタイルの農家支援策、生産者支援策を打ち出していきます。

この直接支払いが今も使われていて、最も重要な政策手になっています。当然ながら直接支払いには受給条件が付いていまして、何をやっていてももらえるというわけではありません。これをやらないとダメですよ、あれやっちゃダメですよという条件が付いています。これが2023年以降、EGDというか、環境の問題と強く結びつけられていくことになります。この点は後々お話をさせていただきます。

*CAPはどのような支援を提供するのか?

今回の講演の、CAPはどのような支援を提供するのかという問いに対して、直接支払いを出しますというのがシンプルな答えです。それをもらうためには条件を満たさないとダメですよとお話ししましたが、ここで問題になってくるのが、どの農業者も条件を満たすことができるのかということです。元々いただいたテーマである家族農業などの小規模農家と、とんでもなく広大な農場を抱える企業型の生産者とを対比したとき、直接支払いをもらう条件を満たす難しさは同じなのかということが問題視されています。受給条件を満たしたかどうかには、当然ながら証明作業が要ります。私はちゃんと条件を満たしています、言われたことを守っていますと言わないといけないけれども、その証明作業を行なう手間を考えたときに、小規模農家と企業型超大規模生産者で同じ条件の満たしやすさになっているだろうか?おそらく違うでしょという批判というか視点が存在しています。

次の論点は、直接支払いは十分かということです。先ほどからし上げているとおり、価格支持がない、値段が下がったところでEUは知らんと言っている現状で、直接支払いは生産者の生活を維持するに本当に十分な金額なのかというのが一つ目の論点です、単純に。もう一つ論点があります、直接支払いの額が不十分だとしましょう。それにもかかわらずアレをやれコレをやれとEUから言われる。そんなこと言われるぐらいならカネは要らんから言われることを守らん!という立場の農家が出てきてしまう。そうすると、今まで以上に環境にいいことしましょうという政策の目標が実現できないということに結局なっていく。それで大丈夫なのかという批判も存在していると思います。どのような支援を提供するのかというのが今回の大きなテーマになっていますけれども、直接支払いに付いている条件ってどんなもの?、金額は大丈夫?というのが、それに含まれる論点です。

④ 2023~2027年のCAP(現行CAP)

ここから2023年以降のCAP、つまり現行CAPの中身を、も含めてお話をさせていただこうかと思います。

*欧州グリーンディール(EGD)

まず、欧州連合日本政府代表部が成したEGDの資料(https://www.eu.emb-japan.go.jp/files/100085333.pdf)を見ていただきます。これに書いてあるとおりで、2050年までに炭素中立を実現しましょう、要するにCO2を出す分と吸収する分を同じにしましょうということがEGDの目標の一つです。次に、人や動植物を汚染や公害から守りましょう、欧州企業をクリーン技術や製品のリーダーとしましょうという目標も掲げています。第四の目標として、誰も取り残さない公正かつ包摂的な社会変革を実現しましょうということも言われています。環境にいいことしましょうと言ったときに、先ほども少し触れましたけれども、当然ながら時間とか、色んな意味でコストというか手間がかかる。それに耐えられるか耐えられないかというのは、当然ながら企業規模とか農場規模とか、そういったものに依存することになる。じゃあ耐えられないというような生産者が出てきた場合にどうするのかという問題があるわけで、EUとしては誰も取り残さない、そういう人たちをちゃんとケアしますよっていうようなことが触れられています。

EGDの中でいろんなことが言われていますが、CAPに関して大事なのF2F戦略とBDSです。F2F、すなわち農場から食卓まで戦略ですが、これは公平で健康かつ環境に優しい食品システム、フードシステムを作り上げましょうというものです。生態系や生物多様性の保全、修復というのが大事ですよという形で、生態系や生物多様性がキーワードになっているのがBDSと言われるものです。わざわざこれをここで出している理由は何なのかと言いますと、先ほどから直接支払いには条件が付くというお話はしましたけれども、要はこのような観点から重要なことをやらない農業者に対しては、直接支払いを渡しませんよ、もしくは減らしますよという条件が付いているということになります。

*F2F(Farm to Fork)

F2Fでは持続可能性がキーワードっていす。要はフードシステムを能なものにしましょうということです。持続可能性、サスティナビリティの簡単な定義は、今私たちがやっている生活様式を子供の世代はできるだろうか、孫の世代はできるだろうか、ひ孫の世代はできるだろうかと、世代をずっと後に後に送っていくときに、同じことができるのであれば持続可能と呼んでもいいだろうということです。子供の代、孫の代、ひ孫の代のどこかの代で、今やっていることが続けられないというのであれば、それは持続可能とは呼べないよねということです。持続可能な状態でフードシステムを作り変えていきましょうというのがF2Fの基本的な考え方になります。

*F2Fの方法:持続可能な食料生産の実施

CAPの文脈でF2Fの大事なとこ見ていきましょう。目標がズラッと並べらいますが、例えば農薬の使用を減らしましょうとか、化学肥料の使用を減らしましょうとか、抗生物質を減らしましょうとかですね。さらに、全農地の25%において有機農業をしましょうというのが、CAPにおいては結構、大きな目標となっています。本当にできるのかという点も含めて、大きな項目だなあと多くの人によって考えられていると思います。持続可能な食料生産のためにこういうことをしましょうとF2Fは言っています。

これが生産者支援策にどう関わるかというと、繰り返しですが、これ守らない人には助金出さないよと、直接支払い渡さないよということになっています。そのような条件が直接支払いには付いているということになります。

*F2Fの方法:食料安全保障の確保

CAPにとって大事なF2Fのもう一つの項目と、コロナの時期と重なってよく言わしたが、食料部門の労働者というのはエッセンシャルワーカーだという規定があります。我々、食べ物がないと生きていけないという非常に当たり前の事実がある一方で、じゃあ食品産業の労働者の給料は十分なのかというと、結構、足元見られているという場合もある。そのような状況を維持するというのは、本当に持続可能なのか?将来のことも含めて、農業部門、食料部門の労働者はエッセンシャルワーカーなのだから、ちゃんと所得を提供しておかないと、いずれ破綻するよねという観点からフードシステムを維持もしくは再構築しませんかというのがF2Fの中で言われていることです。

「欧州社会権の柱」はヨーロッパで非常に大事なものとされていますけれども、要は賃金をゃんと払いましょうとか、契約書を書面にしましょうとか、労働時間を週三十数時間にしましょうとか、労働者の権利をしっかり守りましょう、公正な労働条件を確保しましょうというのを農業労働者、食料部門労働者にも適用しましょうというのがここでも言われていることです。

*その他

次に、CAPや直接支払いとの関係があまり強くないF2Fの論点ですけども、食料棄を減らましょうとか、栄養素をちゃんと表示しましょうとか、健康的で持続可能な食事をしましょう、食品偽装を止めましょうみたいなことも言われています。

*2030年EU生物多様性戦略(BDS2030)

次にBDSすなわち生物多様性戦略ですが、が1979年や1992年に何をしたかというと息地、生物保護区を指定しましょう、簡単に言うと、そこに人間の手を入れないでおきましょうということです。そうすることによって生物多様性に貢献するんだというのがBDSの基本的な考え方になります。

これは先ほどの、全農地の25%における有機農業の実施という点と関わります。海もありますが、農を含む土地に人の手を加えないでおこうというのがBDSの基本的な発想です。これは、直接支払いに関連付けると、あまり多くのところに生産者が手を入れてしまうと、直接支払いをもらえないよと、減らされるよという規制になります。陸地と海、それぞれ30%以上を保護区にするとしているので、漁業も関わってくると思います。あと花粉を媒介するものを守りましょうという意味で、農地に手を入れない方がいいよねっていう考えがBDSに含まれます。

*F2FとBDSのつながり

F2FとBDSのつながりは、平澤明彦氏の文献(https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n2202re1.pdfに示されています。もしご興味、ご関心があれば、見ていただくと非常に有益な情報かなと思います。

*EU予算に占めるCAP支出の割合

次に現在のCAPがどうなっているかという話です。農業の話というよEUの話ですけれども、EUの予算占めるCAP支出の割合は、昔は70%、80%ありまして、1990年前後で60%ぐらい。これでもだいぶ下がったなと言われた時代がありました。現在ではぐいっとさらに下がりまして、30%ぐらいです。

2028年から新しいCAPが始まるのですが、そのときにはもっと下がると予想されています。まあ、CAP予原案も出ていますけれども、2割ぐらいになるんじゃないかなということも言われています。CAPの支出というのは、額としては増えていますけども、EU予算全体に対する割合で見ると、年々減っているというという事実があります。現行のCAP予算では、特にエコスキームという項目のが大事かなと思います。

*現行CAPの10の主要目的

今のCAPの目的は10個あります。最初に書かれているのが、農業者に対する公正所得の確保。に競争力の向上出てきます。これらは、最初のCAPができたときの条約、ローマ条約という条約があるんですが、それに書かれていたことで、現在も引き継がれています。ローマ条約とそれを引き継ぐ条約は、EUにおいて最上位の法律と理解していただいて結構です。そこに出てくる文言がこれら二つの目的です。農業に関わる人、農村で生活する人の所得を公正にしないとダメでしょっていうのがまず出てきて、その次に出てくるのが、農業生産性を上げて、所得向上を促しましょうみたいな文言が書いてあって、今も踏襲されています。CAPができたときから今に至るまでずっとこれです。農業者に公正な所得を提供する。で、それを実現するために何をしないといけないのかというと、生産性を上げる、競争力を上げるというのがコアな部分になります。

これらに関連するものとして、フードチェーンにおける農業者の立場の強化というのがあります。近年、これが強く言わていると思います。食品産業というのは流通業と切ることできないというか、スーパーマーケットとかコンビニとか、そういうところで食べ物がたくさん売っていますけれども、そういったところと関わることなく食品を販売できるかというと、おそらくなかなか厳しい。食べ物の流通の過程で、農業者というか生産者の立場を強化するにはどうしたらよいのかっていうようなことが強く考えられていると思います。

第四、第五、第六の目的(気候変動のための行動、環境への配慮、景観と生物多様性の保全)は明らかに環境に関する事柄す。七番目に、後継者をちゃんと育成しましょうという目的があって、八番目に、特に近年、EUでよく言われますが、農業を支援するだけじゃなくて、農村も支援することが大事よねということが示されています。

番目に食と健康の質がCAPの目的に加えられています。最後に横断的目的として、つまり1から9の目的全てに関連付けれるものとして知識とイノベーションの強化、AIも最近、発達していますから、そういったもも使て目的を達成しましょうとなっています。

*目的の実現のための手段:直接支払い

直接支払いとその条件の話をずっとしてきましたが、例えば土壌の保全という条件があます。作物を水路の間際まで植えてしまと土壌流失の可能性が高まるので、水路の近くには植えちゃダメですよというような条件です。これを守らなかったら直接支払いをもらえない、もしくは減らされる訳です。

こうしないと補助金をもらえませんということはずっと昔から言われていますが、2023年に変更がありました。それは、遵守か実績へというルールの導入です。これが何かというと、例えば土壌流失の話で、EUのルールを守って水路から遠いところに根を張る植物を植えた。だからルールは守っている。言われたことはちゃんと守っている。なので、補助金を下さいと言えばもらえます、というのが以前のCAPになります。しかし2023年の変更の後は、「あなたは確かに水路から離して植えましたね、でも実際には土壌流失が起きちゃいましたね」となった場合、補助金をもらえないです、または減らされる、というルールが適用されている。極論すれば、遵守、つまりルールを守っていれば結果がどうなってもOKということから、ルールを守って、かつ結果も出しなさいという時代に変わった。これが2023年の変更ですね。

端的に言って、農家にとって厳しい条件が付けられる状態になったわけです。環境保護に熱心な人たちの立場では、ルールを守っていだけで結果を伴っていないなら補助金をもらう資格はないでしょ、ということになる一方で、生産者目線で言うと、ルールは守っているのだから補助金を下さいよという本音もあるかなと思います。こうした対立というか、意見の相違があるでしょう。

*現行CAPのコンディショナリティ

現行コンディショナリティ、つまり現在の直接支払いの条件についてです。さきほど土壌流失の話しましたが、水質悪化させちゃダメでよとか、生物多様性を維持するために農薬とか化学肥料とかをメチャクチャに使っちゃダメですよとかのコンディショナリティもあります。動物の福祉、ご存じの方も多数おられると思いますが、5つの自由が動物にはあるべきだ、例えば狭いところで鶏を飼っちゃダメ、というのもコンディショナリティの一つです。動物の福祉、動物の由を認めましょう、家畜を生きているうちは丁寧に扱いましょうということですが、これを守ってなければ補助金が出ないということにもなっています。

余談ですが、鶏の卵、日本では生で食べますけれども、動物の行動の自由を認めて、だだっ広いところでニワトリ放し飼いにして卵を産んでらって、それをそのまま生で食べることがどの程度簡単にできるのかというと、これは大変なことになりますよね。この場合、生で食べられる卵を今の金額では買えなくなるので、卵かけご飯がとんでもない高級品になるかもしれないという話を、動物の福祉に結びつけて学生にしたことがあります。

*直接支払いに関する2つのグラフ

事前に質問を一ついただきました。EUの農家支援の内容と、補助金は農業所得に対して何%かという質問す。英語のままで恐縮ですが、グラを見つけたのでここに載せています。

グラフ(1)CAP expenditure and CAP reform path

グラフ(2)Share of direct payments and total subsidies in agricultural factor income

グラフ(1)ですが、1992年から青い部分、すなわち直接支払いが出てきます。1992年がエポックメイキングですよと言いましたが、それはこの年から直接支いが出てきたからです。緑の部分、これも直接支払いですが、これが2005年から出てきて、今では緑色が増えました。つまりデカップルされた直接支払いがEUの農業補助金の主たる部分を占めているということになります

このグラフ(1)からお分かりいただけるように、EUの農業補助金はほぼほぼ直接支払いです。緑と青が全部直接支払いなので、21世紀に入ってからCAPは直接支払い運営されていると言っても、そんなに大げさとも思えないような状態になっています。

もう一つ大事なものとして挙げられるのは紫の部分、つまり農村開発です。今回の話とは関係ないですが、CAP第2の柱と表現されることもある農村開発がEUでは重視されるようになってきたという事実もあります。

*農業部門での収入

グラフ(2)ですが、農業部門ののうち何%を直接支払いと補助金の額が占めているかを示したものです。オレンジ色の棒グラフは補助の総額の割合です。れが一番多国はEE、つまりエストニアで、そ農業関連の所得のうち7割が補助金です。青い部分は直接支払いで、45%ぐらいになっています。もし直接支払いがなかったらエストニアの農業部門の所得は55%になる。補助金全部カトということになったら3割になってしまうということです。

一番左のBEはベルギーです。ベルギーでは補助金総額が3割弱ですね。直接支払いが2割ぐらい。もし直接支払いなしですよなったら、80%弱にまで所得は落込むでしょう。他方でNLつまりオランダの農業関係者は補金をあまりもらってないとうか、まあ所得の1割ぐらいもらっていますけれども、ヨーロッパの中で見ると非常に少ないと思います。一番右のグラフがEU平均で、直接支払いがだいたい20%ちょっと。直接支払いは結構多いというか、なくなると困る額だというのは、まず間違いのないところだと思います。

注意しておいた方がいいのは、ここでの所得は要素所得だということです。大きな農場の経営者の所得、家族経営農場の所得、農場労働者の賃金、農地を貸している人地代などを全てひっくるめた合計額としての、ある国の農業部門の所得です。

*現行CAPの特徴的な措置

現在のCAPの特徴的な措置として、CAP戦略計画、エコスキーム、社会的コンディショナリティの3つを挙げています。第一にCAP戦計画。さきほどCAPの共通は部分的ですよという話をしましたけれども、CAP戦略計画というのは農業政策における各国の裁量をめるものです。どのような直接支払いを実施するかは加盟国が立案するということになっている。要は国が変われば、直接支払いの払い方が変わります。だから、先ほどのグラフ(2)を見ていただいて、直接支払いが所得に占める割合はどれくらいかというと国ごとに違う。その理由の一つは、直接支払いという共通の制度を使うものの、その詳細はバララだからです。そして、その傾向をますます強めるのがCAP戦略計画です。

*エコスキーム

次にエコスキーム。これは直接支払いの一部で、2023年に導入されました。エコという言葉からご理解いただけるかと思いますが、環境に優しいこと、気変動に対していことしましょうということです。通常の直接支払いのコンディショナリティに加えて、もっと気候変動に貢献するもの、環境に対して貢献するものをやりましょう、やってくれたらさらに補助金を出しますよというのがエコスキームです。その分、補助金をもらうための条件は農家にとって一層厳しいものになります。エコスキームの予算ですが、直接支払い全体の25%をエコスキームに充てることが各国に求められています。

EUは近年、環境への貢献度を高めるという姿勢をどんどんどんどん強めていて、退歩禁止条項というものを導入しました。簡単に言えば、前よりも緩い基準にしちゃダメというです

*社会的コンディショナリティ

三番目の社会的コンディショナリティ。先ほども少し申し上げましたが、農場労働者というのはエッセンシャルワーカーである、かれらの労働条件をくしないと農業は持続可能になないから、この点でちゃんとしましょうねということです。農場主に対して「あなたは従業員をちゃんと扱っていますか」と確認して、「ちゃんと扱ってないですね」となったら、補助金なし、直接支払いなし、となるのが社会的コンディショナリティです。これは2025年から義務化されています。環境にいいことばかりではなくて、労働条件に関してもいいことをやりましょうというのが、EUの明確なメッセージかです。

*現行CAPの課題

直接支払いに関して色々な課題が指摘されています。(ア)生産規模と受給しやすさの関係、(イ)F2Fの数値目標である「全農地の25%における有機農業の実」、(ウ)直接支払というインセンティブの効果、の3つについてお話をさせていただきます。

*生産規模と受給しやすさとの関

生産規模と受給しやすさの関係について、先ほど少し話しました。直接支払いを受給するには条件を満たす必要あると同時に、満たしたことを証明しなといけない。例えば二人で農場を経しています、従業員いませんみたいな農場と、企業型で弁護士も会計士もいますみたいな大規模農場とでは、証明する能力というか、手間とかコストとかに耐えられる力というかが明らかに違うと思います。

なので、規模が小さな生産者の中には、こんな面倒くさいことはやってられない、補助金はほしいけど手間が補助金に見合わない、だから直接支払いなんてもらわないという農家も存在しているうです。となってくると、問題になるのは、最初にちょっと言いましたけれども、値段が下がったところで政府は知らんという姿勢を現在とっている。値段はどこまで下がるか分からない。その一方で、直接支払いをもらおうと思ったら手間に耐えられない。この場合、農家ってちゃんと収入を得られるのかということになってくる。特に自営の小規模な農場にとって、直接支払いは本当に有効な所得支援策になるのかという疑問が存在していると思います。

*全農地の25%における有機農業の実施について

全農地の25%を有機農業にしましょう、これをしないと補助金を減らされますよということになった。では、有機農業を広めると何が起きるのを考えると、資料に書いているとおり、野菜とか果の多様性がどんどん増えて、均一さが失われていく。例えば輸送に関わる人からすると、これは結構面倒くさいという話になる可能性がある。均一さがなくなっていった場合、有機農業の生産物を本当に買うだろうかという疑問が出てきます。

一つの理由はコストが上がるからです。流通過程が長い、そこで不均一なものを大量に輸送しようとすれば、今までのコストでは賄えなくなる、なので値段が上がる。それで消費者は果たして買うでしうか。直接支払いに関してというか、有機農業を推すことに関してというか、批判もしくは改善点として指摘されることの一つは、生産者への支援はそれはそれで結構だけれども、生産者だけを支援して本当に有機農業は広まるでしょうか、輸送や調理に携わる人にも目を向けなくてはならないかもしれませんねということかと思います。もちろんこの見解への反論として、そもそも流通過程が長いということ自体をやめればよいという見解があります。地元のものを地元で食えばよいという反論が当然ながら出てくるでしょう。とはいえ、有機農業を推すのはOKだけど生産者以外のところも応援してあげないと、全体として回らないんじゃないの?という視点は重要だと思います。

*直接支払いというインセンティブの効果について

最後に、直接支払いは十分な額なのかという点です。先ほどのグラフ(2)ですが、オランダの農家は補助金があんまりなくてもやっていけるという現がある。オランダには自力で稼げる農家が結構いるかれらにとって、簡単に言うと、直接支払いの額があまり魅力的ではないとなると、「その程度の金額しかくれないのに、あなたたちの言うことを聞かないといけないのですか」という考え方が出てきてもおかしくない。そうなったら守らないですよね、ルールを。うちは勝手にやります。その代わり、お金もらわなくても結構ですってことになってしまう。

規制するときに2種類あって、飴と鞭という言い方でいいと思いますけれども、いいことをしたらお金をあげるという飴タイプの規制というかインセンティブと、それをしたら刑務所に入れますという鞭タイの規制があります鞭タイプの規制は守るけど、お金をもらう方の誘導については、別にそんなお金はいらんという立場の農家が出てくる可能性がある。とすれば、直接支払いは農家を誘導する上で、所得支援をする上で、良いように聞こえるけれども、結局のところ、その金額で本当に大丈夫なのか、安過ぎるのではないという問いと一緒に考えなくてはならないものかなと思います。

*おわりに

農業者のすべてが十分な所得を得ているかというと、ベルギーのブリュッセルが典型的ですが、トラクターが集まって農家の人たちがデモをガンガンやっています。それが物語っているように、十分所得を得てるとは到底言えないのではないかと思います。その背景にあるのが、さっき申し上げたとおり、直接支払いの額が不十分ではないかという点、直接支払いをもらうための条件を満たすのが厳し過ぎるのではないかという点、そしてもう一つは、単純に値段が下がったら所得は上がらないよねという点でしょう。

環境と気候変動の改善にCAPが役に立つのかという論点に関しては、結局、直接支払いの額が大きくないと上手くいくかどうか分からないというのが資料に書いたことです。

最後に、直接支払いの対象と金額が切かという点について。CAP戦略計画というものが導入されたので、農家が十分な額の直接支払いを得られるかどうかは各国次第。ヨーロッパ全体で共通して言えることではなて、今後は、あの国の農家はいい感じと見られる一方で、別の国では農家に全くお金が足りてないねという状況が起こりえるかもしれないと想像しています。

ご清聴ありがとうございました。今回のお話は、この文献(豊嘉哲(2023)「環境・気候変動の問題とEUの共通農業政策」、前田啓一・池田潔・和田聡子編著『激動する世界経済と中小企業の新動態』、御茶の水房、第4章。)の内容に手を加えたものになっております。以上です。ありがとうございました。