FFPJシンポジウム:「令和の米騒動」を問う——日本のコメを次世代につなぐ——が11月14日に参議院議員会館とオンラインの併用で開かれました。FFPJの池上甲一常務理事(近畿大学名誉教授)が解説講演を行い、パネリストの天明伸浩さん(星の谷ファーム代表、令和の百姓一揆in新潟共同代表、新潟オーガニック連絡協議会副代表)、相川英一さん(日本米穀商連合会 専務理事)、山根香織さん(主婦連合会 常任幹事/食料部長)が討論しました。司会は、FFPJ常務理事の市村忠文さん(全日本農民組合連合会 書記長)です。
以下はシンポジウムの前半部分の概要になります(末尾に動画へのリンクををつけますので、後半部分を含めてご覧になれます)。
〇市村さん(司会)
定刻になりましたので、ただいまからシンポジウム・討論「令和の米騒動」を問う-日本のコメを次世代につなぐ、を開会したいというふうに思います。昨年の夏頃から明らかになりましたようにですね、日本の米騒動と言いますか、米不足が原因でありますけれども、米騒動というのが起こりまして、それがいまだに終息していないと言いますか、色々消費者の方にしてみれば、大変高い米の値段になっているということ。あるいは生産者からしてみると、このままどうなっていくんだろうかと、大変、色んな不安のなかにある、そういう状況にあるんじゃないかというふうに思います。そういった意味でこの米騒動というものがいったいどういうふうな背景があったのか。そしてそれを教訓としてですね、これからの食料・農業政策、あるいは私たち自身のこれからの生活のありよう、こういったものにつきまして、どう考えていったらいいのかということで本日のシンポジウムを開催することになりました。
申し遅れましたが、私、この主催団体であります家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンの常務理事をしております市村と申します。今日の進行の方をさせていただくことになっております。よろしくお願いいたします。
今日の運営でありますけれども、最初に同じく家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンの池上さんの方からですね、この米騒動の背景なり、これに打ち出された対策、こういったことにつきまして、概括的にお話をいただいたあとに、生産者、消費者、そして流通関係の方々の方から、この米騒動によってですね、どのようなことが周りで起こってきたのかということなどにつきまして、それぞれお話をいただき、その後、休憩を挟みまして質疑、討論という形で後半の方を進めていくということになっております。
それで今日はですね、会場の方にも30人ほどご参加でありますけれども、あとオンラインの方でですね、70人ほどご参加いただく予定になっておりますので、特にオンラインの参加の皆さんにおかれましてはですね、音声の方をミュートにしていただくようにお願いいたします。それから質問につきましてはオンラインの参加の方はチャットの方に書き込みをお願いいたします。それから会場の参加の方につきましては、お手元の方にシンポジウムの質問・意見書というのが入っていると思いますので、これに誰々さんへの質問という形で記入をしていただいて、後ほど、休憩の時間にですね、受付の方に提出をしていただくようにお願いいたします。時間の関係もありますので、すべての質問にお答えできないかもしれませんけれども、できるかぎりお答えをしていきたいというふうに思いますので、オンラインの皆さんも含めて、よろしくお願いをいたします。
それではさっそくですけれども、入っていきたいというふうに思います。最初に解説講演という形で池上甲一さんの方から「令和の米騒動を問う」ということで、30分程度、お話をいただくことになっております。よろしくお願いします。
〇池上さん
皆さん、こんにちは。今、ご紹介いただきました池上甲一でございます。家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンの常務理事を務めております。大学を辞めてもう10年になりますので、もう基本的にはプラットフォーム・ジャパンの理事というふうにご認識いただければ結構かと思います。
今日は30分しか時間がございませんので、手短にまいりたいと思いますが、令和の米騒動ということで話を進めていきたいと思います。それではシンポジウム自身の狙いにつきましては、ただいま司会の市村から申し上げましたので、ここでは再現いたしません。私の講演ではですね、このあとのディスカッションに向けて、令和の米騒動というふうに言われた事態をどう考えていったらいいのかという、そのための基本、あるいは背景について解説するということを目的としております。多少は私の私見も交えますが、基本的には実態がどうなっているかということをお伝えしていきたいというふうに思います(池上さんの資料はこちら)。
*農家・食べ手の分断を煽る「犯人」探し
その本題に入る前に、一番先に申し上げておかなきゃいけないことがあります。それはですね、令和の米騒動の報道、あるいはSNSをめぐってのやりとりというものを見ていると、それは農家と食べ手、あるいはお米を提供する側と売り手・食べ手との間の分断を煽り立てると、そういう動きがあったんではないかというふうに思います。特にこの米価高騰の犯人探しが色々ありましたが、その犯人探しがまさにこの分断を促進していくものであったというふうに考えています。特にその価格報道に傾斜する、たしかにお米が高いというと大変だけれども、毎週のように米価動向が新聞紙上を賑わして、下がった上がった、5円割った6円高くなったとかいうようなことばかり言っている。そのときに農水省もやりましたが、流通業者が隠しているとか、利益をバカみたいに儲けているとか、農家が売り惜しんでいるとか、買い手が余分に買っちゃって出てこないんだとか、色んなことを言われましたけれども、そういう報道の姿勢、それからSNSでのいわゆる炎上に近いような情報の流れ方というのは、結局、農家・JAと卸という売り手、お米の提供する側と、小売・消費者、売る方VS買う方・食べる方という対立構図を煽るものであったというふうに言っていいと思います。
そういう先に何があるのかというとですね、稲作をつぶす、流通をつぶすということになっていくのではないかというふうに思われて心配でならないわけですね。そこに加えて、追い打ちの米輸入があったと。私の近くのスーパーでも、ちょっと前までは韓国産とか台湾産、部分的には中国産のお米が売られていたり、最近ではカルローズが出てきているというような動きになってきている。それで輸入米が一般化してきている。業務用だけではなくって、スーパーでもかなり一般的に扱われているということになってきている。
そういうことは要するに、お米を海外に委ねるのか、海外のお米市場というのは多国籍メジャーがやっぱり基本的に握っているわけですよね。つまり、日本人が食の基本にしているお米を、つまり命を多国籍メジャーに委ねるのかという問いかけをしなければいけないというふうに思っています。同時に、稲作が崩壊するということは、田んぼも荒れていくということですよね、国土も荒れていくということです。農村が荒れていく、国土が荒れていくということで、そういうところを今、結構、多くの農外企業や外国資本も虎視眈々と狙っているという構図があります。特に水のあるところですね。森のあるところ。そういう食べ物としてのお米、それからそれを生み出す田んぼ、こういう日本に欠かせないコモンズをいかに確保していくのかという本質的な議論なしに、価格だけに収斂し、結局、対立を煽るということになってしまったということに対して、私たちはかなり注意をし、そして怒らなければいけないというふうに思っています。
ちょっと長くなりましたが、今日の話題はこんな形でお話しますが、最初に米騒動の経緯について、少し簡単に復習しておきたいと思いますが、価格ばっかりと言いましたけれども、それでも価格がどんなふうに動いていたのかということを確認しておきたいと思います。
*米の相対価格と小売価格
この図はですね、高い高いと言われている小売価格の推移と、それから農家の実際の手取り、手取りはこれよりもちょっと安くなりますけれども、相対取引価格と言われているものがどんなふうに動いたかということをまとめたものですね。見ていただきますと、小売価格の上昇が先に上がりまして、そのあとに相対取引、お米の農家の価格が動いていたと。消費段階では米価格の上昇が先行して、そのあとにこの相対取引価格の上昇があったというふうに、そういう動きだったということを確認できると思います。
それから備蓄米を放出するアナウンス、ちょうど2025年の1月頃ですが、これだけでは小売価格上昇の歯止めにはならなくて、見ていただいたら分かりますように、1月以降は結構、かなりの勢いで小売価格が上がっていってますね。そういう動きになったということ。それから、もう一つ特徴的なことは、この相対取引価格というのは、2024年産と2025年産でですね、二段階、2024年産で一段階上がって、しばらく微増状態でいて、2025年産のお米が出てくる8月、9月にかけて、急激に上がる、そういう二段階の動きだったということがあります。これがまず押さえておきたいところでありますね。
ちょっとややこしいんですが、お米の年度というのと、それから出来年、暦の年でちょっとズレているので、頭がちょっとこんがらがちですけれども、2024年産というのは、2025年におもに食べているというふうに思ってください。
*JAが提示した概算金の状況
その2025年産のお米が急激に上がっているということの背景にあります概算金と呼ばれている、農協が農家に示した、これだけで買うよというふうに渡すお金ですね、それを見ていただきますと、ちょっとこれまでからすると信じられないような高い値段が続いています。特に8月頃に概算金の数字を決めたJA全農の山形とか、あおもりとかではですね、あとの引き上げ額を含めると4万円を超える、あるいは4万円近くというような値段になっているということになっています。
*米騒動の経緯①
経緯を簡単に振り返りますが、2024年2月に、米需給見通し指数DIというのがかなり高くなりました。あとで相川さんからご紹介いただければいいかと思いますが、今は30台ぐらいですかね。かなり下っている。DIが高いとですね、需給がひっ迫している、お米が足らない。小さいとお米が余ってきていることを示しています。その72とかなり高くなって、しかもスポット価格はもう5万円台に近いというような急騰するような状況になりましたけれども、政府はお米あるあると、新米が出てきたら値段が下がるというふうに言い続けていた時期ですね。
それが2025年1月31日になって、ようやく備蓄米の放出ルールを見直すと。災害がなくても備蓄米を出すというようになりました。5月21日には農相が代わって、随意契約に変わったと。これで、随意契約に変わることによって、備蓄米の目的がですね、何かの災害があって供給が足らないときに使うというふうに言っていたものを、安価・安定的な供給に留意するというように目的が変わりました。このことに対して、次の5月のですね、食料・農業・農村政策審議会の食糧部会では、備蓄米のなし崩し的な運用に懸念が示されるということになりました。
*米騒動の経緯②
次に続きまして、米価対策の閣僚会議とかいったようなものが作られましたけれども、その小泉農相は輸入も選択肢だとかですね、備蓄米をもう10万トンしか残さなくて全部出しちゃうとか、作況指数が公表停止とか、概算金やめろとかですね、色んなことを言って、だいぶ騒がしてくれました。混乱させてくれました。
一応、その前の8月5日のときに、米の安定供給等実現可能閣僚会議で、米騒動のどういう原因で起こったのかということを検証したその結果を公表して、石破内閣は米増産に向かうんだということを表明しました。このときの検証結果を公表したあと、陳謝をしましたけれども、陳謝した先は自民党だけで、国民に向けての陳謝という、農民に対しても陳謝を行わなかったし、消費者に対しての陳謝もしませんでした。どこを向いているかということが一目瞭然の出来事だったかと思います。
政権が代わって、鈴木農相が就任したところ、途端に増産方針をやめて需要に応じた供給だというふうに切り替わってしまったという、ちゃぶ台返しになったということでございます。
*「検証」をどう評価するか
検証をどう評価するかということですけれども、この需要の見通しの過小評価と、それから生産量の過大評価が大きな原因で、それがなぜ間違ったかということについて4つほど挙げています。1つは高温障害ですね。2つ目はインバウンド需要が想定以上に大きかった。3番目が地震・災害不安。4番目がふるさと納税の返礼品でいっぱい使われたということを言っています。何をいまさらという感じですけれども、どちらにしてもですね、高温障害というのは今後も継続的に起こっていくし、さらに激化する危険性が大きい。インバウンド需要、たった3万トンの需要増で価格が跳ね上がってしまったというようなことは、結局、需給見通しに余裕がないということを示しているんだろうと思います。地震・災害不安というのは今後も起こりうることですよね。こういう起こりうることとして、想定していなかったというところに問題があるだろうというふうに思います。
この検証のあと、どういう稲作を目指していくか、あとの議論にも関係しますけれども、ここで1番目に増産に転換と書いたのが、今は逆になってしまいました。それからまた2番目の生産性向上、特に節水型乾田直播とかですね。それから輸出の抜本的拡大。特に鈴木農相は輸出先を積極的に開拓して、それから増産するんだというようなことを言っています。で、水田政策もそういう方向に向けて見直していくというふうに言っているということであります。
*令和の米騒動の基本的な原因
米騒動の基本的な原因は、この表をゆっくり見ていただいたら結構でございますけれども、基本的には生産量を需要が上回ってきているということですね。これはとにかく、米価を下げたくない、米余りを警戒して、食管赤字のトラウマに囚われた農水省が、とにかく市場からは隔離したくない、財政負担を増やしたくないということで、生産を抑えてきた結果だと言っていいと思います。
*生産調整維持への地ならしか?
一番新しい基本指針は、鈴木農相のもとで行われたものでございますけれども、これで見ると、総供給量がかなり増えて、民間在庫が増えていくだろうというふうに見込んでいるわけですね。結局、この適正とされている在庫水準をかなり上回るので、米価が下がるだろうというふうにみているということになります。生産調整維持への地ならしか? とクエスチョンで書きましたが、そうだったということになろうかと思いますね。
もう一つだけ、ここで言っておきたいのは、価格高騰したらお米券で対応するというふうに報道されていますね。重点支援地方交付金を使ってということですが、重点支援地方交付金というのは自治体が使えるというお金なので、結局、価格高騰対策を自治体に任せちゃう、投げちゃうということを意味しているところになるかと思います。
*米需給はどのように予測しているのか
で、米需給はどんなように予測しているか。これも簡単にしておきますけれども、基本的にはずっと減ってきていると。この減ってきている傾向線、直線回帰でずっと減っていくだろうという予測のもとに、これで需要量を作っているわけです。その需要量の推計値に合うように生産を調整しましょうということなので、需要がちょっと跳ね上がると、それだけで乖離してしまうと。
結局そんなピッタリ均衡させるなんてことは相手が天候・自然でもありますから、不可能ですね。こういう形で需要に合うということを決めてきているので、これが生産調整につながっていって、今回の米価の高騰を引き起こしたということになるかと思います。下の方のところは後ほど、また触れますのでちょっと飛ばします。
*令和の米騒動についてのまとめ
まとめでありますけれども、1つですね、ここで強調しておきたいのは、今、申し上げましたように、需給のひっ迫、要するに供給が足らなかったと。政策の失敗ということが大きな原因でありますが、同時にお米の商品特性と市場特性、現状を見誤ったということも大きいのでないかと思います。
どういう特性を持っているかと。米は非常に小さな市場になってしまう。お米を食べなくなった。で、供給を過大評価していくので、供給を抑えようということになったわけですけれども。ずっと消費が減っていく、市場が小さくなると、価格変動が激しくなるんですよね。これは市場原理のツケでして、その同じ20万トンの需要が増えたと言ってもですね、1千万トン生産しているときの需要が増えたというときのインパクトと、500万トンしか生産していないときのインパクトはぜんぜん違います。これは経済学で価格弾力性が低いというふうに言います。供給がちょっと上がるとですね、お米っていうのは必ず食べなきゃいけないので、価格が安くてもたくさん食べるわけにはいかないですね。安いからといって、いっぱい買うというわけにはいかない。で、価格が上がったからといって、食べる量をちょっとは減らすかもしれないけど、全部なくすというわけにはいかない。そういう性格を持っているものです。ここはだから非常にお米の市場が小さくなったということが大きいのかなと思っています。
*米市場の曖昧性
その米市場についてもう少し述べたいと思うんですがね。米市場、市場と言いますけれども、米市場というのは実はないと言ってもいいんですね。野菜の市場みたいに卸売市場があるわけではない。米価を統一的に決める仕組みはないです。ここで値決めがなかなか不透明だというふうに思われる理由があります。この原因は食糧管理法を廃止して、流通を自由化したということが、政策的な背景になるわけですけれども。
結局、市場に任せると言っているけど、明確な市場がない。ただ、ここをあんまり強調すると、じゃやっぱり先物市場だという話になりかねないので、ちょっとここは慎重に考えなければいけないかというふうに思います。いずれにしても今は、相対取引価格が目安になっていて、政府管理された米市場になっているというふうに言っていいと思います。先ほど申し上げたように、お米の市場というのは非常にナイーブな市場になっていて、小さな市場になったということですね。
*米価の決まり方
ここはちょっと飛ばしますけれども、イメージはですね、JAが値決めの出発点だというふうに思っている消費者が多いだろうと思います。が、現実はそんなことはない、逆ですね。これぐらいの値段だったら売れるだろうという小売価格の相場をみて、全農が卸と交渉して、相対取引価格を決めて概算金を提示するという流れになっているので、起点はむしろ小売り側の方にあると。供給側の方じゃなくて、売る方に価格決めの起点があるということが重要かと思います。
これは参考までですが、色んな段階があると盛んに言われましたけれども、5重の卸構造があるとか言われましたが、だいたいの流れとどれぐらいのコストがあって、どれぐらいのマージンを上乗せしていっているかという、農水省が作った図でございますけれども、この図で見ていただきたいことは、それほどバカみたいな暴利を貪っているわけではないということであります。
*米の主な用途とプライスリーダー
もう一つ、お米の市場について言われていることについて重要な特徴は、家庭用のお米の消費と業務用のお米の消費とが、かなりトントンに近くなってきているということですね。それ以外に輸出3.7万トンとか、インバウンド需要ぐらいは輸出で出ているということになりますし、米粉とか4万トンとかあるわけですけれども、この業務用の中で大手外食チェーン店とか、コンビニのおにぎりやさんとかの大きいところは、年間契約をしているので、価格高騰の影響は割合少ないんですが、そこを先取りしちゃうんですね。
そうすると、あとの小さい、年間契約をできないような食堂とか、料亭とか、小さいお弁当屋さんとか、そいういうところがお米がないと困っちゃう。とにかくお米を買わなきゃいけないということで、そこがどうしても引っ張っていってしまうということになってきている。こういう点では、プライスリーダーが、平時は小売りなんだけれども、価格が高騰してくる、お米が減ってくる、少なくなってくるというときには、業務用のところが値段を決めていくというふうに移ってきているのではないかというふうに思います。
*米の商品特性
次にお米はですね、新米が出れば価格が下がるというふうに農水省はさんざん言ってきましたけれども、お米っていうのは1年に1回だけしか生産できません。言うまでもないことですけれども、1回しか生産できません。今は一応、二期作、ほとんど行われなくなった二期作を復活させようとか、ひこばえを使って2回収穫するとかの取組もありますけれども、基本的には1回。それを1年かけて順繰りに消費していくと。不足したからといって、すぐ増産できない。工業製品とはまったく違う。そこのところをきちんと理解しておかなきゃいけないですね。
それから、お米はすぐに増産できないというのをさらに、その先まで遡るとタネの問題まで考えていけば、2年でも難しいんですね。お米っていうのは少なくとも、元タネから考えると4年はかかります。しかも種子生産がどんどんどんどん減っている。農協が重要な役割を担っているわけですけれど、温暖化の対策で新しい品種がどんどん出てきていて、そのタネを作る種子場の農協も負担が大きくなってきているということになっている。タネの問題を抜きにしてお米のことを考えるわけにはいかないということになっています。
*作り手にとってのお米
次にその作り手にとってのお米ということですけれども、これは大規模経営と中小規模農家というように分けて書いております。大規模経営と言ってもですね、従業員の給料を払わなきゃいけない企業的な大規模経営と、それから離農併進型ってここでは書いておりますが、中山間地域に近いようなところで集落営農のような形で、農地を集めてきている、そういう大規模経営がありますね。この同じ大規模経営と言っても、それぞれ性格が違うということをちょっと頭に置いて、考えなければいけないだろうと。ただ大規模経営が販売されるお米のかなりの部分を生み出していることはたしかです。
それから中小規模農家、これは農業政策ではだいたい、評判が悪くて、なくせというような、減らしていこうと。ときどき新聞でも、本来ならば、市場原理のもとであれば、退出するような農家が残っていく。そういう原因になっているというふうになっていますけれども、それは一面的な理解に過ぎなくて、村を維持する核となっているのは、この中小規模農家ですね。ここがいなければ、米と田んぼが結びつく、その要を成している中小規模農家がいなくなると、水も道路も山も管理できなくなる。その中小規模農家によるタダの仕事が地域を守っていると。ここを無視してお米はできないということであります。
*弱体化する稲作
次の弱体化する稲作のところは数字を見ていただければ結構でございますので、ちょっと省略させていただきまして、次のところ(稲作経営体数と稲作付面積の大幅な減少)もこれだけ、どんどんどんどん減ってきているんだよということを見ていただければいいかと思います。これだけ減ってきているということは、非常に大事なんですけどね。
*長期的に見た米価と生産量の関係
もう一つ、今日ちょっと強調しておきたいことは、このお米が高いっていうけれど、これまでは滅茶苦茶安かった、安過ぎたんですよね。生産費を下回るような米価、相対取引価格でずっと赤字が累積してきていたということになります。このところをもうちょっとしっかり理解しておかなきゃいけない。2024年、ここでは24年の数字しかありませんけれど、24年になって、ようやく機械の更新ができるかというぐらいになったんだというレベルでございます。
*食べ手にとってのお米
また後ほど、時間的な余裕があれば帰るといたしまして、もう一つだけ、今日ここで強調しておきたいことを申し上げたいと思います。その食べ手にとってのお米ということですけれども、今、申し上げたように、長年続いて安い米価ということが頭の中に刷込まれている。だから米価が上昇したときの衝撃が非常に大きかったですね。お米は安いものというふうに思い込んできたんだけれども、それが実は農家の犠牲のもとに低米価が続いていたんだということがあります。
*懐具合を左右する実質賃金
グラフも説明したいんですが、ちょっと省略させていただきますね。もう一つだけ、ここだけ説明させてください。特に右側ですね。たしかに今の収入のもとではお米は高い。でも、何でそんなに、実質、消費支出の1%にいかないんですけれど、高いというふうに感じざるを得ないのは、給料が安過ぎるから。今、ここ2年ぐらい、名目賃金は上がってきていますが、実質賃金でみたらまったくその効果はない。
さらに右の労働分配率というのを見ていただいたら分かりますように、これは政府の資料ですのでね、この大規模、10億円以上の大規模企業だと、労働分配率が50%以下に減ってきている。どんどんどんどん減ってきている。この間の新聞記事によりますとですね、企業セクターの、企業部分全体の内部留保が2024年度、300兆円を超えているということだそうですね。それぐらい貯めこんでいる。つまり、貯めこんでいる分をちゃんと賃金として分配してないということになります。ここも賃金をもっと上げろということをしっかり主張していく。そういう運動を起こすことが本当は大事だろうというふうに私は思っています。これで今日、言いたいことはほぼ終わったので、あと教訓、今後に向けてというところは、後ほどの議論のなかで紹介できればと思います。
*「令和の米騒動」の教訓②
1個だけ言わせていただきたいのは、後の議論に関わるんですけど、どんなお米の安定的な政策があるのかということを考えるときに、政府が関与するという、一番目の公的な関与と、農家と食べ手の提携と、それから自ら作る人になるということですね。このあたりをあとで議論できればいいなと思っております。以上でございます。ご清聴ありがとうございました。
*市村さん
池上さん、ありがとうございました。それでは、これからパネルディスカッションの方へ移っていきたいと思いますので、パネラーの方はもう一度、席の方へお戻りください。
池上さんのお話のなかで、米騒動の背景と言いますか、米価格の高騰、米不足の原因等々、お分かりいただけたというふうに思います。ここからは生産、消費、流通、それぞれの立場のところで、この間の米騒動によってどんなことを考えてこられたかということについて、お一人15分という大変短い時間で恐縮なんですけれども、お話をいただきたいというふうに思います。まずは生産の現場ということで、新潟県の上越市の方で、山間地域の方で農業を営んでいらっしゃいます天明伸浩さんの方から、まずお話をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
*天明さん
新潟から来ました天明伸浩です。今日はよろしくお願いいたします。まず今、先生の話を聞いて面白かったなというふうに思いました。特に最後のところの、米が高くなったんではなくて給料が上がってないというところが、僕もそう思っていて、よく米が安いころに言っていたんですけれども、米が上がれば給料が上がるよっていう話を色んな人にすると笑われてたんですけれど、実際、もともとの米価というのは、労働者もちゃんと払えるというような形で米価が決まってたのが、やっぱり市場原理になって、かなり歪んでしまってたんじゃないかなという気がします。米農家も食べていけるし、労働者はそれで食べていける賃金をもらうということが、すごく大事なことじゃないかなと。それがなかったこの30年間っていうのは、逆に言うと、異常だったんじゃなかなというのをよく思っています。
じゃあ自分の話したい方に話をさせていただきます。令和の米騒動ということで、本当に米が話題になる期間がここに来てすごく増えました。それまで、米はいくらでも安く手に入る食材だというふうに思われていて、なんかどうでもいい食材、米を作って米を人に渡してもあんまり喜ばれない。プレゼントしても米か、という感じだったのが、今、米をプレゼントすると、すごくいいものをもらったというふうに、同じものなのに急に相手の表情が変わってくるということを体験しています。
で、この3月から百姓一揆をやったりして、それにも参加させてもらいました。そのときに「村無くして米無し」というプラカードを掲げました。村に住んでいると、どういうことが起きているかということをまず最初に話させていただくと、特に山間部に関しては、本当に人が減ってきています。ここ2、3年の間で、山間地に行ったときに、荒れている田んぼがものすごく増えてきました。平場でも出てきているんですけれども、山間地は急激に進んでいます。おそらく、これから5年間ぐらいのうちに、村が無くなっていくところがかなり出てくると思います。正直言うと、ほとんどの方が80歳以上という村が結構あるので、そういうところはもう、本当に村が消失していく段階に来てしまったのかなという気がします。
ただこれは40年前から分かっていたことなんですよね。村がそういうふうになっている。ただそこに対して、手を打たないんです。僕自身はもともと東京出身なんですけれども、30年前に新潟の山奥に入って米作りをしたんですけれども、やっぱり人がいなくなってくるということが一番大きな問題だろうなと思っていたので、若い人を呼び込むような活動をしたりとかして、何とか後継者が入ってきてくれたので、自分のところは何とか守っていけるのかなと思いつつも、大概の日本の山間地は大変な状態になっていくなという気がしています。
おそらく平場に関しても、あと10年すると大変になります。団塊の世代が圧倒的ボリュームを占めていて、その下というのは、もう本当に先細りしている状態なので、その人数だけで地域が守れるのかというのがかなり疑問です。その人たちがいなくなったときに、まあ農業が色んな機械を大型化するとか、色んなことで何とかカバーできたとしても、今度は生活が成り立たないという可能性が出てきております。本当に子どもの数も減っていて、30年前だったら、私の地区でも子どもがだいたい60人ぐらい、小学校の区でいたりしたところが、現在そこが7人になっています。100人ぐらいいたところでも、平場の方でももう20人しか産まれないというようなところになったりということで、この先の将来、本当に不安。米作りは何とかやったとしても、本当に生活が成り立たなければ、地域が守れなくて、そこで暮らしていけないということが生じてきて、地域が、土台が崩壊していくということになりかねない状況になっています。
この30年間の間、自由主義経済、新自由主義で、本当にこう儲かりさえすればいい、そのときさえ良ければいいということが続いてきた結果なんじゃなかなという気がします。米作りというのは、30年、40年、100年先を考えて、農地を整備したりということをやって、生産を維持していくんですけれども、そこがなかなか出来なかった。今の市場主義でいくと、そういう10年、20年、30年、40年先のことを考えての投資というのをなかなかさせてもらえない状況が続いてきたので、こういうことになっているのかなという気がしています。
この地方が消滅していくということに関しては、関東の農家は感じないんですよね。関東は、東京まで1時間ぐらいで出れる人たちは、あんまり恐怖感がないんです。東京からちょっと人が来てもらえばいいやぐらいな感覚なんですけれども。あとは各地方に行っても県庁所在地の方はあんまり危機感がないです。県庁所在地っていうのは、やっぱりそこにものすごい集積があって、色んな人が生きているので、なんかそこまでじゃないかなという気がするんですけれども、それ以外の地方都市は、ほぼ消滅していくんじゃないかなというぐらい人口が減っています。私の住んでいる上越市もそうですし、隣の県を見てもだいたいそういうふうな形になっています。そういうことがあっての米騒動なんじゃないかなっていうふうに個人的には思っています。
そういうなかで、地方の農村でも、大規模化が進んだ人と小規模な人の格差がどんどん進んでいて、そこがやっぱりこれからの農村に対する見方がかなり変わってしまったかなという気がします。都会でのやっぱり食える人と食えない人、本当に億ションに住んでいるような人もいれば、日々の生活が大変な人もいるということで、分断がかなり進んでしまったなという気がします。本当にこれでも少し書いたんですけども、ふるさと納税みたいに税金をちょっと付け替えると、タダでお米が手に入るんですよね、お金持ちの税金を納めている人たちは。いくら米が高くなっても、ふるさと納税で手に入る人たちは、何の痛みも感じないで米が手に入っているような状況で、僕は合法的脱税って呼んでいるんですけれど、そういう形があって、本当になんか意識の差、感覚が違ってしまって、同じ世界で生きていると思えないぐらい感覚が変わってきてしまっていて、そのあたりを米を買う側の政策にしても、作る側の政策にしても、それをこう皆が納得させながらやっていくというのは、すごく難しい時代になってしまったなという気がしています。
で、次の話になってくるんですけれども、今回の米騒動でどんなことが起きているかと言うと、完全にショックドクトリン、惨事便乗型資本主義、ここにいらっしゃる方は皆、耳にしたことがある言葉だと思うんですけれども、それが農業でも進んでいるなという気がします。突然、出てきたように乾田直播の話がバーンと出てきて、彼らが後ろで控えて、何か機会があったらやりたいと思っていたのが、こういう惨事のときにバーンと出てきて、乾田直播を突破口に遺伝子組み換えの種子を入れたりとか、色んな技術を新しく投入しようとしています。それは小規模農家がこれまで、ずっと育ててきたのとは違う新しい技術なんだろうなって。
それから先は、農家の手取りをどんどん減らして、機械とかメーカーさんにどんどんお金が流れていく形になるんじゃないかなという気がしています。これまでも農業っていうのは、機械化するたびに農家の手取りは減っていって、メーカーさんにお金が流れていくっていう仕組みだったと思うんですけども、それがより進んでいくかなという気がします。このデジタルトランスフォーメーションといったデジタルに情報が集積されていくと、おそらくこれから農家の技術もどんどんどんどん企業に吸収されていって、農家自身がだんだんモノを買えなくなってしまうんじゃないかなという怖さを感じます。
これまで有機農業的なものというのは、本当に農民が植物と対話したりとか、消費者と対話しながら進んできたものが、そこもみどり戦略でどんどん規模を拡大してデジタルが入ってくることによって、そういう形の有機農業、運動としての有機農業ではなくて、やっぱり企業化したような有機農業がメインになってしまう可能性があるなっていうのが、すごく怖さを感じているところです。これがどんどん進んでいくと、農家自身もこれまでは主体的な農民として、土と向き合ったりとか、自然と向き合ったり、人と向き合っていたのが、やっぱりあまりにも大きな資本になって、大規模農場であったりだとか、企業が入ってきて資本投下されてしまうと、やっぱり農家自身もこれまでの企業が派遣社員を部品に扱ったように、農民も部品になっていってしまうんじゃないかなという怖さを感じています。それの大きな今、分かれ道のところに来ているのかなという気がしています。
3つ目なんですけども、農業っていうのはやっぱり本当に地域の人たちと手を結び合ってやっていくようなものなので、もともとがすごく共生、いろんな人と共に生きながら作っていくものだったのが、やっぱりだんだんそういうものではなくなっているという気がしています。農業生産も本当にここに来て、気候変動の影響が出たりとか、あとは肥料・燃料が上がったりということで、すごく不安定になってきていると思います。
今、気候変動のなかでも温暖化がクローズアップされているんですけれども、日本の過去の冷害をみると、温暖化していても、例えばどこかで大きな火山が爆発すれば、いつ冷害になるかも分からないということは、これは肝に銘じておいたほうがいいなというふうに思っています。過去だって、やっぱり突然の火山噴火で一気に冷夏になるということが起きているわけで、それがこれから起きないということだってたぶん保証がないんだろう。だから温暖化、温暖化って言ってても、本当に壊滅的な収量が減少するのは冷夏なんですよね、日本の場合は。
山背が吹いて、太平洋側の稲作地帯が壊滅的になってってことを30年前にも経験しているんですけれども、人間はそんなことは起きないだろうという前提で今、世の中が動いているんですけど、いつ襲ってもおかしくないということは肝に銘じておいた方がいいと思います。そういう冷夏に対応できるっていうのは、やっぱり小さな農家が自分の田んぼに水を張って、深水をやってということをやって、初めて冷夏に対応できるんですね。そういう技術がベースにあるんですけど、そういうことを今言うと、そんなことこれからの時代にないみたいな感じで言われるんですけれど、そういうことに対応して米作りをやっていくということが、僕は米作りをやっていく人にとってはすごく大事なことだろうなと思っているので、そこを忘れている今というのは、すごく危ない状態だなというふうには思っています。
これから気候変動が起きてくると、東アジア全体でもおそらく気候はかなりブレる時代になったんだろうなと思います。日本人が食べている短粒米というのは、やっぱりすごくかぎられた人たちが食べている米で、まあ中国とか韓国、朝鮮、台湾などだと思うんですよね。そういう人たちとやっぱり農民の交流もしっかりしながら、不作になったときでもお互いの村を守りつつ、食べ物を融通し合うような環境を作っておくことが大事なのかなという気がしています。相手の農村を壊すような輸入・輸出ではなくて、やっぱり相手の農村を守りながらやっていくような交流をこれからしていくことが、すごく大事だなという気がしています。今、本当に東アジアの国際関係はよくないんですけども、戦前のように日本人ファースト、日本ファーストではなくて、お互いがお互いを尊重するような交流をしながら、お互いの食べ物の安心感を持てるような関係を作っていくことがすごく大事だろうなという気がしています。
今、日本の地方の状態をみると、はっきり言って、日本人だけではもう維持できない状況になっています。稲作地帯は比較的機械化が進んでいるんで、日本人だけで何とかなっているんですけども、たいがいの園芸地帯とか手のかかるところは、外国の方が、はっきり言って、ベースはそこの方たちが仕事をしてくれています。そういう人たちが来て、日本の気候にすごく喜んでいる人たちもいるんですよね。そこでずっと暮らしていきたいというふうに思うような人たちもいるなかで、そういう人たちとも一緒に農村をこれから作っていかなければいけないんだろうなという気がしています。その人たちを排斥するんではなくて、共にやっぱり気に入った人たちがお互いに農業を作っていく時代になっているんではないかと思います。
過去の日本をみても、縄文人が住んでいたところに朝鮮半島から稲作文化を持ち込んで、そこの人たちが新しくまた日本で暮らしていたように、日本でもそこで農業をやりたいといった人たちがいつまでも農業をやれるような村を作っていく、そういうときにもうなっているんだろうなという気はしています。なんで、排斥っていうのではなくて、本当に色んな人たちと手を結びながら共生して農業を作っていくようなことがとても大事だなというふうに思っています。
以上です。どうもありがとうございました。
*市村さん
はい、ありがとうございました。今の村の現状からこれからの村のあり方まで含めて、非常にダイナミックなお話をいただいたなというふうに思います。それでは続いて、米は流通の段階に入ってまいりますので、日本米穀商連合会専務理事の相川さんにお話いただきたいと思います。資料はこちらの方に、新聞農民の資料が入っています。それをまたご覧ください。じゃあ相川さん、よろしくお願いします。
*相川さん
日米連の相川と申します。本日は何となく、皆さんと違うことを言って、袋叩きに遭って、議論を深めていければなというふうに思っていますので、よろしくお願いいたします。
まず最初に自己紹介ということなんですけれども、私は農家ではなくて、米を扱ったことも実はなくてですね、父親は駅で売店、JRで言うとキオスク、個人経営だったんですけれど、キオスクみたいなところで商売をやっておりました。今から45年ぐらい前かな、私が高校生ぐらいのときに父親に、店を継がなきゃいけないのかなというふうに聞いたら、いやお前は継ぐな、やめろと。要するに当時出始めたコンビニ。このコンビニにすべて俺らは負ける、やめろと。これからはコンビニの時代が来ると思う。だからお前がこんな同じ商売をしていたらダメになるということで諦めろと言われたのを覚えています。それから30年ほどして、まさにスーパーを追い抜く勢いでコンビニがでかくなっているということを考えると、死んだ父親の言ったことは間違ってなかったのかなと思って今、感心しておりますけれども。
私も農業ではないですけれども、やはり中小の商店が元気に生き残ることが街の活性化、またお祭りとか、それの見守りの担い手ということで非常に大事なもんだと私は思っておりまして、米穀店というところにいますけれども、基本は商店街の活性化ということが自分のなかのテーマとして持っております。
今回の米騒動になりますけども、私のところに一番最初に米穀店で米がない、大変なことになると言ったのが去年の2月です。ただ消費者も業務用もそのことが一つも分かっていないから、何とかそれを言ってくれという話が2、3来ました。最初は一部、地域の話なんだろうなと。愛知県とか福岡県だったかな、地域の話だったんで、全国的な話じゃないんだろうということで無視していたんですね。3月に入って、北海道に出張に行ったときに、北海道でも同じことを言われて、これは大変なことになるなということで、去年の4月1日に農水省に行って、大変なことになるから何とかしてくださいと言ったんですね。
そのとき、農水省側は、計算上170万トン以上の在庫があると、5年産米作況指数は101だから大丈夫だと、量販店に米は十分あると。相対価格は10%しか上がってない、価格が上がっているのはスポット市場だけで長期契約していない君たち業者が悪いと。価格が上がることはむしろいいことだと、足らないというなら具体的な数字を持ってこいと、これを言われたわけですね。
悔しくて、当時の野党の国会議員のところへ行き、委員会で言ってくださいということでお願いしたところ、実際6年4月の委員会でお話して頂きました。しかし、農水省もこの同じ答えをしました。ということは、与野党の議員の先生はそのとき聞いているということです。今年の8月に自民党で農水省の職員が頭を下げている絵がありましたけども、いやいや、先生たち昨年4月に聞いているだろう。そのあと、ほかにも野党の議員さんが同じことを言っていただいたという記憶があります。そういう意味では衆参を通じて、何回もやっているのに無視したのは、議員の先生たちじゃないですかというところをちょっと言いたいというふうに思います。
そのあと、議員が言っても何も動かなかったということで、私どもはアンケートを取って新聞で公表しようと、それが5月でした。まだパニックになる寸前ですね。そのときに、ある新聞社の方が取材に来たんで、アンケート調査を、もうそのとき米が足らないというのが9割方だったんですね。それを新聞社に渡して、もしこれを公表したら、パニックを手助けしたことになるかもしれないけども、それは仕方ないよねって言ったら、その記者は記事を出さなかったんです、ビビッて。しかし、農業新聞さんは出していただきました。そのときに記者に、もしかすると君は大変なことになるかもしれないけど、覚悟はできているかなと言ったら、その記者は覚悟してますと言ってくれたのは、非常に嬉しかったです。やっぱり農業の味方なのかなという気が、そのときいたしました。そのあと、ご承知のとおり、パニックになったということで、こっちから見れば、そのとき4月の段階で対策をちゃんと打っていれば、もっと小さくて済んだのにということで、非常に忸怩たる思いということがありました。
農水省はそのあと何を言うのかと思ったら、南海トラフの地震情報のせいだと。お盆で物流が停滞したとか、転売ヤーだとかという話があって、非常に何でも他人のせいにするのが得意なんだなという感じがしたんですけれども、そのあとテレビで転売ヤーなんかいませんと言ったんですね。そしたらそのあとテレビで炎上しまして、あの専門家は何を言っているんだと。転売ヤーがいるに決まっていると。何と私の方が怒られるという、まさにネット、SNSというのは恐ろしいなと。
私はSNSをやっていないんで見てなかったんですけれども、娘が電話をしてきて、パパ、心折れてない。何を言っているのかなと思ったら、パパ、アッコにおまかせ!で炎上してるわって言われて、ああそうって見てはいないんですけれども、カッカカッカきたんで、翌日、会社に行って、反論を書いて、いいたいことがあるなら出てこいと、ちゃんと名前と顔をだして言えと、原稿まで書いたんですけれども、理事長に見せてところ、バカやろ、相手にするなと、また怒られて、こんなもんかなと思いながら、それでも言うべきことはちゃんと言わなきゃいけないなと、つくづく思いまして。
そのあとさっきお話があったとおり、備蓄米の問題ということで、ここでちょっと言いたいのは、備蓄米、出したのはいいんですけど、なかなか滞ったと。滞ったのは正しいことで、実は、これは農水省さんと話したときに、備蓄米を全農さんとかに出せば、流れると思ったんですね。流れないんですよ。この30年間に何が起こったのかと言うと、先ほど言われたとおり、お米がなかなか儲からないと。小売業者も卸から買っていたら儲からないから、生産者と直につながる。それから仲間内で融通し合うということが常態化してしまったと。要するに卸と小売りが切れてきたんですね。だから卸に物があっても、小売にはなかなか流れないと。これはある意味では、よくテレビで東京のお米屋さんが、ウチに備蓄米が来ないって文句を言ってましたけど、こっちから見たら、いや誰がお宅に持ってくるんですかと言いたかった。農水省さんが背中に背負って、お米を届けてくれるわけないでしょと。
ということは、誰が悪いと言うつもりはありませんけども、小売業者も生き延びるためには、やっぱり卸と縁を切らなければいけない状況もあったと。これは全農と中小の卸も同じような状況であったと。要するにある意味でサプライチェーンが切れていたということなんですね。ある意味、これ、戦争とかですね、こういった大惨事がなくて本当に良かったと思っています。これ、もしそんなことがあれば、米があっても誰も食べれないという状況になった可能性があると。これは私どものなかでは、もう20年ぐらい前からあるお米屋さんの方が、相川くん、これ、もし大惨事になっても、これ、お米は届かないよね、備蓄米は、と言った人はすでにいました。ということは、それが現実になったということなんで、ここをどうするかということは、やっぱり皆で一緒に考えていくべきなのかなということが一つ思っております。
それと、消費の減少ということで、長いトレンドのなかでは消費はたしかに減少しているということなんですけども、これ、私どもお米屋さんで出前授業というのをやっているんですね。小学校でお米の良さを再発見してもらおうということで、もう20年やっているんですけれども、この間、名古屋かな、お米屋さんで話を聞いたら、20年前に、朝、朝食を食べてるかと聞いたら、食べている人というのは40人のうち10人ぐらいしかいなかったと。なおかつ、その10人はよくよく聞いてみると、ご飯を食べてるって言う人は3人ぐらいしかいなかったと。ところが最近、朝食を食べてるかって聞くと、6、7割は食べていると。で、ほとんどがご飯を食べてるって答える人が増えてきたと。要するに今の子どもたちは、ご飯を食べ始めてきているんじゃないのという話をしておりました。
先日、これはまた違う話だったんですけど、その人、子どもたちに20年前からバッジをあげてたんですね。ジュニアお米マイスターっていうバッジを。あるとき、ウチに営業に来た男の人が、事前に調べますよね、ホームページとか。そしたら、私、15年前にお米屋さんの出前授業を受けて、このバッジを持っていますと、いまだに。覚えてくれてたんですね。そのところからお米を食べるようにしてますと。要するに、我々の小さな消費拡大運動が、ここにきて実を結んだと、私は思っております。
もう一つ、これはちょっと悲しいことかもしれませんけども、先ほど、手取りが増えていないというなかで、やはり日本人が少し貧しくなっているのかなという気がしています。エンゲル係数も上がっているということで、先日、そんな話である本を読んだら、要するに、景気がいいときは、収入があるときは、おかずを1品増やすと。おかずを1品増やすとお米の消費がさらに減ると。逆に給料が上がらないで、米が上がってしまうと、逆におかずが買えないと。おかずが買えないから、空腹のためにさらにお米が若干、増える可能性があると。まさに最近の状況と、消費者の状況が変わってきたのかな。やっぱり貧しくなってきているのが少し原因があるのかなと。これがいいことか悪いことかはまた別として、そういった動きがあると。これは農水省さんも資料のなかで、2人世帯以上の家計で米が少し伸びているという話をしております。
そういったなかで、消費が伸びてきているというふうに私は思いたいです。農水省も伸びた理由は言っていないんですね。消費はどうも伸びているらしいということは言っているけども理由は言ってない。私はあと、学校給食も影響していると思います。今、私ども60代はコッペパンでしたけど、今の子どもたちはずっと、もう20年ぐらい前から学校給食、これがやっぱり今の消費を少し押し上げていると私は期待しております。
でも今後、需要はどうなるか分かりませんけど、今の価格はやっぱり高過ぎると私も思っています。去年ぐらいの価格ならもっと消費が伸びて、もっと良かったんじゃないかと個人的には思っていますけども、今後のこのあとのパネルディスカッションを期待したいというふうに思っています。ちょっと長くなりましたけど、申しわけございません。これで終わりにします。ありがとうございました。
*市村さん
相川さん、ありがとうございました。非常に臨場感のあるお話をいただいてですね、そうだったのか、流通のところではもう去年の春先のところからかなり顕在化していたんだなあということを改めて知ったわけであります。
さて、それではいよいよこれから消費者の口に入るところまでいくわけでありますけれども、主婦連合会の常任幹事の山根さんの方からこの間の動きについてお話いただきたいと思います。資料は主婦連合会の色々、要求書等をご覧いただきたいと思います。よろしくお願いします。
*山根さん
皆さま、こんにちは。主婦連合会の山根香織と申します。本日はお招きをいただきまして、誠にありがとうございます。農民連さんとはご縁も長くて、四谷の主婦会館の前で産直市を開いていただいたり、学習会の講師をお願いしたりと、いつもお世話になっております。本日は令和の米騒動と日本の米を次世代につなぐということで、とても関心の高いテーマでありまして、ありがたく参加をさせていただきました。ただ討論とも書いてありますけれども、私に十分、その役が務めることができるとも思えなくて、不十分なところも多いと思いますけれども、また、ちょっと喉も弱いので、ご面倒をかけるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
池上先生から解説をいただいて、あと皆さんからもお話をいただきましたけれども、改めて、もっと怒らなきゃいけないなと思いました。消費者も生産者も皆、国とか大きな経済とかマスコミとかに振り回されっぱなしだなっていうのをすごく痛感しました。だからちょっと怒りたいなという気持ちです、今は。この令和の米騒動と言われる混乱は、本当に暮らしに直結する大問題で、今も続いています。米が店頭に並ぶようにはなりましたけれども、それで良かったと思えないし、話題になっているお米券、こうしたものの配布で安心だ、落ち着くということでもないと思っています。
今回の騒動で良かった点を挙げるとすれば、何気なく食べてきたお米やおかず、そして農業、農政といったところに国民の関心が高まったことだとは思います。高くて買えないから何とか価格を下げてほしいって声が多いんですけれども、一方で農家の方々の苦労を知らなかった、これまで考えてこなかったという声もたしかに多くあります。こうしたお米を始めとする農畜産物の生産や流通、価格というのが注目されている今こそ、中途半端な終息みたいなことではなくて、未来へ向けた日本の食や農のあり方というのをしっかり考えてほしいし、皆で作っていくときだなというふうに感じています。
ついでに言うと、今、税と社会保障といったところもすごく議論が出てきていますよね。ガソリン税とか消費税、給付付き税額控除といった言葉が出てきてますけれども、これも市民が自分事として関心を持つようになってきていると感じます。新しい政権が動き出しまして、これは正直言って、不安だらけなんですけれども、初めての女性総理ということもあって、政治に目が向いている今なので、市民がつながっていくことはとても大事なことだなっていうふうに思います。
前置きが長くなったんですが、主婦連について資料を入れていただいたので、簡単に紹介をさせていただきます。主婦連合会とは、という資料になりますけれども、1948年にできまして77年になります。台所の声を政治にと立ち上がった主婦が結成して、暮らしの苦情を社会化し、問題提起を行なってきました。かつてはオシャモジを持って割烹着姿で、お米よこせとか、値上げ反対とデモで訴えてきた、そういう歴史があります。そして今も変わらず、消費者の権利と命と暮らしを守る活動を続けています。
下に昨年から今年の活動を記載してあります。学習会というものでは、テーマはSTOP!大軍拡であったり、個人情報の保護や漁業の今と未来を考えるであったり、大気汚染、介護保険等々色々やってございまして、今年ではサプリメント食品について、そして次のページで9月には農業の今と未来を考えるというテーマで農民連の会長さんにお越しをいただきました。そしてここに記載できてないんですが、10月には農薬について知ろうということをテーマに農民連分析センターの所長さんにも講師をお願いして、お話を伺っております。
それから主婦会館のロビーの展示ですとか、行政や事業者等との連携事業等もありまして、次のページにあるように、意見書・要望書・声明等の発出に努めています。昨年は食の問題では、7月と9月に紅麴問題、これも大変、衝撃的な大問題なんですが、これを受けて機能性表示食品の制度や保健機能食品全体の抜本的見直しを求めるというものを出しております。
そして今回の米騒動とか米の問題でも2回、要望を届けています。それを資料にさせていただきました。3月には主食である米の需給および価格の安定確保を求めますというものを提出しました。そして11月、つい先週ですね、食料、農業政策に関する要望、消費者と生産者を守り、持続可能な農業政策の推進を求めますという意見書を提出しました。3月に出したものは石破さん、江藤さん宛。そして次に出したのが高市さん、鈴木さん宛ということで、短い期間にずいぶん宛先も変わってございます。
簡単に紹介をしますと、3月の方では、米不足を契機に高騰が続いていて、加工食品でも弁当、冷凍食品すべてが直結していて、子育て世代はもちろん、多くの国民が悲鳴を上げていると。お米は日本人の主食であり、食料安全保障の要です。何とかせよということを訴えております。備蓄米の放出も決まり、まもなく並ぶとのことですが、判断が遅れたし、それだけで解決する問題でもないと。持続的安定的に生産され、いつでも誰でもしっかり食べられるようにするために要望しますとして、次の4つを要望しております。読んでいただければと思います。
そして11月に出した方では、新政権は路線を180度転換をして、生産調整、価格維持へ舵を切ると発表しました。短期間に十分な説明もなく、こういった政策が変わることに不信と不安を覚えます。今、求められているのは、大いに生産し、自給率を向上させることです。農家の所得面での懸念には、生産調整による価格の維持ではなく、所得補償の形で支援する方策を整備すべきです。異常気象と戦禍が絶えない世界において、国民の命を守る安全保障の要は食料であり、それを生み出す農業です。輸入に頼らずに国民に十分な食料を安定供給をすることができ、将来にわたって国民の命と、農業・農村の持つ多面的機能を守れる状態を維持することです。消費者が払える価格と生産者にとって必要な価格をギャップを埋める必要があり、そこが政治の役割と考えます。
生産者にも消費者にも先を見通せる政策を打ち出してくださいということで、米の価格維持のための生産調整、減産ではなく、農家への価格保障や所得補償による、ゆとりある安定供給の形を実現すること。輸入依存の食料政策を改め、食料・農業・農村基本計画に明記されたカロリーベースで2030年に45%という目標達成を確実なものとするための政策を重点に据えて速やかに実施すること。食料を安易に貿易交渉の取引材料としないこと。これも強く言いたいことです。
そして物価高騰で苦しむ人々のための食料支援の制度を実施すること。生産者の減少を食い止める政策を推進すること。若者の農業参入を促進する経済的な支援や教育プログラム、女性や高齢者も従事しやすい環境を作ってほしい、支援してほしいとしています。
そして小中学校の給食の無償化、質・量の担保を速やかにすべての自治体で実現できるよう国が支援すること。また学校給食の地産地消と有機食材の活用を広げるために必要な働きかけを積極的に行なうこと、というものを出しました。これらが私たちの願い、今、求めていることになります。
取り急ぎ、以上です。ありがとうございました。
*市村さん
山根さん、ありがとうございました。このような形で、消費者の皆さんの方からも、やっぱり生産の現場をきっちりとしていかなければいけないということで、大変しっかりとした意見書も出していただいたということで、これらにつきましてはまた後ほど、討論のなかで生産と消費の今後のあり方について、また議論の一つの素材にしていきたいなというふうに思っております。