FFPJ第37回オンライン講座「『有機JAS』で重イオンビーム放射線育種は認められるのか?!」が4月18日に開催されました。講師はFFPJ副代表の久保田裕子さん(日本有機農業研究会副理事長、元国学院大学経済学部教授)です。以下は久保田さんの報告部分の概要になります。
皆さん、こんばんは。ご紹介いただきました久保田裕子です。今日は第37回の講座になります。「有機JASで重イオンビーム放射線育種は認められるのか?! 」というテーマでお話をしたいと思います。
今日のテーマの背景には、今、秋田県が種子供給事業で進めている「あきたこまち」から「あきたこまちR」への全面切替えの問題があります。「あきたこまちR」という新品種は、重イオンビームを利用した放射線育種(「コシヒカリ環1号」)の後代交配種です。そうした実際の話があるのですが、今日はそれは背景にあるということで、それに絡めて「有機JAS」の問題が出ておりますので、その点についてお話したいと思います。
*はじめに
はじめに「有機JAS」についてですが、ご存じの方が多いと思いますが、これは有機JAS検査認証制度における基準ですね。JASは、Japanese Agricultural Standards、日本農林規格を指しています。有機農産物、有機加工食品、有機畜産物などがありますが、今日のテーマはその中の「有機農産物JAS」についてです。
「有機農産物JAS」では、その中で遺伝子組換えの品種の種苗を使ってはいけないという規定があります。しかしながら、では、放射線育種技術で作られた品種の種苗ですね、それは使っていいですかという、そういう質問が出されて、それに対して、農林水産省の見解は、「問題ありません」という、そういう回答なんですね。そのような回答が昨年2024年7月1日に「有機JAS」告示の改定に併せて改訂された『有機農産物、有機加工食品、有機畜産物及び有機飼料のJASのQ&A』 (以下,『Q&A』と略。)に掲載されました。そこのところから見ていきたいと思います。
*本報告の構成
本報告の構成は次のようになります。
1.「有機JAS」の『Q&A』の問10-10における見解
2.ガンマ線時代の終焉と重イオンビーム放射線育種
3.世界標準―『IFOAM有機生産・加工の規範』で禁止技術に
4.国際標準―コーデックス有機ガイドラインで「除外」
5.農林水産省の「有機JAS」におけるゲノム編集技術の取扱い
6.消費者の期待と信頼に応える「有機JAS」へ
一つは、”世界標準”と言えるかなと思っているんですが、IFOAM(アイフォーム)、これは、International Federation of Organic Agriculture Movementsということで1972年に結成された世界の有機農業運動団体の連合体です。今は、名称はIFOAM-Organics Internationalと改称しています。民間といっても、国連の諮問機関にもなっている国際NGOですね。そこがとりまとめた『IFOAM有機生産・加工の規範』を見てみよう、と。
もう一つ、「国際標準」と言ったり国際規格、それから国際基準と呼んだりしていますが、政府間で取り決めた有機農業の生産・加工・流通から表示についての国際的な共通の規格基準のガイドラインですね。「コーデックス有機ガイドライン」と略しています。その基準について。
それから、今現在の日本の状況ですが、農林水産省の「有機JAS」におけるゲノム編集食品の取扱いについてです。じつは、ゲノム編集技術は重イオンビーム利用の放射線育種技術と似通ったところがあります。そこで、ゲノム編集技術について、現在、どのような取扱いがなされているのかということです。
これらを重点的に見ていって、全体像をつかみたいと思っております。
1.「有機JAS」の『Q&A』の問10-10における見解
まず、農水省の有機JASにおける放射線育種技術の取扱いの見解ですね。これは、昨年2024年7月1日の『Q&A』の中で、問10-10を追加しました。「問い」は、次です。
問10-10「有機農産物のJASにおいて、放射線照射を利用して品種改良された品種やこれらを祖先に持つ品種の種苗を使用することはできますか。」
「放射線照射」、「品種改良」という言葉が使われていますが、これは「放射線育種」のことです。なお、「育種」というのを漢字どおりに「種を育てる」と読んでしまうと間違います。これは、新品種を育成することです。品種開発とか、品種を作出するという、そういうことです。
その技術として「放射線育種」というのは、放射線を種子や作物体に照射して、そうするとガンマ線だったり、重イオンビームというような電離放射線は、透過性があるので、そのまま種子の中を通り過ぎていくわけですが、そのときに細胞とか染色体、遺伝子に損傷を与えます。それが修復される過程で元通りにならずにエラーになると、それが突然変異を起こすことになります。つまり、人為的に放射線を照射して突然変異を誘発させて、その変異を利用して新品種として育成するので、「突然変異育種」とも呼んでいるわけですが、そういう放射線を使った新品種の開発の技術ということですね。そしてここで、放射線育種というのは原子力テクノロジーであるということを言っておきたいと思います。
*「有機JAS」の『Q&A』10-10(答)
それで、回答は次です。
(答)有機農産物のJAS5.4.5において、組換えDNA技術を用いて生産された種苗の使用は禁止されています。一方で、放射線照射による品種改良は、同JAS3.6において定義された組換えDNA技術「酵素等を用いた切断及び再結合の操作によって、DNAをつなぎ合わせた組換えDNA分子を作成し、それを生細胞に移入し、かつ、増殖させる技術」に該当せず、有機農産物のJASにおいて放射線照射を利用して改良された品種やこれらを祖先に持つ品種の種苗を使用することは問題ありません。
なお、放射線照射による品種改良は、国際基準である有機のコーデックスガイドラインやEU等の有機規則においても禁止されていないものと承知しています。
回答は、放射線照射による品種改良は、組換えDNA技術には該当しません、だから放射線照射を使用して改良された品種の種苗を使用することは問題ありません、と言っています。組換えDNA技術とは遺伝子操作の中の一つの技術ですが、それに該当しないから、というのが回答なのです。
それから、「国際基準である有機のコーデックスガイドラインやEU等の有機規則においても禁止されていないものと承知しています」と述べていますが、私の今日の話は、そうではなく、禁止していますよと、そういうことを言いたいと考えています。
現行の「有機JAS」規定の中では、遺伝子操作の中の一つである組換えDNA技術を禁止しているのですが、参照すべきなのはやはり、コーデックス有機ガイドラインに立ち戻って参照しなければならないはずなのです。コーデックス有機ガイドラインでも放射線育種は禁止されていませんよ、というのが農水省の見解なんですけれども、もう少しきちんと見てみたいと思います。
コーデックス有機ガイドラインとは、これはコーデックス委員会、FAO/WHO合同食品規格委員会のことです。コーデックス委員会と言っていますね。これは、政府間の取決めになります。加入各国政府とコーデックス委員会とが何年もかけて、ステップ1からステップ8までのステップを踏んで、政府間で国際規格というものを作っています。「国際基準」、「国際標準」ですね。その有機農業や農産物に関わる基準が「有機的に生産される食品の生産,加工,表示,及び販売に係るガイドラインCAC/GL 32-1999」です。1999年にできて、その後いくつか改訂されています。
「有機JAS」とこのコーデックス有機ガイドラインとの関係ですが、WTO(世界貿易機関)の中の一つにTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)があります。関税だけでなく、規格基準なども貿易障壁になるので、標準となる規格基準をつくって各国はそれに整合化させようという協定です。
「有機JAS」の場合は、JAS法(日本農林規格等に関する法律)で「指定農林物資」として指定されており、「有機」と表示する場合には必ず認証が必要というような、そういう「強制規格」になっています。このTBT協定で、「強制規格」のものは、コーデックス委員会のガイドラインに準拠しなくてはならない、それよりももっと厳しいものを作ってもよいのですが、原則はそれに準拠しなくてはならず、決める前に通報して認められる必要があります。したがって「有機JAS」では、最低限、有機ガイドラインと整合性をとる必要があるということになります。
ですから、放射線育種技術の取扱いをみる場合も、現行の有機JASの規定でどうかということを見るだけでは不十分で、もともとコーデックス有機ガイドラインに準拠しなければならないという、そこに立ち戻って、コーデックス有機ガイドラインではどのような扱いになっているのか、そこのところをきちんと見る必要があるということですね。
2.ガンマ線時代の終焉と重イオンビーム放射線育種
さて、放射線育種の技術というのは、原子力テクノロジーです。原子力技術、放射線化学や放射線技術とか、そういう範疇の技術だと認識したいと思います。
原子力の産業利用ということで、医療に使ったり工業用に使ったり、放射線は様々なところで使われているわけですけれども、その中の農業利用としては、一つは「放射線育種」、それから「食品照射」があります。
「食品照射」は、放射線を食品に照射して殺菌・殺虫・発芽防止等を行う技術で、日本ではジャガイモの発芽防止のための照射だけが食品衛生法で認められています。これに対しては、食べものに放射線を照射してはいけないと、1970年代から消費者運動が熱心に行われて、ようやく2021年度末までで廃止され、今、国内生産はゼロ、食品照射施設も解体されました。
これには、ガンマ線という、放射性物質コバルト60から発生する放射線(電磁波)を使っていました。もともと国の放射線利用の振興事業として始まったのですが、それはすでに終わったということですね。
それから「放射線育種」についても、ガンマ線利用は、1960年代に始まり、同じように2022年度末で終了、廃止されています。これには、ガンマールームや広大な屋外放射線育種場(ガンマーフィールド)というものが稼働していました。もとは農林水産省が設置して、最近は農研機構が管理していたわけですが、日本の原子力委員会の政策のもとに、こういうものが作られて稼働していたということなんですね。
屋外放射線育種場には放射性物質のコバルト60が設置されていました。これは、茨城県常陸大宮市にあったので、2011年の東日本大震災の地震で損傷を受けたとのことです。そういう施設の損傷や老朽化も廃止の理由の一つですが、それだけではなく、ガンマ線を照射して突然変異を誘発させるのは、しかもその変異が農業利用に有効な変異となるには、かなり確率が悪い。それに比べると、重イオンビーム(粒子線)を使った方が効率的だということと、もう一つ、ゲノム編集技術が出てきた。そういうことで、時代としてのガンマ線利用の時代は終わった、ということです。
これからは重イオンビーム育種やゲノム編集技術の時代である、重イオンビーム技術の場合は、今の時代はゲノム解析を使って、特定の遺伝子が欠失していると同定できる時代になっている。かつてのガンマ線利用の時代からはかなり進んだ段階になっているんですね。図(写真)は重イオンビームの施設ですが、かなり大規模なものです。そういうように国の政策は転換しているということです。
いずれにしても、現在は、原子力テクノロジーと、それからバイオテクノロジーが連携して相互補完的に歩んでいるということになります。放射線育種の内部では、そのような変化が起きている、そういう事情が背景にあるということです。
3.世界標準-『IFOAM有機生産・加工の規範』で禁止技術に
それでは、世界の有機農業運動では、放射線育種の技術については、どのように取り扱われているのでしょうか。そこのところを押さえておきたいと思います。
国際有機農業運動連盟、IFOAMは、1972年に発足しました。当初、欧米主導で進められておりまして、1980年代の半ばからは、「有機農業の基礎基準」の策定に取り組みました。それは、各国がバラバラの有機基準では、国際間の輸出入の取引きが円滑にできないという理由と、それから基本的には有機農業の水準も高めていこうという、そういう運動的な側面も当然ながらあったわけです。それから、1992年にヨーロッパのEU統合がありますが、それに向けてヨーロッパ各国でバラバラの有機基準を共通のものしていこうという実際的な理由もありました。そういうことで熱心に有機農業の基礎基準づくりが行われ、それは第三者認証を義務付ける基準認証制度となり、その後も3年に一度の総会ごとに議題になって細かな改定を重ねてきました。
2000年代になると、南米からアグロエコロジー運動がIFOAMにも加わるようになり、輸出入向けというより、地域内での流通や農民が主になる運動的側面を加味しようというようなことで、IFOAMでは有機農業の原則(健康、生態系、公正、配慮)を決めたり、定義を決めたりしました。そういうものは「基礎基準」の中にもあったのですが、それを再定義したり、組織を再編したりして、そういう中で基準についても見直しがなされました。そうして、有機農業の原則や共通の目的と要件、基準と認証ということを取りまとめたのですね。それが『IFOAM有機生産・加工の規範(2014年版』です。
ちなみに、日本有機農業研究会は1971年に「有機農業」を掲げて発足していますが、1974年にはIFOAMに加入しています。日本では、生産者と消費者の「顔のみえる関係」をだいじにした「提携」で有機農業が広がってきましたが、他方、IFOAMの基礎基準などとは連携をとり、「有機農業の目指すもの10項目」やIFOAMの基礎基準を参照しながら『日本有機農業研究会の有機農業基礎基準」(1999年総会で制定、2000年に「有機JAS」との整合性図った)なども決めています。
IFOAMの有機農業の原則や基準は、まさに世界の有機農業運動の一つの集約された規範であり、”世界標準”と言えるかと思います。
*自然の摂理を尊重する有機農業の原則
『IFOAM有機生産・加工の規範(2014年版)』の構成は、次の4部から成っています。
Ⅰ はじめに―本規範書について
Ⅱ 有機基準の共通目的と要件 (COROS:Common Objectives and Requirements of Organic Standards)―IFOAM基準の要件(IFOAM Standards Requirements)
Ⅲ IFOAM有機生産・加工基準 (The IFOAM Standard for Organic Production and Processing)
Ⅳ 有機生産・加工の認証機関に対するIFOAM 認定要件(The IFOAM Accreditation Requirements for Bodies Certifying Organic)
第Ⅰ部は有機農業の原則や全体についての解説、第Ⅱ部、第Ⅲ部は相互に関連する文書になっています。とにかく128ページもある詳細な規定集です。
第Ⅰ部では、有機農業の原則や定義が述べられるとともに、第Ⅱ部の「IFOAM有機基準の共通目的と要件」(COROS)は、国連機関との連携で決められ、それらを踏まえた第Ⅲ部の「IFOAM有機生産・加工基準」はコーデックス有機ガイドラインとの整合性も図っていることが述べられています。
*IFOAMの「Ⅱ有機基準の共通目的と要件(COROS)」では
この「有機基準の共通の目的と要件」には10項目にわたり、有機生産・加工に求められる要件が書かれています。その5番目の項目に「5 確証がなく、反自然で危険性のある技術を(有機生産)システムから除外する」があります。原文は「システムから除外」となっていますが、この「有機生産システム」というのは、農業の有機的管理すなわち有機農業を農業の一つのシステムという、そういう捉え方をしていますので、いずれにしても有機生産・加工の全体から、「確証がない」、予防原則の考え方が入っているかと思いますが、安全なのか、環境に影響があるのかどうか確証が得られていないものは大前提として使わない、「除外」とか「排除」しなければならないという要件です。
それから「反自然」、すなわち、自然との共生とか、自然の摂理に反するもの、そういうテクノロジー、技術は、有機生産システムから除外する、大前提として禁止技術にするという要件を挙げています。そして、そういう技術として次の4つの技術を挙げています。
5 確証がなく、反自然で危険性のある技術(テクノロジー)を(有機生産)システムから除外する。
①遺伝子操作技術による生物(Genetically Modified Organisms)を有機生産・加工のすべての過程で使わない
②放射線照射(irradiation)
③動物の繁殖について人工授精以外の体外受精やクローン
④ナノテクノロジーの使用
まずは、遺伝子操作技術ですね。次に、ここに放射線照射というのが入っています。これは原子力テクノロジーという技術であると考えられますから、放射線育種も、それから食品照射も、両方とも禁止されている。とにかく、有機生産基準に入る以前に「除外する技術」であるという、そういう位置づけになっています。つまり、ここで、はっきりと、放射線育種技術は禁止していることがわかります。
*IFOAMの「Ⅲ 有機生産・加工基準(スタンダード)」では
次に、そういう共通の目標と要件を踏まえたIFOAM有機基準をみましょう。
IFOAM基準の4.8(P.43)に「有機農業で使う種子の育種」の規定があります。これはBreeding of organic varietiesとして、この項目は、品種を作出する育種に関する項目であると説明されているのですが、わざわざ1項目を設けています。有機生産ではどのような品種のものを作出すべきか、育種の方法について書いてあります。いろいろ書いてあるのでそこは省略しますが、その中の第4項に「4.8.4 ゲノムは分割できない実態として尊重されます。植物のゲノムへの技術的介入は許されません」と書かれています。
ここでのゲノムとは、生物が有する固有の遺伝子配列全体を指し、それは、単なる物質ではなく、全体として「生命体」、つまり生きもの自体を生かす働きをしているものです。
ゲノムは生命体とその生命活動の根幹にあり、それを分割したり改変させたりすることは、自然の摂理から逸脱する技術であり、有機生産の原則では、全体の実体を尊重すること、すなわち生きものとして扱う生命倫理が求められるということを意味しています。
そして、そういう自然の摂理や生命倫理に反するような品種の作出方法はダメ、と。その例として、「電離放射線」(放射線)を筆頭に挙げています。
放射線を照射して、遺伝子の一部を欠失させて人為突然変異を起こして新品種を開発するとか、そういう技術を使うことはダメですよ、そういう項目になっているのです。
これは先ほどの「IFOAM共通目的と要件」の4つの技術を除外するという要件に対応する品種の作り方の規定になるわけですね。
*IFOAM Family of Standards 世界各地の有機基準 IFOAMが同等性を認めたものの一覧
世界各国・地域では有機農業について、その目的や定義、基準認証制度など、さまざまなものをつくっているわけですが、IFOAMは、IFOAMの「共通目的と要件」と同等とみなされるような各国・地域、団体等の基準を「IFOAM Family of Standards」ということでIFOAMが承認したものを一覧表にしています。
その中に、日本の「有機JASの制度」というのも、その一員として入っています。そのことは、そういうIFOAMの、言うなれば”世界標準”とも同等、それからIFOAMは、これは次にみるコーデックス有機ガイドラインとも整合性を持っていると言っているので、「有機JAS」もそういうファミリーの一員ではあるんですね。
そういうことで、IFOAMの有機生産・加工の規範というものは、言うなれば”世界標準”と言えるのではないかと思います。
*EU有機規則でも放射線育種を「除外」
そういうことで、EUの有機規則でも、これらが反映されています。2018年にかなり大幅に改革して、それが2022年から施行されていますが、EU有機規則にはIFOAMの規範が全面的に取り入れられています。したがって、EU有機規則の中では、有機食物連鎖全体から動物のクローン、人工的に誘発された倍数体動物の飼育と、そして「電離放射線を排除すること」と書いてあります。有機生産基準に入る前にもう「除外」しているということなんですね。そういうことで、EUの有機規則でも禁止されていると言えます。基準以前に「除外」「排除」とされているので、基準では放射線育種の禁止という言葉は出てこないのですが、禁止技術であると考えるのが妥当だと思います。
4.国際標準-コーデックス有機ガイドラインでも「除外」
それでは次に、国際標準と言われているコーデックス有機ガイドラインではどうかというと、ここでも同じような基準の作り方になっています。やはり基準に至る前に、技術として除外されています。コーデックス有機ガイドラインの場合は、IFOAMの「共通目的と要件」に書かれているように明瞭ではないのですが、遺伝子操作技術のみを強調して、遺伝子操作技術は基準項目に入る前の第1章「適用の範囲」というところで「除外」すると述べてあります。
*「適用の範囲」での「除外」とその意味とは?
具体的にみると、「第1章 適用の範囲」というのがあります。ガイドラインは「農場での有機生産・・・」という、農場における有機的管理をどうするかから始まるんですね。使う種子についての項目では、有機生産の栽培方法で育った作物からの種子(有機種子)を使うという規定はありますが、そこでの品種については書いてありません。品種に何を使うか、どのような育種をするかについては、ガイドラインの基準内部では扱っていなくて、この基準に入る前の「適用の範囲」のところで「除外」する、すなわち、遺伝子操作技術とそれに基づく種子や生産物は有機生産では一切、使いませんよと、事前に除外しているのです。IFOAMの有機規範と同様に、そういう構成になっているのです。
ところが、日本の「有機JAS」の書き方はそういう構成にはなっていないのです。どのような種子を使うかについては、コーデックス有機ガイドラインに準拠して、有機種子、つまり、有機栽培で育てた作物から採種した種子を使う規定がありますが、「適用の範囲」で遺伝子操作技術の品種の種子を除外する規定は見当たりません。そういう種子に関して日本の「有機JAS」では、その種子や種苗の箇所(5.4.5)で、遺伝子組換え技術で作出した品種の種苗は使用禁止としているわけですね。実際には遺伝子操作技術という記載ではなく、「組換えDNA技術」と書かれていますけれども。
日本の「有機JAS」では、大前提として遺伝子操作技術全体を「除外」するのではなく、この使用する種子のそれぞれの箇所で「組換えDNA技術を使ってはならない」と規定している、そのような基準の構成上の違いがあります。この構成の違いをきちんと見る必要があるということですね。
*有機生産システムから「除外」の理由 「有機生産の原則に適合しない」という理由が重要
それで、その次のところが重要なんですけれども、有機生産システムから除外する、なぜ除外しているのか、その理由が重要です。ここで禁止の理由として「有機生産の原則に適合しないから」と書いているのです。
「第1章適用の範囲」
1.5遺伝子操作/遺伝子組換生物(GEO/GMO)により生産された全ての原料又は製品は、(栽培、生産又は加工のいずれについても)有機生産の原則に適合しないため、本ガイドラインの下では使用が認められない。
1.5 All materials and/or the products produced from genetically engineered/modified organisms (GEO/GMO) are not compatible with the principles of organic production (either the growing, manufacturing, or processing) and therefore are not accepted under these guidelines.
第1章では「有機生産の原則に適合しないため」認めませんと言っていて、その次の第2章にある「定義」では、さらにその理由についての説明をしています。
遺伝子操作/遺伝子組換え生物、また、それらに由来する製品は、交配又は自然な組換えによって自然に生じることのない方法で遺伝物質を変化させる技術を用いて生産される。
Genetically engineered/modified organisms, and products thereof, are produced through techniques in which the genetic material has been altered in a way that does not occur naturally by mating and/or natural recombination.
遺伝子操作技術/遺伝子組換え技術には、組換えDNA、細胞融合、ミクロインジェクション、マクロインジェクション、被包化、遺伝子欠失、遺伝子の倍加等が含まれる。遺伝子組換え生物には、接合、形質導入及び交雑等の技術に由来する生物は含まれない。
使ってはいけない理由、それは、「交配または自然な組換えによって、自然に生じることのない方法で遺伝物質を変化させる技術を用いて生産される」ものだから、という理由です。そういう「有機生産の原則に適合しない」方法、技術を使ったものだから、大前提として「遺伝子操作/遺伝子改変技術」(genetically engineered/modified organisms (GEO/GMO)をすべて「除外」するということになります。
「定義」のほうには、組換えDNA技術だけではなく、遺伝子欠失、つまりゲノム編集技術(SDN-1)のようなものも含まれています。放射線育種でも特定の遺伝子が欠失するわけですが、放射線育種の禁止については、遺伝子操作ではなく、ここにある「理由」で読み込めることになります。この「交配または自然の組換えによって自然に生じることのない方法」はダメという理由のところです。
これは英語の原文を読むとはっきりわかりますが、突然変異であっても、自然突然変異の利用はこれは伝統的手法なのでよいのですが、人為突然変異は先にみたように原子力テクノロジーを使っているわけですから、「自然な組換えによって自然に起こる」ものではないですね。英文では、「自然に起こる自然な組換え」と、自然突然変異のことだけを説明しているのです。
具体的に放射線育種ダメと書いてないのでわかりにくくなっていますが、遺伝子操作/遺伝子組換えを禁止するのと同じ理由で、放射線育種という技術は、技術(原子力テクノロジー)として禁止技術になりますよね。
*❝放射線育種による種苗は「有機JAS」で使用して問題ない❞ 農林水産省の回答(2024年9月30日 院内集会)
ところが、そこのところの農林水産省の回答は、いろいろ難しいことを言っています。回答「1」は、コーデックスでは遺伝子操作を禁止しています、ということでこれはよいです。回答「2」ですが、ここでは、放射線育種の技術についてではなく、放射線を照射して生じた遺伝子の変異のことに論点をずらしています。
農林水産省の回答(2024年9月30日 院内集会)
1 コーデックスガイドラインでは、「遺伝子操作 遺伝子組換え生物、また、それらに由来する製品は、交配または自然な組換えによって自然に生じることのない方法で遺伝物質を変化させる技術を用いて生産される」と定義されており、それらを遺伝子組換え技術として禁止しております。
2 放射線照射によって生じる遺伝物質の変化は、自然に生じることのあるものであることから、放射線照射による育種は、コーデックスガイドラインにおいても禁止されていないものと承知しております。
ここの解釈が、ずれています。コーデックス有機ガイドラインでは、放射線育種という「技術」を禁止技術としているのですが、そこのところでは、放射線照射という技術を使った後の話に論点をずらしていて、結果として遺伝子に変異が起きる、そうした変異は自然界でも起きる可能性がある、自然に起きる突然変異と結果としては同じ変化であると述べています。ですがこれは、納得できない解釈ですね、ということだと思います。
次の、JASを担当している(独立行政法人)農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の見解は、さらに難しい説明になっていますね。
「コーデックスに記載されている『自然に生じることのない方法』の 『方法』の部分を、どのように解釈するかだと考えている。JAS室としては、この『方法』とは、放射線を当てる行為や、ゲノム編集のために遺伝物質を導入する行為といった、欠損させる道具ではなく、欠損が起こるまでの過程を『方法』として考えている。」
(20241118 FAMIC説明会議事録より)
会議での説明の議事録からですが、「自然に生じることがない方法」というのをどのように解釈するかと言うと、「放射線を当てる行為や、ゲノム編集のための遺伝物資を導入するといった行為といった道具ではなく、欠損が起こるまでの過程を方法として考えている」ということでして、放射線を当てると遺伝子が損傷を受けて、それが自然に修復する、と。
こうした説明は、ゲノム編集は安全だと言うときの説明でも同じなのですね。ゲノム編集は特定のゲノムの部分(遺伝子)をクリスパー・キャス9という酵素のようなハサミのようなもので切って破壊して欠失させる。そういう遺伝子を改変させる技術を使うのですが、そこで人為的な技術を使うという、その技術に注目しないで、その技術で特定の遺伝子を破壊して、それでもって結果として遺伝子が修復されないでエラーになることで”自然に”遺伝子が欠失して変異してしまうと、遺伝子が欠失した変異の結果だけを見るのです。変異の仕方が「自然に修復される」という、そこのところだけに注目して、「従来の育種方法」(放射線育種含む)と同じ、だから安全だとかと、そういう同じ言い方をしているわけですね。
ですから、放射線を照射する技術を使うかどうかではなく、結果として遺伝子が変異して、新品種になっていく、そこのところだけに注目するので、放射線育種は自然に起きる自然突然変異と結果は同じになるんですよみたいな、そういう考えですね。
*リスクコミュニケーション ❝ゲノム編集技術を利用した食品ってどんなもの❞(2020年9月20日)の農水省配布資料より
これは、リスクコミュニケーションというのを食品安全委員会とか、行政機関がそういう学習会等をやったりしていますが、ゲノム編集の技術を利用した食品、ゲノム編集食品というのは安全ですよということを説明するためによく使われている図です。
全体が品種改良ということで説明されています。歴史をみていくと、長い年月のものが自然界の有用なものを選抜したり、自然界で起きた自然突然変異を選抜して有用な品種に育てたり、それから有用種同士を掛け合わせてさらに有用な品種に育てる交配法、交雑法という育種方法があります。例えば、黄色い大豆と緑色の大豆を掛け合わせてよりよい品種を作リ出していくというような、そういう伝統的な品種の作出の方法で、これは今も主流になっています。
それで、次に、ガンマ線利用の放射線育種が出てきます。ここまでは、品種間の交配をして品種改良するというのは、人間が手を下しているのはたしかですが、その技術の度合いが違うと言うか、自然界ではありえない強度のエネルギーを持つ放射線のガンマ線を利用して人為的な突然変異を誘発させるために原子力テクノロジーを使う。次に、バイオテクノロジーの遺伝子組換え、それからゲノム編集へ。
このような図では、重イオンビーム利用の突然変異の育種というものは、ガンマ線利用と比べると、ゲノム編集技術と同じ位置にあると考えられます。ゲノム解析で特定したり、ゲノム編集技術と連携したり重イオンビーム育種はゲノム編集技術と補完関係にある。ゲノム編集技術が出てきた時期と同じようなところに位置づけられるかな、と思います。
いずれにしても、放射線利用の人為的突然変異を使うか使わないものかは峻別すべきです。そのところが、ゲノム編集が安全だということを説明するときに、一面的に育種の方法が変わってきて、ゲノム編集技術もそういう品種改良の延長上にあるということだけが強調されて、ガンマ線利用の放射線育種とゲノム編集は、同じように安全だみたいな、そういう説明がされているのが、今のリスクコミュニケーションでの説明なんですね。重イオンビーム放射線育種もゲノム編集技術も、それぞれの技術でもって、ある特定の遺伝子を欠失させる人為的な技術であることを確認しておきたいと思います。
5.農林水産省の「有機JAS」におけるゲノム編集技術の取扱い
それでは、農林水産省のゲノム編集技術の取扱いはどのようになっているでしょうか。
一般の食品に関しては、2019年の7月には、ゲノム編集食品は表示もなくてよいし、届け出だけでよいし、その届け出も義務づけではないし、安全性の評価(健康影響評価)も要らない、それから環境への影響評価も必要ないと、そういうことでとりまとめられて2019年10月1日から、そういうゲノム編集食品が市場に出回ってもよいということになりました。とはいえ、では、有機食品、つまり「有機JAS」においてはどのような取扱いをするかについては、コーデックス有機ガイドラインに準拠しなければいけない、そういうことで、この時点までに農林水産省は「有機JAS」においてはゲノム編集技術を使った食品と食品添加物は有機認証できないという、そういう禁止技術にすると、そういう方針を立てました。それは本当に妥当だと思いますね。
ということで、農林水産省の当時の担当部署が、現行の「有機JAS」の規定では不十分であり、コーデックス有機ガイドラインにより忠実に準拠する方向性を決めました。現行「有機JAS」の規定を若干変更して、ゲノム編集技術を禁止技術とすることをはっきりさせる、明確にするという方針を立てて、パブコメもやって、それで2019年の12月10日に、日本農林規格調査会、審議会ですね、JAS調査会と略していますけれども、そこに諮ったんですね。
それで3回にわたってこの農林水産省(調査会事務局)の提案というものは審議がされたのですが、基本方針は、その方向で行きましょうということで第1回目に承認されたんですが、2回目、3回目と積み重なったときにいろいろ意見が出てきました。JAS調査会というのは、有機だけの”有機JAS調査会”ではないんですね。日本農林規格というのは、それこそお醤油の規格もあるし、蕎麦の規格もある、ハムの作り方もあるし、というような、有機に特化した審議会ではないんです。いろいろな意見が出まして、それで3回目のときに、継続審議にしますということで、継続審議になってしまった、ということなのです。
*日本農林規格調査会(JAS調査会)第1回目 2019年12月10日 基本方針を承認
その中身を見ておきます。コーデックス有機ガイドラインに準拠するということで、先ほど言ったように、「有機JAS」の現行の規定は、「遺伝子操作」という用語ではなく「組換えDNA技術」という用語で規定されています。とすると、現行規定のままでは、ゲノム編集技術までカバーできない。だけれども、もともとのコーデックス有機ガイドラインでは「遺伝子操作/遺伝子組換え生物」となっている、そこで、ここに立ち戻って、より忠実に変更しましょうという、極めて妥当な見直し案というものを提案していたわけですね。
ということで、12月10日の調査会ではそういう基本方針が了承されました。それからパブコメについても、賛成というのがものすごく多かった、普通、逆が多いかと思いますけれどもね。
*第2回目 2020年1月31日 具体的な改定案の文言を提案
それで1月31日、第2回目になると、農林水産省(調査会事務局)は具体的な文言を提示しています。
ここに転載したように、まさにコーデックス有機ガイドラインにある「遺伝子操作/組換え技術」という箇所、ここで自然で生じることのない方法によってという、そういう定義もそのまま引き写したものに変更しようという、そういう案を出したんですね。配付資料では、コーデックスではこうなっていますよという、そういうことも丁寧に説明したわけです。
*第3回目 2020年8月21日 継続審議に
ところがですね、ゲノム編集食品は科学的検証ができないじゃないかとかの意見が委員の1人から出されていました。それに対しては、農林水産省(調査会事務局)は有機の認証というのは、必ずしも科学的な検証をするわけではなく、社会的検証だと。疑わしきは使わずということで認証をしていると、こういう資料まで作って説明したりしていたんですけれども、いずれにしても、そういう意見が出ました。
それから、他の委員からは、日本だけが独自に結論を出せる内容ではないと思う、とか、海外の動向を見極めて、それまで慎重に見極めてからにするべきだ、とか、それから、ゲノム編集のSDN-1と2の部分ところは自然界でも起こり得る遺伝子の変化であるとゲノム編集は安全という議論ではそのようにとりまとめていたが、それと「有機JAS」での考え方が違うものでよいのか、ということも意見として出されました。
「有機JAS」では人為的に技術を使うということで整理すればよいわけですが、そのような感じの意見が出されたり、もっと慎重にとか、そういうブレーキをかけるような意見がたくさん出されたのです。
ということで、消費者団体の委員からは早急に改正を決めてもらいたい、それから表示の義務づけもしてもらいたいという意見も出たんですが、採用されていませんでした。
*「放射線育種」はどうなのかの質問と意見が出た(議事録による)
というようなことで継続審議になったんですが、その審議の中で、放射線育種はどうなのかという意見が出ていたんですね。先ほど言ったように、遺伝子組換えを禁止するのと同じ理由で、放射線育種も含まれるんじゃないかという、そういうことですね。
それで、そこのところをはっきりさせた方がいいんじゃないかとか、それからもう1人は、放射線育種を禁止技術とするのは反対だという、そういう意見を言う人もいたのです。やはりゲノム編集技術と放射線育種との、類似性というか、同じような内容を持つ技術ということで、ここで議論になったのですね。
いずれにしても、海外の動向くぉ見たらどうかとか、そういうことも含めて、いずれにしても8月21日には継続審議になってしまいました。
*【議事速報より当該部分を抜粋】
ということで、審議会の報告がホームページに出ますが、この回では異例の「議事速報」というものが出ました。
【議事速報より当該部分抜粋】
「有機農産物の日本農林規格等の有機4規格の改正について有機農産物の日本農林規格等の有機4規格におけるゲノム編集技術を使用したものの取扱いについては、その確認方法も含めて、EU等の海外の動向を踏まえたうえで審議すべきとの意見が多く、引き続き審議を行うこととなった。」
ゲノム編集技術を使用したものの取扱いについては、確認方法とか、それからEU等の海外の動向を踏まえた上で審議すべきとの意見が多く、「引き続き、審議を行うことになった」ということで継続審議になってしまいました。
EUでは今、ゲノム編集食品の流通を認めようか、どうしようかいうような議論になっている最中ですが、日本はもうすでに市場にゲノム編集の食品を出しているわけなのですが、以上、みてきたようなことで、継続審議になって4年以上も経っているということなのです。
6.消費者の期待と信頼に応える「有機JAS」を!
さて、最後の項目ですが、消費者の期待と信頼に応える「有機JAS」にしていかなければならない、ということです。
「有機JAS」は、有機農産物とかの規格基準になるわけですが、有機農業とはどのような農業かとか、有機食品とは何か、どういう品質、どういう作り方なのか、とか、そういうものに関して、それを基準という表現形態で、最低限の要件を決めているものです。
ですから、これがどうなるかは有機農家にとっても非常に重要なのですが、有機食品を購入する消費者にとっても非常に重要なものです。有機JASマークが付いているものを選ぶということで、そういう表示との関係でも「有機JAS」の内容に関わってくるわけですから、非常に重要な規格基準になるわけです。
それで、JAS法というのがあって、その「有機JAS」もその中で決められるわけですけれども、JAS法を見てみるとですね、JAS規格は「適正かつ合理的な規格を制定」するのだと書いてあります。それから、「一般消費者の合理的な選択の機会の拡大のため」ということも書いてあります。「関連産業の健全な発展と一般消費者の利益の保護に寄与することを目的とする」とも、この法律には書いてあるんですね。関連産業の健全な発展というと、「有機JAS」では有機農業の健全な発展ということになりますよね。
ひるがえって、「有機JAS」において放射線育種の品種を使ることについては、「適正かつ合理的な規格」と言えるのでしょうか。世界標準では禁止していますよね。国際標準と言えるコーデックス有機ガイドラインでも禁止している技術です。そういうような「有機JAS」を決めてしまってよいのですか、ということです。
JAS法の74条には、「食品衛生法と不当景品類及び不当表示防止法の運用を排除するものと解してはならない」とあります。ですから、景品表示法の方が優先するんですね。
ですから、世界標準を考えても、国際標準を考えても、放射線育種の技術で作った品種を使うということは禁止なはずです。だけれども、そうじゃないものが「有機」と言われてしまうということになりますと、どうなのでしょうか。有機JASマーク付きの有機米。今年の秋からは、重イオンビーム放射線育種のお米がスーパーの店頭に並ぶというようなことになりかねないわけです。一般消費者は、世界標準の有機を考えるのがふつうです。そうすると、日本の「有機JAS」では、一般消費者が誤認する不当表示になってしまいますね。そういう誤認を与える表示をしてはいけない、不当表示になるということなんです。
それは法律的にも国際標準、コーデックス有機ガイドラインに反してはいけないわけなので、やはり、この際、きちんと「有機JAS」のあり方を見直す必要があると思います。
「有機JAS」で放射線育種技術を認めてはいけないということを、15の有機JASの認証機関が要望書を出しています。それから市民消費者もですね、やはりこういうことを要求していく必要があるかなと思います。
ということで、消費者の期待と信頼に応える「有機JAS」にすべきだし、してきたいということですね。背景に「あきたこまちR」の問題があるのですが、重イオンビーム放射線育種の種苗を使ったお米を大々的に市販するというような、そういうことは、世界で初めてなのです。日本としては、世界に率先して、やはりコーデックス有機ガイドラインを正しく解釈して、それに反しない適正な「有機JAS」に改正して、重イオンビーム放射線育種の品種などは有機と認めないという、そういうものにすべきだ考えています。
具体的には、農林水産省は2024年7月1日に『Q&A』問10-10を新設して「問題ありません」、コーデックス有機ガイドラインでもEUでも禁止していません、というような解釈を見直す必要があると考えます。ぜひとも、そのような解釈は見直していただいて、消費者の期待と信頼、それから有機農家の期待と信頼にも応える「有機JAS」にしていっていただきたいと思います。