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【報告】FFPJオンライン連続講座第14回「オーガニックファーマーズマーケットで実現できること~新規就農者を育てて地域を元気に~」

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FFPJオンライン連続講座第14回「オーガニックファーマーズマーケットで実現できること~新規就農者を育てて地域を元気に~」が、5月20日(金)19:30〜21:00に行われました。講師は、FFPJ理事でオーガニックファーマーズ名古屋の代表を務める吉野隆子さん。多数のご参加ありがとうございました。講座の概要と動画(末尾)をアップロードしましたのでご覧ください。

皆さん、こんばんは。吉野です。この写真が運営しているファーマーズマーケットのコロナ前の様子です。この写真のような感じでたくさんの農家が集まり、朝一番はごったがえすので、ちょっと落ち着いてから、お客さんにも協力していただきながら、年に1回くらい撮っています。

前の方にいる子たちは農家の子どもと、近くに住んでお母さんたちに連れられて来る子どもボランティアの子たちで、この写真を撮るのをいつも楽しみにしてくれています。

今日の話は、オーガニックファーマーズの朝市がどんなところか、感じをつかんでいただいて、運営方法、実際にオーガニックマーケットを通して何が実現できるのかということをお話します。朝市を始めるときは「販路をつくりたい」とだけ思っていたのですが、ふとあるとき気が付いてみたら、オーガニックのファーマーズマーケットを通していろいろなことができるんだなあと気が付いたので、その辺りのことをお話します。

開始後、朝市村に就農について相談に来る人が現れて、相談に乗りながら、就農者がだんだん増えていきました。今のメンバーの半分以上はファーマーズマーケットのメンバーの農家が育てた、つまり自前で育てた農家たちでもあるんです。当時も「新規就農は難しい」と言われていたんですが、今でも簡単にはなっているわけではなく、その辺りもお話していきながら、どうやったら新規就農をもっとスムーズにできるのかということも、皆さんからご意見をいただきながら考えたいと思います。 

1.オーガニックファーマーズ朝市村概要

*朝市村の「オーガニック」「有機」の意義

まず番最初に、「オーガニック」とか「有機」とかという言葉をどう使っているかということを説明しておきます。朝市村ではシンプルに「有機農業推進法に準ずる」というふうに考えています。マーケットの名前にオーガニックと使っているんですが、「有機栽培」と言ってみたり、オーガニックと有機がごちゃごちゃと出てきたりで申しわけないのですけれども、同じ意味で自分の中では使っているので、ご理解いただけたらと思います。

「有機農業推進法に準ずる」ということですが、「化学的に合成された肥料および農薬を使わない」「遺伝子組換えの技術を使わない」、そして「環境負荷をできるだけ低減する」ということが基本になっています。有機の農家はそれぞれに自分のやり方があるので、絶対この方法でということは言わない。どういうことを大事にしているか、それを畑に確認に行って確認してから出店していただくようにしています。

農薬については、「有機JAS以上」と考えていて、基本的に何も農薬を使わないし、有機JASでOKとされているものも使わないというようにしています。

ただ、米の除草剤1回は、朝市村をはじめた20年前は当たり前だったので、良いとしたんですけれども、現在、ほとんどの農家は基本的に使っていません。ただ、まだ1軒2軒使っているところがあるので、使わない方向にしましょうということで今、お願いしていますが、ここがなかなか難しい。使っている農家も、米の栽培すべてにおいて除草剤を使っているわけではないのですが、使っているものもあるという場合は、ちゃんと表示をして販売してもらっています。果樹も同じで、無農薬で作っているブルーベリーや柑橘類はあるのですが、それ以外のものは減農薬のものが多いので、何をどれだけ使っているか、表示をしてもらっています。例えばブドウですが、「ジベレリンは使っていない」などと伝えることで、ジベレリンについても知ってもらうことができるので、大事な機会だと思っています。それで地域のどれくらい減らしているかとか、詳しく表示してもらっています。 

*開催までの経緯

開催場所はオアシス21という都市型の公園で、名古屋市が半分強で、残りは地域に関わる会社が出資しています。三菱UFJ銀行が加わっていますが元々は地域の東海銀行でした。オアシス21を作った当時の地元関連企業が出資して、第三セクターを作って運営しています。地下部分でやっているので、写真で浮いているように見えるのが屋根のような部分ですが、ここから風とか雨も吹き込むというようなところです。土曜日の8時半から11時半まで、年始はお正月にしっかりかからないかぎりは休みません。2004年の10月に始めましたが、当初は月に2回。でも私は後で話すような理由で毎週開催したかったので、ずっと「毎週やらせてください」ってお願いして、2009年にようやく毎週開催になりました。2016年に日本農業賞をいただいています。

私自身はこのマーケットをやる前から、有機農業学会の事務局や有機農業団体の事務局をしていました。それ以前は自分が食べたくて、有機の宅配で野菜を取り始めてそこのスタッフになってというところが始まりです。事務局をしていた頃、大学の先生や大きな農家が、「有機で就農する人は多いけれど、辞めていく人も多い。その理由は販路がないことだ」といつもおっしゃっていたので、自分の中ではそれが刻み込まれ、販路をいつか作れるようなことがしたいなと思っていました。

オアシス21側は、2002年に開業しました。「休みの日の早朝の賑わい」と「名物が欲しい」ということを当時の市長が考えて、たまたま私の知り合いでここに出向していた名古屋市の職員にそれを話して、彼はたまたまそれ以前。市役所の環境関係のセクションにいたので、「じゃあ有機の朝市だ」と思いついてくれて、私にお話をいただきました。それで2004年の10月から始めました。 

*コロナ禍での休止と再開

ですが、始めた当初は本当にお客様がいなくて、この写真に写っているのはほとんど関係者というかスタッフで、こんな感じでやっていました。

これはコロナ前です。8時半に鐘を鳴らして始めるんですが、農家のブースの前にピッタリついて、それぞれのお店の前で待ってくださるお客様が見られるようになって、始まった瞬間、みんなつかんでいたものを、「これお願いします」と差し出して、買い物をしているような感じです。

これがコロナ後です。コロナになってから2回休んだんですけれども、事務所のあるビルの下にスペースがあって、そこで3か月くらい開催させてもらうことができました。農家が作ったものがどこにも行きようがなくなるのが一番困るなと思っていたので、本当にホッとしました。オアシス21に戻ったときに、「周囲を囲って整理券を配布してやって」と言われて、周りを囲って整理券を配って、順番に入っていただくような形で、それを今でも続けています。整理券は7時過ぎに配り始めますが、オアシスが開く6時になると、お客様が来てくださって待ってくださっているありがたい状態です。始まるのは8時半ですから、何かそんなに早く来てくださって申しわけないな、その辺を何とかできないかなというふうには気になっております。これもコロナ前の状態です。動画を見ていただくと、真ん中あたりに列がありますよね。ちょっと落ち着いたくらいの時間ですけれどもこんな感じです。

これは開始前の準備です。一番たくさん研修生を育ててくれている農家と研修生の写真です。3時間でだいたい今だと、以前より減っていますが400から500人くらいは来てくださっています。今は閉鎖式なので、人数はかなり正確にカウントしています。フレンチとかイタリアンのシェフも来てくださっています。コロナのおかげで出店農家が減ったんですね。遠方から来る人は、「名古屋に行く」ということだけで、「菌の巣窟に行くのか」みたいなことを言われ、近所の集まりでも「2週間は来ないで」って言われたりするので、なかなか名古屋まで行けないという人が増えて、出店者が減って、今もそのまま来ていない人もいます。農家が少なめですがお客さんは前よりもしっかり買ってくださるようになって、1軒当たりの売り上げは上がっています。運営側の出店料収入は減っています。 

*私の立ち位置

私の立ち位置は元々イベント志向ではなくて、とにかく有機の農産物が売れる場所にしたいということ。それから農家がお客様に直接つながることができて、農産物と一緒に情報を手渡せること。有機の場合、いろいろな種類の「情報」があるんですけれども、栽培の方法であるとか、自分たちの思いとか、そういうのを一緒に渡すことで、お客様がずっとリピーターになってくださるということがあるなあと感じています。そして、農家がここで販売することで、自分の暮らしを立てていけるようにすること。それからお客様も、自分も含めてなんですけれども、朝市の農産物だけで暮らせるっていうこと。私もここの野菜だけで暮らしていますし、お客様もよく「ウチはここの野菜だけで生きているのよ」というふうに言ってくださって、何かすごくそれが嬉しいなと思っています。 

2.朝市村15の原則

朝市をどういうふうに運営しているか、ざっとまとめると15くらいあったので、駆け足でそれを説明させていただきたいと思います。

まず「オーガニックであること」。自然農法も有機農業推進法では有機農業に含まれていて、朝市村には自然農法でやっている人もある程度います。お客様も「有機じゃなくて自然農法の野菜が欲しいからどの人か教えて欲しい」ということを言っていらしたりして、その辺、かなり細かく気にしているんだなあというふうに感じます。

2つめ。「出店できるのは有機の新規就農者」。この場合の新規就農者というのは、基本的に非農家出身の本当にゼロから出発する就農者という意味です。だいたいメンバーは愛知県を中心に、愛知に接している岐阜と三重。最初はこの愛知・岐阜・三重だけでやろうと思っていたんですけれども、長野ではリンゴ農家、静岡は柑橘の農家がいるので、こちらとしてもぜひという感じがあって、来ていただいています。今は愛知県に接する5つの県でメンバーは限定しています。

3番目。「生産者本人が育てた農産物とその加工品を生産者本人が販売」。誰かにあずかって売ってきてって頼まれたものを売るのはダメです。本人が作ったものだけ。何故かというと、説明がちゃんとできるものしか売らないということをすごく大事だと思っているので、それは、厳しくやっています。この写真の農家はお米が中心で、もち米もつくっていて、あと山仕事、林業もやっています。この右側の茶色っぽいものはシイタケです。それでお米と、お米をお餅にして、この真ん中辺のはお餅ですね。玄米の餅と白いお餅。それから青い保冷容器に入っているのは、そのお米で作った糀です。だから野菜は栽培していなくて自然に生えているクレソンや山菜は持ってくるんですけれども、自分たちのスタイルはそのスタイルだと決めてやっています。

4番目。「屋根があり、一定の人通りのある場所で開催する」。雨でも雪でも台風でも開催できる。休まないっていうのは偶然、オアシス21という場所は屋根付きの場所だったからで、私自身はタープを立ててお洒落っぽくやれる方がいいんじゃないかなと思っていたんですけれども、実際にそういうところで販売する機会があったときに、びっくりしました。5月のこのぐらいの時期でも、1時間くらいで野菜がしおれちゃったりするんですよね。こういうところの販売は本当に難しいんだって、初めて知りました。屋根があるおかげで、雨でもここに来れば、ゆったり買い物できますし、台風とか雪でも結局、農家が準備をしているので来られるなら来てっていうふうに、無理強いはしないんですけれども、来てもらう。お客様も朝市村は休まないと分かっているから、来てくださるということです。2年前に大きな台風が名古屋市を直撃するという予報が出たときは、さすがに休みました。私と最初に朝市をしようと言い出しっぺ、今は市役所をリタイアしてボランティアでずっと関わってくださっている人と現場に立って、「今日はお休みです」と伝えましたが、たくさん来てくださったりしました。

5番目。「旬産旬消、加温栽培なし」。これは昔から有機の栽培の基本ですが、旬に出来たものを旬に食べる。最近は加温栽培も出てきていると聞いていますが、朝市村はハウスはOKですが、ハウスで重油を焚いて暖めたりという栽培はなしということでお願いしています。この人はさっき言っていた一番育ててくれた農家で、隣にいるのがこの頃、研修生だった女子です。

6番目。「栽培方法や状況はベテラン生産者と事務局が確認。有機JASは求めない」。畑に行って、確認して、大丈夫ということで出店してもらうようにしています。販売も顔を合わせて会話しながら販売するので、JASは要らないというふうに考えています。ちょっといけないことをしているグレーな人がいたことがありました。本人に私が確認すると、「農薬を使っていないし、加温もしていない」と言うんだけれども、「どうもこの時期にこんなものが出てくるはずないしな」とずっと思っていたら、お客様にも言われました。結局、あとで話す出店承認書というものを出してもらったときに、そこに間違えて書いてきちゃったんですね。それで分かって、「これはダメだよね」と言って、それで終わりになりました。そんなふうに辞めてもらうようなときもあります。

JASはメンバーの内、1軒の農家が取得しています。この農家は、遠方の有機の宅配の組織にまとめて出荷したりしているので、必須ということで取っています。信頼性はそれで担保できるんだろうということがありますが、まず、実際に畑とか田んぼに行って見るということが基本です。それでお話しして、出店していただくことを決めています。あとは消費者と直接、顔を合わせてやり取りすることで、大丈夫というふうに消費者も思うし、気になるようなことがあれば、消費者の方からそこのものは買わないというふうになっていくと思います。

これが出店承認書です。ちょっとコロナの前からおサボリしてしまって、今年は出してもらおうと思っています。これを出してもらい、事務局のテーブルの上に当日、置いておいて、これを見てもらえば分かるよというふうに伝えています。

7番目。「毎週開催でオーガニックを『日常』に」。先ほどお伝えしたように、最初月に2回で始めたんですけれども、ここの野菜だけで暮らすには毎週じゃないとダメだなということを思っていました。有機の野菜って日持ちがいいんですね。本当に冷蔵庫に入れておいても、たぶん2週間でも大丈夫なものが多いと思っていて、実際にお客さんもよくそういう話をしています。けれども1か月に2回だと絶対によそで買い物をしなくてはならないので、ここのものだけで暮らして欲しいという気持ちがすごく強かったので、毎週開催にしました。イベントじゃなくて、市として、毎日の食卓を担いたい。そういう気持ちです。

8番目。「出店料だけで運営」。補助金とかいただけ良かったんですが、補助金は永続的なものではないので、お金がなくなったら終わりというのはいやだなと思っていました。じゃあ最低限のお金だけでやっていけるような形にしようと、たいした形になっていないんですけれども、今のところは補助金なしでやっています。それも新規就農者でも出店できる価格設定にしたので、ずっと机1本1,000円でやっていました。農家の方から「収入が上がったから上げようよ」と言ってもらって、今は机1本2,000円です。もっと上げても良いかなというふうに思っています。

9番目。「生産者同士はライバルだけど大切な仲間」。この写真を見ていただくと、みんな大根を持っていたり、にんじんが並んでいたりしますよね。やっぱり旬産旬消だから、時期になると同じようなものが並んでしまうということがどうしてもあります。売れる人と売れない人がいたりすると、「あれっ、何でウチは売れないんだろう」と考えるきっかけにもなります。何でここのは売れるんだろうと売れる人のところに教えてもらいに行ったりとか、周りでみんなで話しあったりとかもしています。

実際、すごく仲が良くて、よくお互いの畑に行ったりもしているんですね。これは朝市終わったあとに仲間の農家に畑を見せてもらいに行ったよと書いてある通信です。この農家は自分が就農したときの知識はそんなに多くなかった。有機の知識はそんなに多くなかったんだけれども、他の農家に見学に行って、いろいろ聞きながら勉強させてもらって今があるっていうふうに言っていて、そういうのはすごく嬉しいですよね。この農家はすごく人気のある農家です。

それでライバルというところから派生して農産物の価格ですけれども、基本、周囲の人より安い価格を付けないということをお願いしています。これは安売り合戦にしないためです。相場に左右されないで通年で一貫した値付けをするというのは昔からの有機の基本です。ちょっとこれは見づらいかもしれませんけど、右下のキャベツ。いくら付いているか分かりますか?キャベツがない時期で、結構大きかったんですけれども、1個800円、900円とか付けているんですよ。でもちょっとしかなかったし、はじまる前に「試してみたら?」みたいな話をしていたのですが、あっという間に売れちゃいました。あまりこういうことは良いとは思わないんですけれども、自分がそれだけ苦労して作ったんだから、その価値を認めてもらうということも大事かなと思うので、そういうこともたまにはあります。

有機の農産物というのは、さっきお話したように情報を乗せて直接お客様に手渡すということがすごく大事で、それがリピーターとか顧客作りにつながっていきます。安売り合戦にすると、結局困るのは自分たちなので、そこは理解してもらっています。例えば全部売り切れというのはあまりなくて、最後にちょっと売れ残ることもありますが、少し多めに持って来ないと、遅い時間のお客様が買うものがなくなってしまうということがあるので、多めに意識して持ってきてもらうようにしています。そこで最後に残ったから安売りするってなると、それからお客様が最後に来るようになっちゃったりしますよね。なので、朝市では絶対に安売りしないということも守ってもらっています。残った場合には持っていくところを決めておいてもらって、直売所とかに入れています。

これは農家の子どもたちです。兄弟がいない右の男の子が、お兄ちゃんって左側の男の子を慕って、仲良く一緒に遊んでいました。子どもたちがまだ小さいので、何かこういうのは良いなあと思いながら見ています。

10番目。「消費者ボランティアが運営に関わる」。これはボランティアが一番多かったときで、コロナのときに一旦、ゼロになりました。さすがにどうしようと思ったんですけれども、また、徐々に増えました。ボランティアだから自分の都合に合わせて来てもらっているので、いつも同じ数がいるわけではないのですが、かなり働いてくれて本当に助かっています。子どもたちもコロナになってから減りましたが、ブースに入って一緒に販売したりしていて、それが食育になっていて、みんな野菜の知識もありますし、野菜も好きです。ゴーヤが好きとか、ピーマンが好きとか、普通の子どもたちとは全然違うなというのを実感しています。

11番目。「朝市村は畑の入口」。田んぼや畑、農産物について伝え、農業体験を受け入れる。これは初期にやっていた朝市村主催の体験で、今は農家それぞれが体験を受け入れる形でやっています。これは知多の農家で、ニンニクをたくさん作っていて、そこに大学生たちが体験に来てくれて助かっているそうです。一気に収穫して、ニンニクの場合はお掃除をしなきゃいけないから、それもみんなでワイワイやりながら畑でやるのも楽しいし、帰りにはニンニクのお土産付きというふうになっていて、本当にこういうのがあるからやれているというようなことを言っていました。

12番目。「おいしさの追求。野菜の品質を高める努力をする」。この農家はさっき研修中だった女の子が朝市に最初に出て来るときに、右側の男子を隣り合わせにしました。同じ先生のところで学んでいたんですけれども、時期が重なってなかったのでお互いに知らなかったみたいなんですね。それで隣り同士にして「めんどうみてあげて」と頼んだのですが、結局そこから結婚することになって、2人は隣り合う市と町で農業をやっていたので、自分たちの農地もそのままにつづけて使っています。どんどん種類も増えて、品質も高くなって今、お客様に人気のある農家になっています。

13番目。「新たな販路を探す努力」。これは本当に大事です。コロナのおかげで名古屋駅前でやっていたマーケットが休止になってしまって、そのあと農家から「続けてやりたい」と言われたんだけれど、いろいろ探してもなかなかコロナのおかげで決まらなくて、最終的に去年の8月から名古屋の駅前にあるビルで毎週やらせていただいています。グループ出荷も何か所かでやっていて、同じところで研修した人たちがみんなグループを作って出荷していたりします。

14番目。「有機での新規就農希望者を新たな生産者に育てる」。これは一番育ててくれた農家のところです。以前就農したいという人が何人も相談に来ました。私もそれを柱にするつもりはあまりなかったんですが、やっぱりみんな就農で苦労しているんだなというのが分かって、それとその当時、国の事業で有機農業参入促進事業というのに関わっていて、日本全国を調べても有機に関しては定期的に何曜日にこの場所で相談を受けますよということをしている場所がなかったんですね。朝市は毎週やるので、当時は月に2回でしたが、そこで相談を受けようかなということで始めました。並行して、講座を平日の夜、仕事をしながらでも参加ができるように月1回やっていました。今は中断しています。コロナも落ち着いたし、リアルではなくてリモートで再開したいねという話はしています。そんなふうで朝市を通して新規就農した人たちはだいたい愛知県だけで42人くらいいます。岐阜県に送りこんで就農した人もいるので、50人を超えていますね。今も研修中の人が7人います。

15番目。「地域を大切にしながら、つながりを広げる」。これは岐阜県の白川町です。有機農業をやりたいということで、白川町に入った人たちがそれぞれ地域でいろいろな試みをして、面白いことになっています。白川町というのは、「地方消滅」という以前話題になった本のリストの中では、消滅可能性が岐阜県で一番高いという地域です。人口で見ると、減っているばかりの地域ですが、2006年以降に朝市を通じて農家として家族が外から移住した人が、結婚相手が町外から来て、生まれた子どもも含めると今、44人になっていて、5月1日の人口でみると、町の人口の0.58%になっています。有機の水稲面積は2015年の数字ですが、役場の人が一軒一軒回って調べてくださったそうなんですね。その広さが町の水田の6.5%になっていたので、立派なものだなと思っています。 

3.オーガニックファーマーズマーケットを通して実現できること

ということで、一応、ここまでのまとめみたいなものですが、オーガニックファーマーズマーケットをやることでこんなことが実現できるよ、というような話をします。

1つ目は、これは当然ですが、「有機で新規就農した農家の販路開拓やマッチング」。

それから「中山間地に就農した有機農家と都市の消費者がつながって交流する」。白川町に去年の8月に行ったとき、偶然朝市のお客さん2人に白川町の別々の場所で会ったりしました。みんなあちこち行っているんだなあということを実感しました。

3番目。「消費者が農家で農業体験をする畑の入口」。

4番目。「毎週開催でオーガニックを「日常」に」。

5番目。「農家で納得いく価格で情報を乗せて販売」。この納得いく価格というのがすごく大事だと思っていて、安めに付けがちですが、自分たちが努力した分もちゃんともう少し乗せて、値付けできたらなあというふうには思っています。

6番目。「研修受け入れから就農後のサポートに至る新規就農希望者の支援」。これはさっき言っていた研修受入農家です。研修した人たちがコロナ前はお花見で集まっていたので、そのときに撮った写真で、これで全員ではないんですけれども、本当に良い関係ができているなというふうに感じます。

8番目。「様々な形で小さな農家を育てる」。FFPJそのもののような話ですが、全員が小さな農家で、それぞれがそれぞれに合うような形で育っていってくれれば良いなと思いながら運営しています。

9番目。「子どもボランティアとして関わることで、食に関心を持つ」。

10番目。「ファーマーズマーケットを通して、就農した人たちが地域の新しい力になる」。販売だけじゃなくて、意外にいろいろなことができるということがこれでお分かりいただけたのではないかなと思います。 

4.今でも新規就農は難しいのか

ここから新規就農の話をさせてください。さっき言ったように15年前くらいに就農支援を始めたわけですけれども、その頃すごく難しいと思っていたことが、今でも変わらずに難しいことがたくさんあります。 

*2020年センサス

まず前提として、5年に1回、農林水産省が取っている統計、農林業センサスから拾って作ったグラフを見てください。販売農家がどんどん減っていることがわかります。販売農家というのは経営耕地面積が30アール(3反)以上か農産物の販売金額が年間50万円以上の農家です。本当に激しく下がっていて、同じ数ずつ減っていったとしても、2040年にはマイナスになっちゃうというのが今の状態です。ここでいう農家というのは販売農家ですが、これを見ただけでもショックだと思います。農家というのは経営耕地面積が10アール以上か農産物の販売金額が年間15万円以上というところで、自給的農家も含んで統計を取っているんですね。

年齢別の数字を出してみたところ、こんなふうになります。これを見ても、64歳以下が30%で、65歳以上が70%っていうことに驚くんですが、よく見ると74歳から79歳、80歳から84、85歳以上というのがあるんですね。普通に考えて74歳以上とか80歳以上ってたぶん自給的にはできても、ガツガツ販売する、たくさん作って出すというのはなかなか厳しいんじゃないかなというふうに思って、ちょっと頑張れる74歳くらいまでを区切ってみると、人数が100万人を切ってしまうということが、私の勝手な表で見えました。この辺りは私が勝手にやっているので、今日は研究者の方とか行政にいらした方も参加してくださっているようなので、あとでご意見をいただけたらなあと思います。

一般に基幹的農業従事者って販売農家のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者というふうに定義されているんですね。それが136万人いるということになっていますが、実際はたぶん100万人を切るだろうなというのがこの表からも見えてきます。 

*簡単に農地は借りられない

こんなふうに農家の人数も減っているわけで、農地が集積されていても、農家は減っているんだから昔より借りやすいのではないかと思うかもしれませんが、実は農地はやはり簡単には借りられないんですね。最近、ある自治体に行ったときに聞いて、すごくびっくりしたことがあります。「ウチの市の農家は統計上200人います。でも業として農業に実際に携わっている人は7人なんです。そしてほとんどの人はこの7人の農家に委託しているんです」って言われたんです。そういうことなのかと本当にびっくりしたんですが、でも統計上は200人。農地を持っていれば、たぶん農家として手を挙げると思うんですよね。それで実際は7人しか農業をやっている人がいないと。

このときたまたま7人のうちの1人に話を聞いたんですね。この1人の人はまだ50代、息子さんも20代で後継ぎとして就農しているんです。でも、思ったよりも良い農地が集まらなくて、息子さんを就農させて失敗したということをはっきりおっしゃっていたんです。それもショックだったんですけれど、そういうところがすごく多いんだろうなというふうにこのとき感じました。 

*ある自治体の対応

実際にごく最近も農地を貸してもらえるという話が私のところに来ました。それで研修生といっしょに見に行って、研修生はそこを「借りたい」と言ったんですね。「借りてくれるなら嬉しい」とその話を持ってきてくれた人も言ったし、「ウチのも借りてちょうだい」と、近所の5、6人も話を持ってきて、結構集まったんです。集まったから正式に借りるために農業委員会を通してもらおうと役場に行きました。そうしたら、開口一番、「ウチは新規就農者いりません。担い手は足りています」と言われたんです。いろいろな事情があると思うんですけれども、地方の自治体って農業が盛んでないところは特に、農業専門の担当者がいなかったり、新規参入する人が入って来ることで仕事が増えるのは困るというようなことがあるのだと思います。借りて欲しいと言われて借りようとしているのに、来ないでくれと言われる。そんなことはたくさんあると思います。

知り合いが教えてくれたのですが、ある県のすべての自治体に、「有機の新規就農者を受け入れますか」という質問をしたそうです。不可とか原則不可という答えをしている自治体が6つあって、相談に乗りますよというところが2つ、可能とはっきり言ってくれたところが2つしかないんです。返事がないところも結構あったみたいで、有機で就農するのはハードルがめちゃくちゃ高いんだなということを今でもいつも感じています。 

*誰が農業を担うのか

そして借りられるのは耕作放棄地っていうことが多いんですが、今回のセンサスから耕作放棄地のデータも取らなくなったらしいです。たまたま農林水産省から「荒廃農地の現状と対策」というのが出ていたので、それを見たところ、荒廃農地が発生する原因として一番多いのは、「山あいや谷地田など、自然条件が悪いところ」ということだと書いてあったんですね。これって普通には農業をやれないようなところなわけです。でも新規の人はそういうところしか、そういう条件不利地しか借りられないことも非常に多くて、ふつうの農家、慣行で今までずっとやってきた農家がこんなところは要らないと言って、見放したような農地なわけです。そんなところで就農したばかりで技術もない農家が上手に栽培できるとはなかなか思えないですよね。本当に10年後とか20年後に私たちが食べるお米とか野菜を作ってくれる農家がいるのかしらって、こういうことを見ているとすごく感じます。

じゃあ誰が農業をこれから担ってくれるのか。これは新規就農者のセンサスの数字です。新規就農者が2015年までは微増していたのですが、そこから実は減っています。新規自営就農者というのはいわゆる親元就農で、親が農家で農地を持っているところに就農する人で、減っています。それから新規雇用就農者は雇用ですね。一番右側のオレンジのところは朝市村が面倒をみているような非農家から参入してくる人たちです。ここの数字は横ばいで大きくは変わっていないんですが、実感としてはこの半年、本当に相談が減っていて、これからもっと減るかなあという感覚です。本当に激しく減っていくんじゃないかなというふうに思っています。

基幹的農業従事者が5年間、センサスの期間のあいだに39.4万人減っているんですね。これを1年にすると7.9万人減っているという、平均するとこういう数になるんですけれど、5万3千くらい増えていても7.9万人減っているので、減る一方だということはここからも見えてきます。 

*新規就農者に安定した支援を

どうやって新規就農者を増やして育てればいいのかということにすごく悩んでいて、一番大きいのはやはり支援する体制ができていないということなんですね。本当に困ったなと思っているのは、政策が不安定で、新規就農者のための補助金、次世代人材育成投資資金というのがあるんですが、それを受ける要件が2~3年ごとに内容がコロコロ変わっていってしまうことです。朝市村はそれが始まったときから愛知県の研修機関をやってきて、変更があった時点で30人以上は育ててきていたんですけれども、ある年、急に政策が変わって、研修機関を外されちゃったことがあるんですね。周囲でもその資金を使って就農する予定で会社をやめたりして準備をしていた人たちがみんなハシゴを外されて、「もう仕事も辞めちゃったのにどうするの」という状態になりました。そういうことがあったので、いま制度があってもそれが頼りにならないんじゃないかって思うだろうなと感じています。

それから、行政の農業部局がほとんどのところで小さくなっているということ。そして教える人とかサポートする私みたいな人間も不足しています。

また、新規就農する人は優良農地が借りられない。優良農地はなかなか出てこないんですよね。地域内で受け渡しするということはあるらしいのですが、新規ではなかなか優良な土地を借りることができない。そして機械とか施設を持っていないので、そこにもお金を投入しなきゃいけない。新規就農する人はよくやるなぁと思うし、私は絶対にできないなと思います。 

*有機のちょっと明るい未来

親元就農の人については、相談を受けていると、「代替わりのときに有機にしたい」という人が増えてきていて、こういう人たちってすごく可能性があると思っています。何故かというと、たぶん優良な農地も多いと思うんですけれども、元々農地がある。それから機械や施設を持っている。そして親が教えてくれる。有機の技術はありますが、基本は慣行の技術というのがすごく大事なんですよね。なので、教えてくれる人が傍にいるということがとても大事だと思いますし、行政も親がやっていたんだからと言って、安心して支援してくれるということがあります。

そして、定年帰農の人がいます。最近も相談がありましたが、お米の値段がすごく下がっているので、ちょっとお米は無理かなと思うということも聞きました。一方で、農地は集積したけれど、この農地を次は誰がやるの、自分たちはみんな高齢化してしまってどうしようというような話も聞くんですね。その米の値段が下がっているとか、化学肥料が今、高騰しているというようなことと併せて、みどりの食料システム戦略というものがつい最近、法制化されたんですけれども、こういうことを考え合わせると、農地面積の54%は水田であり、水田は有機化しやすいということがあるので、有機でお米を作って、値段は有機の価格でちゃんと扱ってもらえれば、今よりは良くなりますよね。有機の給食向けの需要が増える可能性もあります。

一方で、集落営農でも本当は有機でやりたいけれど、集落の中に借りられる田んぼがない。けれども慣行の集落営農のオペレーターをやっている人から「もう自分たちはこの年齢でできないから、あなたがやりなさい。有機でやっていいよ」ということになりそうという話も聞いていて、そういうことを考え合わせると、有機をやっている人に、ちょっと明るい未来があるのかなという気持ちにもなっています。

ということで、ちょっとまとまりがない終わりになってしまいましたけれども、皆さんのご意見を聞かせていただけたら有難いです。よろしくお願いします。ありがとうございました。