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【報告】FFPJオンライン講座第18回:小規模・家族農業と6次産業化・「農山漁村発イノベーション」

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FFPJオンライン連続講座第18回「小規模・家族農業と6次産業化・「農山漁村発イノベーション」が10月14日(金)に開催され、43カ所から参加がありました。講師は、亀岡孝治さん(FFPJ理事、信州大学社会基盤研究所特任教授、一般社団法人ALFAE 代表理事)。小規模家族農業の6次産業化とはどんなもの? その発展形の「農山漁村発イノベーション」とは? 以下は、亀岡さんの講義部分の概要になります。末尾までいくと、動画をみることができます(亀岡さんの講義資料はこちら。また、講義についてコメントしたFFPJ常務理事・近畿大学名誉教授の池上甲一さんの資料はこちらです)

それでは「小規模・家族農業と6次産業化・農山漁村発イノベーション」というタイトルでお話したいと思います。今日の内容ですけれども、自己紹介したあとに農業と社会、それから私は愛知県の農山漁村発イノベーション、6次産業化サポートセンターの有識者という形で動いていますのでその話、それからフードシステムのあり方。いま6次産業化から農山漁村発イノベーションという言葉に変わってきていますので、それはどういう意味なのかといったような話で最後にまとめたいというふうに考えています。 

◆自己紹介

最初に自己紹介を少ししたいと思います。私自身、和歌山県のミカン農家の長男で、農業をある意味、捨てて大学に進学したという格好です。大学では「籾の乾燥に関する基礎的研究」というお米の研究をしたわけですね。それからカナダに留学して、それでカナダから三重大学に赴任したという格好です。

三重大学ではバイオインフォメーション、生物情報を研究していました。具体的には、農業に関する形で言いますと、お米の食味計を開発したりコーヒーをやったり、それから当時元気だった雪印さんと一緒に研究をしたり、そんなことをしていました。それからスウェーデンで1年過ごして、それで三重大学に戻って、大学を法人化したときに理事副学長になった。同時にそのあたりで三重大学では資源循環学科という新しい日本で初めての資源循環を考えるようなところができましたが、そこのコンセプト構築というのも行ないました。それで3年くらい理事副学長をしてまた戻ってきて、フードシステムの研究をして定年を迎えたという格好です。

・三重大学での教育・研究

実際にやってきたことを図でお見せしますと、最初にこういうデジタルカラーチャート。これはシャインマスカットのデジタルカラーチャートですが、こういうふうなものを作りました。それからマルチバンド分光センシング。光を使ってというので、カゴメ総合研究所でまず行なって、それからハワイのUCCコーヒー農園で、農水のプロジェクトで総合的な実験を行なったと。それからセンサーネットワークをサントリーの山梨にある登美の丘ワイナリーというところとずっと一緒に定年までやってきています。それから三重県では熊野にあるミカンですね、柑橘でやってきています。それから植物工場は国の植物工場拠点を三重県に誘致するということを国から頼まれて行なったと。それからJA全農さんとはアンジェレという戦略的なトマト、これは富士通さんと一緒に色々な環境計測とかデータ解析というのを行なった。その中でこういうやはりカラーチャートを開発しました。最後に植物の健康診断を長野県の塩尻でサンサンワイナリーさんと、あるいは京都府の与謝野町で稲作というようなこともやってきたという格好です。

・ALFAE

それから2007年からは一般社団法人ALFAEというのを立ち上げまして、これは国のプロジェクトというのが終わって、そのメンバーがバラバラにならないようにするためにこういうものを作ったわけです。ここの中で食のアカデミーという商標を取りまして、実際に原料の農産物を我々が紹介しながら、一流のレストランのシェフにそれを料理してもらって、色々と皆で考えるといったことをやってきました。いま去年の8月から信州大学の社会基盤研究所に特任教授という形で入って、AI・ロボティクス部門の中で農業を考えていくような格好で動き出しています。 

◆農業と社会(データ駆動型社会、環境・気候)

*農業を取り巻く社会の動き

さて、本題に入っていきます。まず農業と社会ということで、農業を取り巻く社会の動きを少し考えたいと思います。よくこの頃、DX(Digital Transformation)とか言われているわけですが、デジタル社会が動き出すのは、1975年あたりにパソコンが登場してきてからなんですね。パソコンができたことで何が変わったかというと、いままで研究分野にしかなかったコンピューターというものが、一般の人の手に入ったということが大きいわけです。ただ実際にデジタル革命という革命になるには、社会の働き方が変わらなきゃいけないわけですが、実際にコロナ禍ということもあって、2020年頃から働き方がガラッと変わってきたわけですね。それでようやくデジタル革命が動き出したと。いまQRコードが全盛になっていますが、これは1994年にデンソーが開発しているんですね。ですからこういう日本のものが日本人の手じゃなくて、外国人の手で本当に使えるようなものになってきたという形もあります。ここに書いてあるように色々、iPhoneができたりTwitterとかLineとか、それからいまやっているZoomもそうですが、そういうものが動いてきている。これらを農業のなかにも生かしていこうということが重要になってきています。

もう一つの動きがGX(Green Transformation)ですが、このなかでキーワードになるのが、よく聞かれるIPCC、気候変動に関する政府間パネル。ここで重要なのは、2019年に特別報告書というのが出て、Climate Change and Landと書いていますが、要するに、農業のところから温室効果ガスがメチャクチャ出ているよと。例えばメタンの話ですとか亜酸化窒素の話ですとか、あとは農業機械から出るもの、施設から出るもの。こういうものが出ているから、農業も実は環境に優しい産業じゃないんだよと。それからPlanetary boundariesの方からは、窒素の循環の問題、リンの循環の問題、こういうものが指摘されてきているわけですね。

日本の場合は色々とこういうなかで、6次産業化というのが2010年に起こってきた。今日はこれが本題になります。それからソサエティ5.0。これは国がデジタル革新というものを掲げているわけですが、これが実は農業にも影響を及ぼしているという格好です。それで2018年にスマート農業の推進によるソサエティ5.0の実現というようなことを言い出しているわけです。基本計画が掲げられて、EUのグリーンディール(Green Deal)を真似るような形で、みどりの食料システム戦略というものが動き出している。こういうふうな流れになっていて、そのなかでスマート農業という言葉がやたら動いているわけですね。

*スマート・オコメ・チェーンコンソーシアム

こういうなかでもう一つ、スマート・オコメ・チェーンコンソーシアムというのが去年の8月に農林水産省で立ち上がったんですが、私はそこで副会長をしています。これは機械化一貫体系で農業が組み立てられてきた稲作を、すべて田植え機だのコンバインだのトラクターだの皆、コンピューターを持っているから、データ一貫体系として、消費者までデータでつなぐようなものに組み替えようよという取り組みです。いま150団体くらいが入って色々なことを議論し始めているといったようなところです。

*Sustai-N-ableプロジェクト

もう一つ、サスティナブル(Sustai-N-able)プロジェクト。窒素の循環のプロジェクトです。これは京都にある地球研(総合地球環境学研究所)が、世界の窒素の研究とつなぐような形で立ち上げた研究ですが、このなかでも私がメンバーとして入って、農業における窒素循環というものを考えるような立場になっています。 

◆愛知県農山漁村発イノベーション(6次産業化)サポートセンター

そういうなかで今日の本題の6次産業というところに少し入っていきたいと思います。 6次産業化というのは、ここに絵に描いているように、農林水産物から加工販売、それを流通で売っていくといったような形で、農家の所得を向上させようよという話です。サポートセンターというのは、そういうことをしようと考える農家さんに対してサポートする。私はその地域支援検証委員会の有識者として参加しているわけです。この愛知県の事例を少し紹介しながらお話していきたいと思います。

*地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律

まず6次産業という概念ですが、これは1992年に今村奈良臣先生が、農業がゼロになれば全体がゼロとなり、6次産業が消滅するというので、1×2×3=6という形で作ったものです。足し算をしても6になるんですが、相乗効果があるということで掛け算だという概念です。2008年には農水に先駆けて、農商工連携というのが動き出して、それで2010年にこういう長い地域資源を活用した云々という法律、6次産業化法というのが登場するわけです。このアイデアのなかで、重要なのが地域資源の有効活用という部分と、農山漁村地域の再生活性化、こういうものがキーだったわけです。基本課題は所得向上、それから国際認証、企業性を追求する、環境保全、人材育成。こういうのが基本課題として挙げられていたわけです。

*6次産業化リテラシー

このなかで一番最初に皆さんにお話したいのは、6次産業化リテラシー。6次産業をやっていくなかで、考えなければいけないというところですね。

・農産物から食品・商品へ

農業だけやっている場合には農産物という概念で動いているわけですが、6次産業というなかになると、食品とか商品という概念に変わっていくわけですね。それからもう少し、事業というものを組み立てることを考えなきゃいけない。企業なんかがコーポレート・ガバナンスというようなことを言われますが、ガバナンスとか法令遵守とかコンプライアンスとか、こういうふうな概念を持たなければいけない。それから先ほどから6次産業でご説明していますように、1次が一番重要になりますから、その原料品質、要するに農産物の品質を設計する立場になるというわけですね。

それでテロワールとビンテージ。これはワインで使われる言葉ですが、テロワールというのは要するに、大地の木の恵みとかそういう話。それから植物自体を考える話。それからそれをマネジメントしていくという話ですね。それからビンテージというのは、毎年、農産物は違うものができてくるから、当然、加工食品になると違うものになるよという概念ですね。それはワイン、ブドウ栽培だけじゃなくて、ほかのものにも通用する概念なんですね。それから定時・定質・定価・定量と。それを出荷するような形になると、一軒だけじゃなくて、皆でまとまってこういう品質をそろえ、ある時間に、ある量を、定まった価格で出していくということが必要になる。ということは値付けが必要になるということですね。で、記録、情報化、データ、知識・智恵というところです。要するに、農業のなかでやってきたことを記録していこうよ、情報化しようよと。それが結局、消費者まで伝わるようにしようよと。

それから環境問題の視点、それからデジタルマーケティング。要するに作ったものを売っていくんじゃなくて、消費者が本当に欲しがるものを売らなければいけないという考え方になりますから、消費者から戻ってきて、消費者の考え方を反映したような生産を考えなきゃいけなくなると。マーケットイン、カスタマーインということですね。それから顧客データベースが要るようになるということです。

・フード(食・農)システムの視点から

それからフードシステムの視点から考えますと、食に対する関心が必要になる。要するに農産物に関心があるけれど、食に対して関心がないというのは困るわけです。ですから、もっと農産物と加工食品の違いも分からなければいけないし、農産物から食品素材に変わっていく部分。それから調理っていったい何なんだろうと。食品加工を考えるときに、色々と、乾燥だの貯蔵だの冷凍だのとか、色々な操作があるわけです。それを考えていく必要がある。

それから食の安全・安心というのを考えなければいけない。もう一つ、国際認証ですね。GAPの話であるとか、もっと品質の連続系の話で9000という品質の部分、環境の14000、食の22000。こういった考え方を身につける必要があると。それから理論と実践と哲学。個人農家としてやっていく場合にも、やっぱり意識を改革しなければいけない。それから地域振興と地域ネットワークのメンバーとしての意識。1人じゃやれなくなるわけですね。もっと地域で皆で考える。地域プラットフォームというものを考えるといったような視点が大事になる。 

*食の文化マップ

それから食がどう文化と関連付いているのかという意識。調理・食品・健康に加えて、例えばここに歴史学とか生態学とか民俗学とかありますが、それに季節学というのがあるんですね。生物と季節が関係しているというふうな概念。これは自然の話で、季節とか旬とかいう概念。お月さまが中心になる太陰暦、これは農事歴になっているわけですが、その概念にプラス、天文の季節の二十四節気、それを細分化して農業で作業をしていくときに分かりやすくした七十二候とか、そこらへんの話。そういうふうなものと考えていくと、季節との関係で植物を見るような見方というのが、もっと楽しい形で作り上げられていくというようなことになります。

*農産物から「食」へ(和食の特徴)

それから農作物から食へという概念ですね。和食の特徴というのは、季節ごとに食べ物がある。それを四季という概念と共に感じてもらおうということですから、この旬の概念というのがすごく重要になるわけですね。それからもう一つ、食で考えますと、和食というのはこういう形ですね。それから和菓子というのはこういう形。つまり季節感とそれから色彩を含めて、こういうものが織り込まれているというふうなことがとても重要になってきます。

*愛知県の6次産業化の支援業務

それではこういうふうな6次産業化を支援していくというのはどういうことなのかというのを少し説明します。これは愛知県6次産業化サポートセンターの事務局を担当している中野さん、松島さん、それから私で作った文章ですが、要するに小さな個の農家を、戦略的ブランディングを通して支援していく。食あるいはフードシステムに対する関心を喚起する。

もっとSNSを使おうよとか農家レストランとか、こういうものに対して助言をしている。それから事業計画というのをやっぱり考えなきゃいけないよねと。数値を配置するという概念をやっぱり作らないといけないという話ですね。情報の有用性というのももっと考える必要があると。実際、農産物というのは自然との闘いだけれども、色々考えていったなかで、地域資源として地域に貢献するという概念も重要なんだと。それから「語れる農家」というのになってもらわないと困るということですね。もう一つは、一次産業というのは重視してもらわないと、食品加工・食品流通を考え出すと一次産業の品質を無視しがちになってしまうんですね。それは非常にまずいと。そういうふうな形で、支援していくようなことをやっています。それから最後のところに書いていますが、二十四節気とか地域性を含む七十二候とか、そういうふうなものと物語を作っていく形をしないといけないということですね。

*6次産業化の取組による付加価値額の向上

農家に対する具体的なノウハウということを考えますと、まず理想を描き、現実を把握し、その差分を認識し、その差分の解消のために課題を作って、課題解決の方法を考えて見つけ出して、その方法を実際に試し、出来たこと出来ていないことを記述し、そこに意味を見出し、新たな課題を作って、それからさらに差分を埋めて、理想につながることの重要性を伝え、理解してもらう、こんなことになります。

それで付加価値というのを考えることが大事になります。付加価値というのは普通、売上の総額から経費を引くということでとらえられるわけですね。控除法で考えるとそうですが、生産の過程で生み出された価値を積み上げていくという、日銀方式の積み上げ方法で考える方が分かりやすいんですね。人件費と経常利益と賃借料と金融費用、それから税金とか他に公に掛かったお金、それから減価償却、こういうものを足していったものが付加価値なんだということですね。ですから、自分たちの活動プロセスそのものが付加価値につながっていくという視点がとても重要になってきます。

*「語れる農家」はよく売れる!

それから、語れる農家はよく売れると。これは事業において自立するということともつながっているわけですね。では語るというのは何なのかというと、「なぜ農業をしているのか」という自分自身への問いから実は語りが出てくるわけですね。「生活のため」というのは語っても消費者は共感しないわけです。語るためには何をしなきゃいけないかというと、「どんな農業を目指しているのか」とか、「その目指す先に何があるのか」というのを自分のなかで整理する。

それからフードシステムというのを考えなきゃいけないですから、そのなかで生産行為、それの加工はどうするのか、それから販売。そういうのをきちんと整理していく。それが事業性にもつながるわけですね。要素整理をするということが実は情報化にもつながっていく。それがブランドマーケティングの前提にもなってくるわけですね。で、農家自身のありのままのエピソードを交えて話すと、消費者はこの話にストーリー性を感じ、モノのなかにあるコトを見出すことができるというふうな話になるわけです。

*愛知県の野菜(令和元年)

愛知県で言いますと、愛知県というのは実はすごい農業県で米、それから野菜、果物、花、畜産、何でもそれなりの形、特に花なんかは日本で一番なわけですね。野菜は全国5位ですし、こういう県ですが、トヨタがあるために農業があまり見えていない県になっているのも事実です。

*愛知県の6次産業化

このなかで6次産業化をどうやっているかと言うと、写真でお見せしますが、こんな形で色々なものが生まれてきているという格好ですね。教育と連携しているようなものもあれば、それから元々建設業の人が農業に入ってきていて、2次からスタートしているところもあるといったような格好です。

これは6次産業のところをベースにインバウンドが農家ツアー、農家の観光をすると想定して、一次産業、旅行関係、市町村、観光協会、これがZoom会議で集まる。実際にこれをやってみますと、Zoomだと皆、忙しいときにも出て来ないで集まれるわけで、実は農業にとってこのZoomというのはすごいツールだなというのが分かってきました。

*地域連携を考える(アフターCovid-19におけるインバウンド対応)

これはインバウンド観光のときに、そのために農家が整備しなければいけないことを整理したものです。宗教・生活習慣への対応、情報整理、それから情報発信、旅行前の情報の発信、SNSでの情報の発信、アクセス情報。それから予約・問い合わせ・対応準備。農家が全部やらなければいけないわけですね。多言語対応、翻訳アプリ、webサイト。それから外国語による標識を自分の農園に付けなきゃいけなくなるわけですね。それから決済環境、インバウンドは現金は使わないですから、それを整備しなければいけない。それから通信環境の整備とトイレの整備、Wi-fiの導入と表示。観光というのを意識すると、こういうことをやらなければいけないわけですが、これからの農園はこういうものを整備していくというのが実は重要になってくる。これが実はDXなんかとも絡んでくるという格好になろうかと思います。

*愛知県の地域産業資源

もう一つは地域資源との関係ですね。いっぱい書かれているわけですけれども、愛知県の場合でも見てもらったら分かるように、もうバラバラなんですね。こういうのをどうつないでいくのかというのが実は重要になります。そのなかで物語をやっぱり作っていくと。物語という言葉には「ストーリー」と「ナラティブ」という言葉があるわけですが、どちらかというと、このナラティブという「共につくる」「共に紡ぐ」というふうな関係で、ナラティブの構造で作っていくと。気候風土・文化・歴史、こういうものを整理していく必要があるというふうに思います。

*コロナ禍以降の6次産業化推進の意義をあらためて考える

コロナ禍以降の6次産業化推進の意義をあらためて考えると、6次産業化というのは、ますます重要になってきているわけですが、ただショート・フード・チェーン、要するに地域だけで、地域で上手く循環させていくという6次産業が重要になっているわけですね。地域事業連携をするときに、やっぱり一次産業が軽視されてしまうような形は非常にまずいわけですね。

6次産業の推進というのは、小さな農家の個々の力をつけるために、実は非常に重要になっているということです。でも小さな農家の場合、団体でやっていくと大変なことになりますから、個対個の小さなイーブンでフラットな水平的な連携が求められるというわけです。農家自身の手が加わると、付加価値が上がるんじゃなくて下がるケースもあるから注意しましょうというのが、ここにちょっと書かれています。個人農家とともに、農協の強化が共に図られるというのが実は望ましいんだけれども、これがなかなか上手くいかないという格好ですね。

*Short Food Supply Chain(SFSC)

ショート・フード・サプライチェーン(SFSC)というのは、どういう概念かというと、これはEUのグリーンディールで実は登場しました。こういう形で色々なものがあるなかで、この4つ目の部分、フードチェーンにおける公正な経済的リターン。これは何かと言いますと、要するに長い距離を回しちゃうと、そこにステークホルダーがいっぱい入ってきますから、無駄なコストが増えていくわけですね。ですから農家も儲からないし、消費者は高く買わなきゃいけないというようなことで、もう少し小さいもの、短いもので考えていこうという格好です。

これは生産者と消費者の妥協のレベルで、このショート・フード・サプライチェーンの分類をしたものですね。こんな形で分類できるという事例になっています。また見ておいてください。このポイントで、今度はフードシステムで考えてみますと、まず一次生産の部分では、製品の品質、それの価値をどうとらえるのか。そこに環境的な部分、社会的な部分、経済的な持続性の部分で品質を見ていく、価値付けをしていくということが大事になります。それからグローバルGAPとかHACCPが出てくるわけですね。

それから組織の分配とか制度のシステム、この権限をどうやって付与していくのか、皆で学習をどうやっていくのか、どうやってプロセスにイノベーションを入れていくのか。それからもう一つ、内部統制のところでは、ガバナンスの部分ですね、統治・支配・管理。それから売っていくところでは、取引先・効率・種類。ここでデジタルマーケティングが必要になる、顧客データも必要になるという格好です。それからこういうことをやり出しますと、価格形成機能とか品質評価機能、需要調整機能、代金決済機能、物流効率化機能、情報伝達機能というのは、自分で持たなきゃいけなくなるんですね。でも個人でこういうのを持つと大変ですから、これを地域で整備するということが重要になってきます。

フードシステムの方程式をちょっとまとめてみますと、作物の生体データをG、農地の環境データをE、人の管理データをMとしますと、G×E×M、これがテロワールということになるわけですが、それにマーケティングのMとプライスのPを掛けて成立しているという格好ですね。デジタルというのを皆さん、嫌う人が多いんですが、これは敵でなく味方なんだと。営業をオンラインでしなきゃいけない、デジタルマーケティングが必要になるということで、個人個人のデジタル化というのが、実は重要になってくるということになります。

*デジタルマーケティング

ではデジタルマーケティングというのは何なんだろうと言うと、WEBマーケティング、SNS、オンラインショッピング。こんなものを含む大きな括りになるわけですね。自分が買い物をするときに、本を買うときには、アマゾンで買ったりするわけですね。それ自体、デジタルを利用して買っているわけです。逆に農産物なんかもそのデジタルのラインに結んでしまおうという話ですね。個々の事業者がデジタルマーケティングを身に着ける環境づくりと、これを皆で考えていかなきゃいけない。大企業と違うわけですから、それを小さな農家が、個人農家が皆、集団で何かをつくり上げるということが大事になります。

この個人農家の意味としては、新しい農業価値創出を促進する、地域の強化に寄与する、ネットワークづくりというコミュニティとかコモンズとかいうのを作っていくということのきっかけになる。キー企業ではなくて、それぞれの地域のキーパーソンから展開していくということが必要になるんだと。で、データをやっぱり作らないといけないですね。作らないと共有できない、情報化できない。その共同作業というのをどうやって地域で作っていくかというのが重要になります。

*顧客視点(マーケットイン)の4C

マーケティングの話で少し説明しますと、元々1960年に売り手側の視点で、プロダクトとプライスとプロモーションとプレイスだったわけですが、実はプロダクトには買い手の価値、顧客価値があると。価格は顧客が負担するコストなんだと。プロモーションというのは顧客とのコミュニケーションなんだと。つまり顧客から見ていく必要があるというわけですね。ですからプロダクトを自分で製品を作るときに、買う人がいったいどこに価値を見出すんだろうということを考える必要があるということで重要になってくる。マーケティングを考える必要があるということになります。 

◆フード(食・農)システムのありかた

*他のシステムとの関連でのフードシステム(ポジティブシステムアプローチ)

さて、フードシステムのあり方というのを考えてみたいと思いますが、これは国連が2021年3月に出したものですね。こんなことで出来上がっています。

「フードシステムとは、農業(畜産を含む)、林業、漁業、食品産業に由来する食品の生産、集約、加工、流通、消費、廃棄(損失や廃棄物)に関わるアクターとそれらが相互に連携した付加価値のある活動全般、およびそれらが組み込まれているより広範な経済・社会・自然環境を意味します」(FAO〔2018〕などによる定義による)。

*持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築―食農体系の転換に向けて

持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールド、この食農体系の転換に向けてという、こういう論文が実は出ました。これは地球科学研究所のプロジェクトですね。この内容を少しご紹介したいと思います。食の生産、流通の構造把握をし、生活や健康につながる、食農システムの望ましいあり方を研究しています。地球環境への負荷を軽減する意味で、地産地消の重要性、それを後押しする政策の必要性を訴えた。

こんなものですが、ポイントは、成長期のメタボリズムというのは代謝ですね。人間の代謝になぞらえて、人間の活動を言っているわけですが、経済は効率だと、社会生態は搾取だと、配分効率は集約だと、それから私的所有、関係性は管理だと。これが実は充足、再生、分配、コモンズ、ケアと、こういうのに代わってきているというのが、とても重要になるわけです。

*持続可能なフード(食・農)システムの要点

食料生産の部分は特にアグロエコロジー的農法と家庭菜園というのを考える。これを中心に考えていく必要があるだろう。そうするとキーワードは小農になる。それからフードビジネスとファイナンスは地域に根ざしたビジネスモデルだと。これは先ほどから説明してきたような話にフィットしているわけですが。

それともう一つ、資金を集める手法。従来とは異なるやり方でやらなければいけない。日本の場合はクラウドファンディングしか思いつかないわけですが、エシカル金融であるとかインパクト投資家。財務的リターンに加えて、社会的・環境的インパクトを生み出す投資、こういうものを国が積極的に作り出していってくれないと困るというわけですね。食文化で言いますと、ケアする文化を創り出していく。食の言い伝え、食文化というのがケアする文化を実は創り出してくれると。それから食べ物を単なる商品ではなくて共有財産「コモンズ」としてとらえるという考え方が重要になると。それから在来知に根付いた食文化、地域共同体というのも重要性が見えてきます。

*植物と共生微生物、そして人間

それから最近の話で言いますと、この植物-微生物-土壌の複雑なネットワークのデジタル化。これはムーンショット研究なんかでも土壌の研究が1つ、取り上げられているわけで、そういうなかで、大きな見方でいうと、人間の健康と土壌が完全につながるような研究体系がとても重要になってきているわけですね。有機農業なんかの場合も、こういう科学的な部分と直結するような話になってきているわけです。ですからその意味で科学、情報、全部組み立てていく必要が出てきているわけですね。

*フード(食・農)システムのガバナンス

ガバナンスというのを先ほど、個人農家、あるいは6次産業をやる事業体のガバナンスを言ったわけですが、実はフードシステム自体のガバナンスが重要になってくると。要するに、地域でショート・フード・チェーンなんかを考えるようなときに、その地域にフードポリシー・カウンシル(FPC)、食を「てこ」として地域の問題解決をはかる総合的な食農政策の協議体、こういうふうなものを作っていかないと、上手く回っていかないというふうなことがはっきり出てきているわけですね。

*食と農の未来会議・京都

さっきの地球研のプロジェクトでは、食と農の未来会議・京都というのを作り出したわけですね。そのベースにあるのは、このフードポリシー6つのゴール、1)食の生産を未来の世代まで確実に、2)食に気をつかい健康を保つ、3)食の研究にすべての科学が力を注ぐ、4)食に関わる環境負荷をへらす、5)食から南北問題の是正を目指す、6)食の民主主義、自分たちの食は自分たちで決める。こういうふうなことを地域で考えていくためのガバナンスだというわけです。こういうふうなものが日本でも動き出しています。 

◆6次産業化から農山漁村発イノベーションへ

*食料・農業・農村基本計画(2020年3月31日)に規定された新たな国民運動

さて、6次産業化から農山漁村発イノベーションへというところですが、これは食料・農業・農村基本計画のなかで、輸出拡大、グリーン化、消費者、農業者、こういうふうなものをこういう形で定義することによって、このなかで生み出されてきた概念ですね。食料自給率の目標とかいうなかで、実は登場してきました。農村発イノベーションをはじめとした地域資源の高付加価値化の推進という言葉で登場します。

*農山漁村発イノベーションの概念図

概念はですね、こういう資源、分野、主体。これまでの6次産業化というのはこういう格好だったわけですが、これを地域のなかで、もっとネットワーク化していこうよという話ですね。反農半Xの実践者とこういう地域の運営組織が一緒になることによって、イノベーションを生み出していきましょうと、こんな話になっています。

*地域運営組織(RMO: Region Management Organization)の重要性

このなかで地域運営組織というのが出てくるわけですが、それは農水省の定義では、こんな形で、実行機能としては農用地の保全であるとか地域資源の活用とか生活支援というものだけになっていて、地域のフードシステムのガバナンスを扱うようなものとしてはとらえられていないですね。ですから、むしろこの農村RMOというのをフードポリシー・カウンシルとしてとらえる必要が実は重要だと思います。 

◆持続可能な地域フード(食・農)システム(6次産業化地域プラットフォーム)

他分野と組み合わせて、農村漁村発における所得と雇用機会の確保が分かる取り組みが実は持続可能な地域フードシステムになる。つまり農村漁村発のイノベーションは、6次産業化地域プラットフォーム作りなんだという視点でとらえる必要があるんだろうというわけですね。

*地域単位のフード(食・農)システムの構築が急務

実際に食料自給率を見ても、国際的に見た場合、相当低いわけですね。カロリーベースでやっているとはいえ低い。それから為替相場、今日は147円を超えてきていますし、電気の問題、ガスも高くなってきている。ガソリンも高くなってきている。それから農業物価指数がすごく上がってきているわけですね。それから原料肥料の輸入価格がすごく上がってきていると。それから食品の値上げがすごいんだと。こういうなかで、やっぱり自分たちで地域のプラットフォーム展開をすることで、地域の消費者をも助け、自分たちもちゃんと儲かる農業を作っていくという形が重要なんだろうと。

*6次産業化の地域プラットフォーム展開(農山漁村発イノベーション)

こういう形で農山漁村の諸資源と諸テーマが「新結合」するという概念になっています。産業概念を拡張する、特に地域を意識していくということですね。ジビエだの農泊だの廃校の跡地利用だの、こういうことを地域とともに考えるという格好です。

で、再生可能エネルギーもあるわけですね。ただこれは注意しなければいけないのは、特に太陽光の場合は光を求めて動いていきますので、完全に農地とバッティングするわけですね。ですからそこの切り分けはきちんと考えていく必要があるわけです。あと景観を阻害しますから、観光なんかとバッティングするわけですね。

ここでイノベーションという言葉が登場するわけですが、イノベーションはここでは新結合と言っていますが、新商品の開発、新しい生産方法の開発、新市場、こんなふうな形。それからもう一つは、マーケティング的に考えたときには、イノベーションの機会をも作らなきゃいけないわけですね。そういう領域も意識しなければいけない。1番から7番まで書いていますが、こういう話、機会の問題ですね。それからイノベーターが活用する4つの行動スキル、行動を起こさないかぎりダメだと。時系列的にどういう行動を起こしていくのか。イノベーションに取り組む勇気があって、行動的なスキルがあって、そのインプットを組み合わせていく。それからやっと生まれてくる。つまり結合があって、それからチャンスをきちんととらえて、それに対してきちんと時系列的に動いていくということが大事になるというわけです。

*6次産業化・地域プラットフォームの経済尺度

6次産業化地域プラットフォームのことを考えたときには、「価値の最大化」を目指し、結果として「利益の最大化」を得るという格好になります。食というのは人と自然の健康のハブになっているわけですね。食は自然の健康、それから人の健康の両方を見ているようなところがあるわけです。これを考えたときには、6次産業化というのを考えるときに、文化尺度、環境尺度、健康尺度、つまり地域文化にどう貢献するのか、自然にどう寄与するのか、健康にどう寄与するのかということを考えて、経済尺度を考えていかなければいけないんだろうと。文化の普及・啓もうサイクルもあるわけですね。それからGAPというのもあるわけです。こういうふうなものを意識しながら、どう皆でとらえていくのかというのが重要になります。

*「スマートな農業」を目指す地域内住民の協働

結局、地域農家の「スマート農業」じゃなくて人が中心となる。人が中心となって科学的な視点を持って、それからセンサーだの何だのも、人が使いやすい形できちんと使っていく。人にとって管理していく。人にとって意味のある使い方をしていく。そういう「スマートな農業」に資するオンラインの勉強会を皆でやっていく必要があるだろうと。

例えば植物生理の勉強会、それから農業における情報化の話。まずはきちんと日誌をつけましょうよと。日誌をつけて、そうするとそれをコンピューターに入れておくとか、あるいはスマホに入れておくと検索できるようになるといったような流れですね。それから環境負荷の問題。それから農業における土壌の問題。特に物理性、化学性、生物性。微生物の問題もありますし、共生微生物のなかで、植物と完全に共生して、植物の生理の一部を担ってくれるという部分もあるわけですね。そこらへんが実は有機農業ともつながっているわけですが、そこを科学的にも理解しようと。農産物の品質、これは品質が劣化していきます。あるいは品質が向上するものもあります。つまり追熟するようなものは品質が向上していくわけですね。それに対する理解、それから環境保全型農業とGAPのつながり。それから農産物の保蔵の話。予冷、貯蔵、冷蔵、冷凍、塩蔵、発酵といったような話。それから農産物の加工の話。これは調理操作、調理操作のなかには機械でやるやつ。熱で考えるもの。科学でやるという、こんなの色々あるわけですが、そういうものを勉強しようよと。それから食品の安全と安心の話。それからスマート農業、ICTだのIoTだのAIだの、人工知能ですね。ロボット、これは完全に進化して、安くなっていきます。そのときにそれに支配されずに、それを人間が上手く使っていくという立場が重要になるんですね。それが出来るように、いま必要な機械は何なのか。この機械はどのくらい進んだのかっていうようなことをウォッチしていかなければいけないだろうと。それでデジタルマーケティングですね。それから地域農家と地域住民のオンラインの勉強会。皆で勉強していくというスタンス。これが大事になろうかと思います。

言葉としては、食糧と食料。この漢字はもう、最近は左側の食糧は使わなくて、右側の食料だけになっているわけですが、実は意味が違っていたわけですね。2番目の立場が変われば呼び方も変化、呼び方が変われば機能も変化。ここはとても重要です。米や野菜は、農家や農民にとっては農産物、政府や行政にとっては食料、食品加工業者や流通業者にとっては米や野菜は商品、消費者にとっては食品になると。この言葉の使い分けが、6次産業っていうものと関わってくるということになります。 

◆おわりに:アナログの価値の再発見・教養の重要性

これは最後のスライドですが、デジタルデジタルと言われているんですが、実はアナログの価値というのを再発見すると。要するに人間自身、自分たち自身の価値を発見する。農産物、植物の発見でもあるし、それは土壌の再発見でもあるし、環境自体もアナログ的に再発見していく必要がある。そのためにはやっぱり教養を付けていく。歴史を考え、なぜこうなったのかというふうな、色々な教養が重要になってくるんだと思います。どうもありがとうございます。