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「みどりの食料システム法」の基本方針および法律施行規則に関するパブリックコメント

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FFPJは8月9日、村上真平代表名で、「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(略称:みどりの食料システム法)の基本的な方針と法律施行規則に関して、パブリックコメントを提出しました。以下は提出した文章になります(PDF版はこちら)。

「環境負荷低減事業活動の促進及びその基盤の確立に関する基本的な方針(案)」、及び「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律施行規則(令和4年農林水産省令第42号)第1条第1項の農林漁業に由来する環境への負荷の低減に相当程度資するものとして農林水産大臣が定める事業活動案等についての意見

2022年8月9日 

私たち「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)は、国連が2017年に定めた「家族農業の10年―2019~2028」と連携し、持続可能な社会の構築に貢献するための活動をする団体です。2021年の「みどりの食料システム戦略」の策定に当たっての意見公募(パブリックコメント)、9月に開催された「国連食料システムサミット」についての見解、そして2022年3月には、「みどりの食料システム法案」に対する見解をFFPJのウェブサイト上で公表しています。このたび、「みどりの食料システム法」及び施行令、施行規則が制定され、それに係る基本方針(案)及び関連する環境負荷低減事業活動等の案が提示されておりますので、私たちの意見を提出いたします。 

1 「小規模な家族農林漁業の果たす役割が重要であること」を明記し、小規模な家族農林漁業への支援をしっかりと位置づけること

①農業には、工業で一般的に考えられているような「規模拡大のメリット」は乏しく、経営規模の拡大は、かえって経営や地域コミュニティ、環境を脆弱化する。他方、小規模な家族農業は柔軟性をもち、回復力(いわゆるレジリエンス)が強靭である。

②機械・施設等の大型化や、「先端技術イノベーション」で主に想定されているAI、デジタル、自動化などによる装置化は、農家に過剰投資を強いるものになり、経費面での負担増になるだけでなく、こうした技術は農業から特に小規模農家を排除し、離農に追い込みかねない。身の丈に合った、伝統知に基づいた有機農業やそれに近づけるための環境保全型農業を主体に支援をすべきである。

③既存の労働生産性に偏った「生産性」の考え方を見直し、資源エネルギー生産性(エネルギー収支にもとづく考え方)、品質、気候変動対策、生物多様性、景観保全、食文化の伝承、地域コミュニティの維持・活性化、生きがい、幸福度等の多様な指標にもとづいた新しい「生産性」概念(社会的生産性)を確立・普及することを考慮すべきである。 

2 個々の小規模農家や個別経営の農家への配慮が必要。「2人以上」「共同」「地域ぐるみ」等の要件をなくし、広範な小規模農家等が支援を受けられるようにすること。

基本方針案第三の1では、「実施主体」として、「2人以上」「共同」「地域ぐるみ」が要件とされているが、特に有機農家は、現状できわめて少ないことから、地域に一人で実践していることも少なくない。そのため、「2人以上」「共同」「地域ぐるみ」要件は、貴重な有機農業実践農家を支援から外してしまうことになりかねない。

小規模農家、半農半X、農業関係人口など、「販売農家」「専業農家」あるいは「認定農業者」以外であっても、その地域に住み続け、ごくわずかな農地であっても農地を耕作する多様な「自給的農家」や「半農半X」、小規模な農地を集団で耕作する住民グループ等も積極的に認めて支援することが、環境と調和した農業を拡大し、農業・農村の「持続可能性」に貢献することにつながる。

「産地づくり」や「ブランド化」、「付加価値を高める」といったビジネス志向の産業としての農業振興だけでなく、地域全体において、農家自身と地域の自給を充実させることこそが、農村生活が豊かで楽しいものになるはずである。環境負荷低減事業の認定等に当たっても、農業・農村を一体として総合的な持続可能性を追求すべきである。 

3 市町村を超えた個別有機農家の連携組織による「広域的な取組み」を積極的に認めること

例えば、首都圏(都市部)とその周辺地域での有機給食の食材供給や食育活動、消費者への理解増進活動などについては、地域(市町村等)に「2人以上」「共同出荷」「地域ぐるみ」とは別の「広域連携」の組織体としての取組みを認めるべきである。

こうした「広域連携」組織体は、市町村・都道府県単位の要件を超えた農政局単位の取組みとして積極的に位置づけるべきである。特に有機農家は少なく、いまだに点在しているというのが実情であり、地域・市町村ぐるみの取組みになるまで地域の農家や自治体行政の理解を得るのは、すぐには難しい実情がある。こうした実情を踏まえ、市町村、都道府県を超えた「広域連携」は、特に有機農業での取組みに欠かせない。

 そして、広域、及び市町村内の取組みであっても、小規模な農家が参加しやすい取組みにして、小規模な個々の農家(自給的農家を含む)が農業を持続していけるように特に配慮すべきである。とりわけ、中山間地域においては、小規模農家が多い。そうした小規模農家が住み続け、小さくても農業を続けていることで、農地が守られ、地域コミュニティが守られ、農村景観が守られ、ひいては、下流域の農業も守られている。このことを重視すべきである。 

4 「水耕栽培」は、環境負荷低減事業に加えるべきではない

「水耕栽培」、すなわち「土を使わない」植物栽培を環境負荷低減事業の認可事業として認めようとしているが、農業は「土壌」が基本であり、基盤である。特に、有機農業や環境保全型農業に必要なのは、農薬・化学肥料等で「土」の中にいるミミズや微生物を傷めつけないことが重要である。

「水耕栽培」は施設園芸・植物工場であり、農地・地面を覆い隠し、施設建設にも、またその維持にも大量のプラスチックを含む建設資材を用い、電力・石油をはじめとするエネルギーを使い、二酸化炭素発生装置を稼働するものもある。農業・農村に今こそ必要な小規模農家の手に届かないだけでなく、もしも計画に加われば、過剰投資による借金、赤字経営に陥り、離農を助長することになり、資本力のある企業や他産業による支配を招くことにつながる。東日本大震災の復興資金を用いた植物工場が、赤字で閉鎖・撤退に追い込まれたことは記憶に新しい。健全な農村生活の維持・持続性の観点からも、「水耕栽培」を環境負荷低減事業として認めるべきではない。 

5 ゲノム編集を含む遺伝子操作技術を禁止すること

基本方針(案)の第一の3「2 基盤確立事業の内容」の(1)には、「先端的な技術」、(2)には、「新品種の育成」が挙げられている。ゲノム編集技術等によるRNA農薬の開発やゲノム編集技術を含む遺伝子操作技術を使用した品種育成は、「環境と調和のとれた」品種とはいえないので、これらは、認めるべきではない。

遺伝子組換え作物が商品化されて20余年になるが、謳われていた効用とは逆に農薬使用の増大を招き、生物多様性の喪失の点でも人への健康影響の点でも大きな問題を引き起こしている。ゲノム編集技術は遺伝子の水平遺伝という憂慮すべき問題も指摘されており、RNA 農薬とともに生態系に多大な影響を長期にわたって与えることが懸念される。ゲノム編集技術も遺伝子組換え技術と同様の問題があり、これらを「環境と調和のとれた」農業推進において禁止すべきである。 

6 「良質な」堆肥等の有機質資材を確保すること

有機農業、環境保全型、慣行農業のいずれにおいても、堆肥等の有機質資材は、「良質」であることが第一の条件である。堆肥等の資材の使用を急ぐあまり、抗菌剤等を多用した大規模畜産施設の糞尿、輸入遺伝子組換え飼料を多用している畜産施設からの糞尿については、厳しい使用基準(ガイドライン等)を設定して使用を規制すべきである。

また、下水汚泥、屎尿から処理した資材を使うことには、重金属や微生物等について、同様に厳しく規制をすべきである。 

以上