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国連食料システムサミットに関するFFPJの考え方

· ニュース

2021年9月24、25日に開催された国連食料システムサミットに関して、FFPJは11月19日、村上真平代表名で声明を発表しました。声明は以下の通りです。

2021年11月19日

家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン

代表 村上真平

1.経緯

グテーレス国連事務総長の呼びかけにより、2021年9月23日、24日に第1回国連食料システムサミットが開催されました。準備会合や関連イベントを合わせると、1年半におよぶ開催期間となり、世界198の国・地域から延べ10万人以上が参加しました。同サミットでは、飢餓をゼロにし、気候危機や生物多様性喪失等の諸問題を解決するためには、現行の食料システムを改革しなければならないという認識の下、各国首脳や閣僚、企業、科学者、市民団体等が具体的な解決策を話し合いました。

しかしながら、同サミットに対しては、これまで国連と協働してきた数百の市民社会団体(農民団体、環境団体、市民団体等)が批判の声をあげ、組織的に参加を拒否(ボイコット)しました。同様に、科学者、国連機関、同サミットのスポンサーからも厳しい声があがっています。

家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)は、国連「家族農業の10年」の運動を通じて、持続可能な社会の構築に貢献するための活動をする団体です 。この度、国連食料システムサミットの開催と市民社会等の意見表明を受けて、FFPJとしての考え方を以下のように発表します。 

2.世界の食料システムは抜本的な改革が必要

現在、世界の人口79億人のうち30億人が健康的な食事を摂ることができず、8億人は飢餓に陥っていますが、同時に、食料の実に3分の1が捨てられています。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、世界の食料システムは、人間由来の温室効果ガスの3分の1を排出しています。さらに、陸と海の生物多様性喪失の7~8割が農林水産業によるものだと、国連は指摘しています。このような世界の食料システムは、明らかに崩壊していると言えます。現行の食料システムを持続可能なシステムに移行するためには、抜本的な改革が必要であることは論を待ちません。こうした問題意識と危機感については国連食料システムサミット参加者の多くとボイコットした市民社会団体に共通しており、FFPJも共有しています。 

3.改革の方向性をめぐる2つの道

しかしながら、世界の食料システムの改革の方向性をめぐって、現在、2つの異なる道が示されています。

グテーレス国連事務総長がサミットで発表した声明では、問題を解決するために特に重要なのは「金融」「データ」「科学」「イノベーション」「貿易」であると記されています。また、サミットでは最先端技術を用いた精密農業や遺伝子工学の重要性も強調されました。これは、日本政府が同サミットで発表した「みどりの食料システム戦略」(2021年5月策定)の方向性と一致しており、「貿易」の重要性も日本政府が同サミットで重要性を訴えた点です。

これに対して、市民社会は「偽りの解決策」と拒否し、同サミットとは異なる「もう一つの道」こそ持続可能な食料システムに至る道だとしています。すなわち、現在の食料問題の原因の多くを作り出してきた多国籍企業 が主導する食料システムを見直し、農家がすでに持っている「生態系と調和した伝統的な農法」(アグロエコロジー、有機農業、自然農法)や「国内・地域市場」を重視し、小規模な家族経営の農家・農民の「権利を保障」することが必要だとしています。

さらに、国連人権理事会の「食料への権利」特別報告者は、「食料システムの改革では人権が重視されなければならない」としています。つまり、私たちがどのような食料を生産し、食べるかを選択する権利(食料主権)、農家が農地を耕し(農地への権利)、翌年蒔くために種子を採る権利(種子への権利)、適正な労働環境や賃金を得て人間らしい暮らしをする権利(生存権・幸福を追求する権利・人権)を、保障する食料システムにしなければならないということです。そして、そのためには、「サミットで示された解決策よりもよい道がある」という声明も発表しました。

世界の科学者らも「サミットで採用された科学はテクノロジー主導型で、一部の科学に偏っている」と批判しています。さらに、「科学は世界の食料統治(ガバナンス)に必要だが、サミットで示されたモデルではない」と指摘し、「テクノロジー主導型の食料システムに『科学』が武器として装備されようとしている」と危機感を表しています。サミットのスポンサーであるEUの高官も、「企業主導型のアプローチでは不十分」であり、「これまでのビジネスの延長線上に答えはない」と釘を指しています。 

4.FFPJが目指す食料システム 

FFPJが目指す食料システムは、国連食料システムサミットで強調された「金融」「データ」「科学」「イノベーション」「貿易」よりも、市民社会が目指す「食料主権」「農地への権利」「種子への権利」「生存権」「幸福を追求する権利」「人権」「生態系と調和した伝統的な農法」(アグロエコロジー、有機農業、自然農法)、「国内・地域市場」を基盤とした食料システムです。それは、社会的、環境的、経済的に持続可能で、公正で民主主義的な食料システムの姿です。「科学」は、このような食料システムの実現に貢献するものとして位置づけられる必要があります。そして、このような食料システムに移行するためには、私たちの価値観や社会のあり方、ひいては文明のあり方をも問い直さざるを得ないでしょう。FFPJは、今後もそのような食料システム、そして、それを実現できる社会の構築を目指して活動していきます。 

5.参考情報 

FFPJは、2021年10月28日に開催された第7回オンライン連続講座「国連食料システムサミットと市民社会」でこの問題を論じています。詳しくは、こちらをご覧ください。