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【報告】FFPJオンライン連続講座第7回 国連食料システムサミットと市民社会

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家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンのオンライン連続講座第7回国連食料システムサミットと市民社会が10月28日に開かれました。多数ご参加をいただきありがとうございました。講師を務めたFFPJ常務理事の関根佳恵さん(愛知学院大学准教授)の発言要旨を紹介します。資料はこちらからダウンロードしてください(文末に講座の動画も埋め込みました)。

皆さんこんばんは。いまご紹介いただきました愛知学院大学の関根と申します。それでは、さっそく始めていきたいと思います。今日の講座は、気候変動等の課題と私たちの農業や食料、食料システムと言われるものに関わるお話になります。

自己紹介

簡単に自己紹介をしますと、私は元々農業、農学を学んでいましたが、そのあと農業経済学、それから政治経済学、社会学という、そういう社会科学系の方のことをずっと研究をしてきました。日本とヨーロッパ、フランスやイタリアを拠点に研究をしています。右上のブルーの報告書、これは国連世界食料保障委員会の専門家ハイレベルパネルというところが2013年に出した報告書で、小規模農業に関するものですけれども、この執筆に携わり、その和訳が農文協さんから出ている『家族農業が世界の未来を拓く』という本になっています。こういった仕事を通じて家族農業、小規模農業に関わるようになり、2018年には国連食糧農業機関、FAOのローマ本部で客員研究員を務め、国連にも研究者として関わりながら、一方で市民社会活動として、2017年から20年に小規模・家族農業ネットワーク・ジャパンという市民団体を有志と立ち上げました。それをきっかけとして、2019年に始まった国連の「家族農業の10年」のために、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンという組織を有志と一緒に立ちあげて現在に至ります。

構成

今日は、先月9月23日と24日に国連総会に合わせてオンライン開催された食料システムサミットと、それに対する市民社会の反対運動についてお話をしていきたいと思います。

参考文献としては、岩波書店の月刊誌『世界』に掲載された私の論文や、月刊誌から季刊誌に変わった『農業と経済』の今年3月号をあげたいと思います。他にも、食料システムサミットについては具体的に触れていませんが、こちらの参考文献も今日お話する内容の背景や国連「家族農業の10年」について理解するために助けになると思われるますので、もしよろしければぜひご覧ください。

1. はじめに-「壊れた食料システム」の再構築-

現在のグローバル化が進む中で、日々私たちの食卓に載る食べ物。いろいろと食べていますけれども、それはグローバルに調達して、つまり輸入しているわけですが、このグローバルな食料システムはどういうふうに表現されているかというと「明らかに壊れている」。そう言われています。これは、食料システムサミットとは別に、今月4日から5日に開催された世界食料フォーラムで使われている表現です。現在、地球の人口は約79億人いますが、いま現在で言えば、すべての人を養うことができる食料が生産されています。でも3分の1が廃棄をされ、そして人口の12%にあたる人たちが食料不足に陥っている。コロナで1億2千万人ぐらいの人が新たに食料不足に陥っていると言われていますが、実はその前から飢餓人口、栄養不足人口は増加に転じていて、2030年までに飢餓をゼロにするという目標の達成が、このままでは絶望的であると既に言われていました。

そして、この食料システム、輸送とか生産、加工、それから廃棄も含めて見ると、何と私たちの人間活動由来の温室効果ガスの実に3分の1を排出しているということです。しかも、陸と海の生物多様性喪失の原因の8割が農林水産業であるという、かなり衝撃的な報告が並んでいます。

そのような中で開催された今回の食料システムサミットは、国連事務総長が2019年10月16日の世界食料デーに各国首脳に開催を呼び掛けたものです。ここでそういった流れを変えて、持続可能で公正な食料システムを構築しようという、そういうことが呼びかけられているわけです。そして、日本政府はそこで今年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」、「みどり戦略」と略していますけれども、これをアピールしてきました。こういったことが日本ではどうでしょうか。あまりテレビとかラジオとかのニュースでは、そんなに大きく取り上げられていなかったように記憶しています。また、農業専門紙でも開催のときは記事になりましたが、あまり大きな注目を集めていないような気がします。

ですが、国際的には国連の食料システムサミットに対して市民社会がかなり批判をして、組織的にボイコットをする、参加を拒否するという、そういう事態にまで発展していて、例えばイギリスのガーディアンという新聞とかフランスの新聞なんかもかなりこういう動向を報道しています。そして国内でもみどりの食料システム戦略に対する批判があります。

ということで、今日は、なぜ市民社会がサミットやみどり戦略を批判しているのか、その争点とは何で、日本農政はこれからどこへ向かうべきだろうか、ということをいっしょに考えていきたいと思います。

2. 市民社会からボイコットされた食料システムサミット

(1) 食料システムサミットが目指すもの

まず、食料システムサミットが何を目指して行われて、どのような成果があったのかというお話から始めたいと思います。そもそも食料システムというのは、あまり一般には聞きなれない言葉かもしれないですが、これは食料の生産、農林水産業だけではなくて、その加工や流通、消費に至る過程やそこに携わる主体、農業生産者とか企業とか、それから消費者とか。そして、それを支える法律や制度、文化や慣習などを体系的に捉える概念、これが食料システム、あるいはフードシステムと呼ばれるものです。

この食料システムサミットを開催するきっかけになったのは、国際社会が2030年までに達成を目指しているSDGs、国連の持続可能な開発目標です。このまま行くと、17の目標の達成はかなり困難、不可能ということになっていて、2020年からこの達成に向けた行動を加速しようということで「行動の10年」が始まっています。そして、このSDGsの17の目標の多くが、実は、農林水産業を含む食料システムの改革なくして実現できないと言われているので、そこで食料システムサミットを開催したということです。

グテーレス事務総長は各国政府に対して、大胆な行動と革新的な解決策を提案してくださいということを事前に呼び掛けていました。そして「多様な主体」という言葉を使って、多様な主体がより健康的で持続可能で公正な食料システムを構築するために協力して行動することを促すために開催するんだと言っています。では、この「多様な主体」、英語でマルチ・ステークホルダー(Multistakeholder)と言いますが、これは誰のことなのかというと、これは実は国連のホームページに書いてあったそのままの順番で言います。科学者、企業、政策責任者、医療福祉関係者、そして、ようやくここで農林漁業者、先住民、若者、消費者、環境活動家など、というふうに出てくる。ちょっと順番がおかしいような気がしますが、このままを載せています。そして、新型コロナウィルスのパンデミックで、打撃を受けた食料システムを「より良く復興する」(Build Back Better)というアメリカでも言われている言葉を使っています。

ですけれども、この「多様な主体」というのは必ずしも同じ発言力、同じ政治力、同じ組織力、同じ資金力を持っているわけではないということが、市民社会側から提示されている批判のかなり重要な側面です。「多様な」と言うと、私たちは「すごく良いことだ」と無批判に受け入れやすいのですが、その「多様な主体」と言うのは、必ずしも対等な立場ではないということをもっと意識する必要があると思います。また、「より良く復興する」というのも、実は東日本大震災とかアメリカのハリケーン・カトリーナとかアイクとか、そういう大規模な災害があったときにもよく使われた言葉で、これを1つのチャンスとして新しいビジネスを広げたり、新しいルールを作ったりという、そういう動きも一方ではある。これはコロナ禍以前から災害資本主義とかショックドクトリンという言葉でナオミ・クラインとかいろいろな研究者が批判してきているものでもあります。

そして、サミットの後に発表された主な成果ですが、まずこのサミットのメインの首脳級会合というのは2021年9月23日、24日でしたが、実は準備期間とか関連イベントの開催も含めると1年半前からずっと行われてきていました。そして、ほとんどの国連加盟国に当たる198か国・地域から、累計10万人が参加しました。そして、そのうち148か国では国内イベントが開催されているということです。日本もここに入っています。そして90か国以上の首脳が国家戦略や国が果たすべき責任、コミットメントというものをこのサミットで発表しました。日本はここで「みどりの食料システム戦略」を発表したわけです。そして、参加者からは2千以上の具体的なアイデアの提案があったということです。

市民社会団体の中には、サミットを組織的にボイコットをした団体も多数ありましたが、サミットに参加した団体もありまして、300近くの責任(コミットメント)を発表しているということです。そして、プレスリリース、記者会見などでサミット主催者側は「人びと」(people)という言葉を使って、これは一部の企業のためではなく、「人びと」のためのサミットだったんだということを大変強調して、ホームページなどでも発表しているわけです。これが、市民社会側からすると、また批判の的になるということをあとで確認したいと思います。

当初、市民社会側からのサミットのボイコットとか、いろいろな意見表明が始まったのがちょうど1年前ぐらいだったのですが、そのときに農家とか先住民、女性とか若者、そういう立場の弱い人たちの意見を十分反映していないのではないかという批判があったので、こういう方たちの団体を多数招いて、「多様な主体」の参加があったんだ、包括的なとてもインクルーシブなサミットだったということを強調しています。また、国連世界食料保障委員会(CFS)という機関が、サミットから排除されているのではないかという批判もあったので、ちゃんとCFSが発表したガイドラインを参照しています、ということをアピールして強調しています。こういうところを見ると、サミットをボイコットをした市民社会団体側の意見を相当意識して入れてきているんだなということを感じました。

(2) 日本政府の対応

そして、日本政府はどのように対応をしたかということですが、まず、プレサミットという閣僚級の準備会合が今年7月下旬にローマで開催されました。ここが環境に配慮した気候変動対応型の持続可能な食料システムを作るための新たな国際ルール作りに向けた、政府や企業の実質的な駆け引きの場、鞘当てのような性格があったと思います。日本はみどり戦略、英語でも「みどり」と読めるように「MeaDRI」という「技術革新による脱炭素と強靭化の実現に向けた対策」を意味する英語名で発表しています。ここで日本政府が強調したのは「アジア・モンスーン地域(日本とか東南アジア、東アジアが属する季節風=モンスーンが吹く梅雨のある湿った雨量の多いジメジメした湿度の高い地域)に適応可能な持続可能な食料システムのモデルが、このみどり戦略ですよ」ということです。そして、これを発表するために事前に東南アジアの6か国と協議を行なって、お墨付きを得ています。

つまりこれは、EU並みのスピードでの食料システム、農業の改革はできないという予防線を張ったとも言えると思います。そして、日本が強力に推進しているスマート農業、ロボット技術や人工知能、AIなどの実践例を紹介し、「技術革新がこの持続可能な食料システムを作るためには必要なんだ」ということを訴えてきました。また、栄養バランスの取れた食生活や食文化ということで、世界遺産にもなっている和食をアピールしたりしています。

それから、EUも欧州グリーンディールという政策を2019年の12月に発表していますが、それを受けて「農業から食卓までの戦略」を昨年5月に策定しています。その目標として、2030年までに有機農業面積を農地の25%にするとか、農薬半減、化学肥料を2割以上削減、食品ロスを半減ということを謳っています。そして日本は、このプレサミットの「成果」としては、持続可能な食料システムの構築に対する日本としての責任の果たし方、コミットというものを国際的にアピールできた。そして国際ルール作りで主導権を握る流れを作った。そして、スマート農業技術や日本の食品の輸出拡大のためのPRもしたという、そういうことを成果としています。

そして、今年9月のサミット(首脳級)のとき、日本ではコロナの第5波が来て、緊急事態宣言下だったり、それからもう首相が交代するということが分かったりしていて、自民党総裁選があった時期になりますので、菅首相(当時)はビデオメッセージをこのサミットに送っただけで、参加はしていません。そして、ここでみどり戦略を再度発表しましたが、日本でもあまり大きく取り上げられていなかったと思います。

(3) 市民社会団体の抵抗-企業のためではなく、人びとのための食料システムを-

次に、市民社会団体の方を見ていきたいと思います。市民社会団体が訴えているのは、ひと言で言うと、企業のためではなく、人びとのための食料システムを構築する必要があるということです。7月のプレサミットの段階で、既に200以上の市民団体がボイコットを決めて、同時並行で開催されたオンラインの別の国際集会に参加していました。延べ9千人くらい参加したということです。そして、9月にも同じようにオンラインの国際集会を開催しています。また、9月のサミットに合わせて、国連の食料システムサミットに反対する宣言を発表し、10月14日現在で既に1,000以上の団体や個人がこれに賛同する署名を行なっています。

なぜサミットに参加をしないのか。サミットに参加して反対意見を言ったらいいじゃないかという、そういう意見もあるかと思いますし、実際にそうしている市民社会団体もあります。けれども、ボイコットをした市民社会団体はこういう表現をします。「間違った方向へ進んでいる列車に飛び乗ることは私たちにはできない」。そして、やはりこれだけ参加拒否という強いメッセージを送ったことによって、先ほど見たようなサミット主催者側の対応の変容というものも一定程度、生み出したのではないか。そういう意味でこのボイコットは成功したのだと思います。

ここからは、なぜ市民社会はボイコットという、そういう手段を選ばざるを得なかったのかというところを見ていきたいと思います。詳しく話すと時間がかかってしまうので、要点だけご紹介したいと思います。まずその背景を理解するためには、この十数年、つまり2008年の世界食料危機以来、市民社会と国連が育んできた協働というものを、まず理解する必要があります。この危機を契機として、国連世界食料保障委員会(CFS)—ここに私も関わっていたわけですけれども―の改革が行われました。これは、いわゆる国連改革の一環ですが、それまでのCFSは、食料輸出国もいる、輸入国もいる中で、美辞麗句だけが繰り返される場になっていたわけです。

そのため、飢餓はなくならない、何にも実質的な合意ができない、取り組みができないという、そういう状態で2008年の危機が起こった。これ以上、この状態を続けてはいけないということで、市民社会団体の意見を積極的に取り入れるようなオブザーバーという制度を創設しました。そして、世界の科学者が集う独立した諮問組織(HLPE)を設置して、各国の利害に左右されない政策提言を行なう場を作りました。そして、国連加盟国に農政の転換を勧告してきたという歴史があります。

その成果として、様々な重要な概念、食料主権とかアグロエコロジーとか、小規模・家族農業、先住民の伝統的な知恵とか、こういったものを次々に提示をして、国連の政策に反映させてきました。アグロエコロジーというキーワードは、日本ではまだあまり浸透していませんが、生態系と調和した公正な農と食のあり方と言えると思います。そういう歴史を踏まえて見ると、今回の食料システムサミットは国連が方向転換をしたのではないか、変節したのではないか、というふうに市民社会側からは見えます。

というのも、サミットの開催趣旨では、食料安全保障の実現における精密農業(これは日本におけるスマート農業に近いもの)やデータの収集、ゲノム編集や遺伝子組換えなどの遺伝子工学の重要性を強調しています。そして、食料主権やアグロエコロジー、市民社会の役割ということには一切、言及がありませんでした。これは当初の企画書のことです。国連にはすでにHLPEという科学者の組織がありますが、サミットではそれとは別の「サミット科学者グループ」という組織を新たに設置しました。そして、サミット特使にルワンダ出身のアグネス・カリバタさんという方が選ばれました。この方は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が出資する農業団体「アフリカ緑の革命同盟」(AGRA)の代表を務めています。飢餓撲滅のために近代的な農業技術の普及を目指してきた団体です。そして、彼女がサミットの特使に選ばれた方法が通常のプロセスとは異なっていて、透明性が低いと指摘をされています。さらに、サミットに参加しているのが、農薬メーカー、種子メーカー、バイオ企業などの多国籍企業やその団体、ゲイツ財団やロックフェラー財団など、いわゆる世界経済フォーラムに集う大企業だということで、市民社会側は警戒を強めたわけです。

市民社会側は、サミットが貧困と飢餓の原因を作ってきたバイオ企業などの「多国籍企業に乗っ取られた」という言い方で批判しています。そして、サミットが「新自由主義的グローバル化に新たな装いを提供する機会になる」としています。これは、「グリーン」だとか「気候変動」だとか、「持続可能」という言葉は使っているけれども、中身は変わっていないという批判です。そして、企業が支配するグローバルな食料システムを、人権に基づいたアグロエコロジカルな食料システムに変革する必要があるんだということを訴えています。ですから、新しい技術と言うのは必要ない、既に伝統的な知恵の中に答えはあるということです。そして、サミットは「人びと」(people)という言葉を使っていますが、「人びと」というのは「私たちの名前」なので、それを勝手に名乗ってはならないと痛烈に批判をしています。

(4) 科学者たちもボイコット

そして実は、サミットをボイコットしたのは、市民社会だけではありませんでした。科学者たちもこのサミットに批判の声を挙げています。カルフォルニア大学の研究者たちが言っていることですけれども、サミットでは部分的な「科学」が採用されていると。意図的に選ばれた一部の科学だけが採用されて、それが科学、サイエンスだと言われている。科学というのは間違いなく、世界の食料統治(ガバナンス)には必要だけれども、サミットで示されたモデルは違う、そうではない、と言っています。そして、テクノロジー主導型の食料システムに「科学」が「装備」されようとしている。装備と訳しましたが、英語ではweapon、これは武器という意味ですね。科学がこのテクノロジー主導型食料システムの武器として使われようとしているという、そういう批判をカルフォルニア大学の研究者なども挙げています。そして、市民社会団体のボイコットの呼びかけに賛同して署名をした科学者が、今年6月時点で既に300名以上に上っているということです。

(5) 国連からも批判の声が

実は国連の内部からも批判の声が挙がっています。国連人権理事会は「食料への権利」特別報告者を擁していますが、いまはマイケル・ファクリという方で、その前がO.D.シュトゥールという方です。彼らが批判しているのは、人権に基づいた食料システムの改革が必要なのに、サミットで使われている人権という言葉は大変空疎である、中身がないと言っています。そして、サミットは各国政府に対して、コロナ禍とそれに起因する食料危機を解決するための実質的な取り組みを何も提供しなかったと言っています。これはかなり強い批判です。つまり食料はある、ないわけではない、あるのに人びとが飢えている。これは日本でもコメ余りと言われて、米価が下がっている、去年の半分になっている地域がある。その中で炊き出しに並ぶ人がいる。それを政治は、政策は解決できないのかという、そういうことを突き付けていると思います。そして私たちにはより良い道があるということも言っています。

また先月、複数の国連の機関が合同で発表した報告書がありますが、そこでは工業的農業・食料システムと、それに対して継続的に支払われている政府の補助金を批判しています。これをなくして、持続可能な農業を支援するべきだと言っています。ところが、実は国連食料システムサミットで提示された解決策(ソリューション)の多くが、実は工業的農業・食料システムを強化するものであるという、そういう批判があります。

(6) スポンサー、参加者からも批判が

さらにスポンサー、参加者からの批判もあるということです。いろいろなスポンサー団体、政府がありますが、その中でも重要な団体として欧州連合(EU)があります。サミットに参加したEUの高官は、ある別の国際会議でこう言っていました。サミットがいま、いろいろな形で批判をされているけれども、やはり私も感じるところがいろいろある。企業志向型のアプローチというのが多く示されたが、それではまったく不十分だ。これまでのビジネスの延長線上、つまり、「いつも通りのビジネスのやり方」(Business as Usual)に答えはないですよ、ということを言っています。そして、アグロエコロジーを支持しない人たちもいるけれど、EUはアグロエコロジーを推進しますと言っていました。持続可能な食料システムでは労働者の権利や人権というものが重視されるべきであるとも言っています。これは先ほどの国連人権理事会の主張と重なります。そして、どのような種類の農業を推進するべきなのかという問いかけを行なっていました。

(7) サミットとそのボイコットは何を意味しているのか

日本では残念ながらほとんど報じられていませんが、サミットとそのボイコット、市民社会団体や科学者によるボイコットは何を意味しているのでしょうか。既にいまの「食料システムが危機的状況にあって、それを乗り越えるために根本的な、抜本的な改革が必要である」というのは、サミットを開催した側もボイコットした側も実は合意しています。合意がまだ見出せていないのは、それでは「どのように改革をするのか」「どのような技術を採用するのか」、そして「誰のための改革なのか」ということだと思います。

これを考えるときに、私たちにヒントになるのは、「農と食の民主主義(デモクラシー)」。それから「公正な農と食」を求める闘いがいま行われているということだと思います。一般にニュースになっているもので言いますと、GAFAという巨大IT企業が市場を独占しているので、もっと規制をして、ちゃんと応分の法人税を払ってもらおうというような運動がありますけれども、そういったところと通じるところがあると思います。あるいは「1%対99%」ということで、世界の富が人口で言うと1%の人びとのところに集中していて、残り99%はその恩恵を受けていないという議論がずっとありますが、こういったことはやはり食料システムにおいても考慮しなければならないというメッセージではないかと思います。

3. みどりの食料システム戦略-日本は世界の縮図-

(1) 生産性向上も持続性も

ここからは、こうした食料システムサミットの経験を踏まえながら、日本の状況、みどりの食料システム戦略をめぐる状況を見ていきたいと思います。実は日本は世界の縮図ということで、この食料システムサミットをめぐる議論や状況と、みどり戦略をめぐる議論や状況はすごく似ていると思います。

まず、このみどり戦略がどういうものか、あまり馴染みのない方もいらっしゃるかも知れませんので、簡単にご紹介しますと、農林水産省が今年5月に策定したものです。目標年度の2050年までに農林水産業のCO2を実質ゼロ、カーボンニュートラルにするとか、有機農業面積を農地の25%、100万ヘクタールに拡大するとか、それからリスク換算で農薬の使用量を半減するとか、化学肥料を3割削減すること等が盛り込まれています。先ほど見ていただいたEUの「農場から食卓までの戦略」にかなり似ていますが、達成年度が20年違います。EUは目標年度が2030年になっています。そして、日本ではこのみどり戦略が今年6月のいわゆる「骨太の方針」の中にも盛り込まれ、成長戦略実行計画にも入っています。さらに、来年の通常国会でおそらくこれが法制化されてくるという流れになっています。

EUの方は先ほどご紹介した政策を国際標準にしたいという思惑で動いていますし、それからアメリカは今年2月に「農業イノヴェーション・アジェンダ」を発表しています。これは、かなりみどりの戦略と似ているところがありますが、農業の生産性向上と環境保全の両立を目指すと言っています。日本の課題は、現状で有機農業は農地の0.5%しかありませんので、遠い目標とはいえ、25%というのはかなり大きな目標になります。また、グリホサートやネオニコチノイド系農薬の基準をいままで緩和してきた経緯がありますので、これがみどり戦略で本当に転換するのか、それともこの戦略で謳われているRNA農薬という新しい農薬に置き換えていくならば、それが本当に安心できるのかというような課題が残されています。 

(2)日本でも市民社会が声をあげた

このみどり戦略は、推進体制がまさに省を挙げて取り組むという状況になっています。そして、策定の前に「多様な主体」との意見交換を行なったというふうに言われています。「多様な主体」というのはまさにサミットでも使われた言葉ですけれども、これは政府が抽出した農業団体や農業資材メーカー、食品業界、消費者団体などということで、例えば我々の団体はここには入っていません。そして、市民社会の声はどうかというと、日本ではこのみどりの戦略によって政府がようやく有機農業を推進してくれると歓迎する声、期待する声も結構ありますが、実は今年3月に中間取りまとめが出て、いざ蓋を開けてみるとかなりの反対意見が出てきました。

パブリックコメントを2週間、短かったのですが行なったところ、全国から1万7千通以上のコメント・意見が届きました。そのうち95%以上が、この中間取りまとめにたくさん登場していた「ゲノム編集技術を推進する」という方向性に対する懸念でした。科学技術、ゲノム編集とかRNA農薬、ロボット技術、AIなどが偏重されているとか、有機農家がすでに確立している技術への言及がないのはおかしいのではないかという意見が相次いでいます。そして、生産者や消費者への説明が不十分であるとか、意見を反映できる仕組みが整理されていないので改善を求めるという意見もありました。そして、私たちの団体も意見書を出しました。ここにあるURLから読んでいただくことができます。中小規模の家族経営に対する言及がまったくなかったので、それに対する言及、位置づけ等を求めました。このパブリックコメントに対しては、農水省側の回答が出ていますが、結果としてはゲノム編集に関する記述は、本文では大幅に削減されました。ただ参考資料の方には結構、登場します。そして、政府の立場としては、これを推進することには変わりはないけれども、一般市民の理解が不十分なので、丁寧に説明して理解を促すという立場を取っています。最終版では中小家族経営にも言及はしていますが、中小家族経営が新しい技術を使えるようにするというような言及のされ方です。既存の有機農業技術についても、修正後は一部、反映されたという状況になります。

ただみどり戦略の最終版の中身を見ると、みどり戦略の以前から推進されていたスマート農業とバイオテクノロジーをベースとして、脱炭素化に向けた取り組みを加える、表書きを変えているというような印象が強くあります。この食料システムサミットに反対している市民社会団体は、「古いワインを新しいボトルに入れ替えた」という表現をしています。ラベルには「イノヴェーション」とか、「気候変動」とか、「グリーン」と書かれているので、新しいワインかと思って飲んでも、実は中身は同じですよ、そういうような風刺をしています。まさにそういう印象がみどりの戦略に対してもあります。みどり戦略が、これまでの農業近代化路線を根本的に転換する戦略になっているかと言うと、現状ではなっていないです。この食料システムサミットとみどり戦略、市民社会が示す懸念の構図というのは、見ていただいたら分かると思いますが、すごくよく似ています。問われているのは「誰のための食料システムの転換なのか」、そして「誰がその農業を担うのか」ということではないかと思います。

4. 「代替案」への代替案を求めて

(1) 農民なき農業か、農民的農業か

それでは次に「『代替案』への代替案を求めて」ということで、代替案にカギカッコを付けているのは、食料システムサミットやみどり戦略で示されている「代替案」(alternative)は、農業生産者、農民側、市民社会側にとっては代替案(alternative)ではないということです。ここで問われるのが、第一に「農民なき農業か農民的農業か」という点です。みどり戦略が目指すのはまさに「農民なき農業」だと思います。前提条件として少子高齢化や過疎化、人口減少などがあり、それを解決するために省力化の技術、無人走行できるトラクターとか、自動で収穫をしてくれるロボットとかを導入するとしています。それと食料生産ラインは完全に無人化すると言っています。そして、スマート農業の実証実験では、労働時間が4割削減できるということを謳っています。まさに農民なき農業です。

実はこういうことがサミットでもアピールされましたが、政府の中間報告をよく読むと、大規模な稲作の経営でもこのスマート技術を導入することによって、たいへん費用が掛かりますので、利益が9割減少しています。でも、こうしたことはあまり語られていません。省力化技術は一般的に歓迎される傾向が社会の中ではあります。労働生産性の向上ということは、労働時間が減って人件費が削減できるので、安価に大量生産ができますよ、ということで国際競争力が上がると言われます。けれども、そこで目指されるモデルというのは、農地の集約化、集積、どんどん規模拡大をして輸出を目指すというモデルにどうしてもなってきますので、政策的支援からこぼれ落ちてしまうような経営をどうするのかという問題があります。

これに対して、次年度の予算案で出ている人・農地プランという、誰がどれくらいの農地を集積するのか、集めて経営するのかという、いままでの方針が、もしかしたら変わってくるかもしれないというところに来ています。いままでは大規模化を志向する認定農業者等でないと農地を借り受けられないというような、あるいは補助金がもらえないということがあったのですが、その制度の対象に小規模家族経営や半農半Xと言われる規模拡大を志向しない兼業農家、そういう人たちを含めるという議論をしています。ですから、もしそれが実現すれば、いままでの方向が変わるかもしれませんが、これはまだ予断を許さない状況だと思います。

こちらの図は、従来の農業モデルの発展方向です。いままで農業政策担当者も多くの研究者もこういう考えでした。つまり、経営規模をどんどん拡大して販売額を伸ばすことが素晴らしいことという考えですから、図の左下の小規模家族経営や兼業農家、自給的農家というのは、まったく非効率で競争力がなく、こういう人たちに農業を続けてもらっては困るという、そういう考えがありました。いまでもそう思っている方は少なからずいらっしゃると思います。ですから効率的な大規模企業経営にして、専業農家、輸出志向の国際的な農家を育てようという、そういう考えでした。

ところが、このモデルで完全に抜け落ちているものがあります。それは「社会的指標」と「環境的指標」です。社会的指標と言うのは、農業経営は規模拡大するほど、それから省力化するほど、農業人口、農村人口が減少していくという矛盾です。農業人口、農村人口が減少すればコミュニティーは衰退します。ここをどう考えるのかということが、これまでほとんど考慮されてこなかった。そして環境的指標というのは、大型機械、大型施設の導入をするほど、単作化、モノカルチャー化するほど環境負荷は増大していく。そして輸出志向型農業になればなるほど、食料は長距離輸送になって食品廃棄やロスが出るし、輸送や保管、そして廃棄のための温室効果ガスが増加するという、こういう矛盾がありますが、これまではほとんど不問にされてきました。

社会的指標と環境的指標を縦軸、横軸に導入して、農業類型をもう一度見直してみるとどうなるでしょうか。図に表すとこういうふうになると思います。要するに、右上の第一象限のところが資源・エネルギーをたくさん消費するタイプの農業です。省力的なので人手はかかりませんが、農村は過疎化する。いまスマート農業と言われて目指されている大型機械、装置型の施設を用いるような近代的経営がここに入ってくるわけです。なかなか社会面、環境面からみて、持続可能とは言い難いのではないかと思います。それに対して左下・第3象限のアグロエコロジーを見ていただくと、これは従来すごく効率が悪いと思われてきましたが、実は資源・エネルギーをあまり必要としない低投入型の農業であり、しかも労働集約的なので、農村に就業機会、生計を営む機会を提供して、過疎化に歯止めを掛けることができるという、そういう違ったビジョンが見えてくると思います。これはそれぞれのシナリオごとの説明ですが、時間が押してきたので省略したいと思います。

それでは、諸外国はどういう対応をしているかということですが、EUは実はもう既に小規模家族農業を推進する政策を導入しています。そして、さらに2023年から始まる共通農業政策(CAP)の中では、農業経営の規模拡大を積極的に抑制する政策、つまり農業補助金は農業経営の規模が拡大するほど、いまはたくさんもらえる制度ですが、それに対して上限を設ける。そして規模を拡大すればするほど、もらえる補助金が少なくなるような制度設計に変えています。そして、余った補助金は小規模経営に再配分をするという、そういう形で小規模経営をたくさん地域に作っていく、家族農業をたくさん地域で育てていくことこそが農村社会の持続可能性を高め、そして環境的にも経済的にも持続可能な、そして社会的にも公正な農業経営ができるという、そういう考え方に完全に転換をしています。

そしてあまり知られていませんが、実はアメリカでも小規模農業というのは重視されています。1990年代末から農務省の中では、「経営規模はこれ以上拡大しては危ない」と警鐘が鳴らされていました。そして支援するべきは小規模農業だということが、ちゃんと報告書にも書かれています。そして、国連機関や世界銀行のグループなどは2010年前後から、「農薬や化学肥料に依存した大規模で工業的な農業、これを見直して小規模、家族農業によるアグロエコロジーを推進しましょう」ということを言ってきています。

そこで日本ではどうするかということですが、農業生産者というのはまさに、地域で買い物をし、子育てをし、通院をしたりする、暮らしている生活者です。そして国土の3分の2が森林で、農地の4割が中山間地域、農家の4割も中山間地域にいるということを踏まえれば、やはり先ほどの図2のモデル1ではなく、モデル3の方向に向かう、そのための農業政策が必要だと思います。少子高齢化とか都市化、過疎化ということを前提条件にせずに、社会の構造全体のデザインを見直していく、そういう頭の柔らかい発想をしていかなければいけないと思います。

(2) 工業的スマート農業か、アグロエコロジーか

そして第二の争点は、「工業的スマート有機農業か、アグロエコロジーか」ということだと思います。まず気候変動、気候危機、それから生物多様性の喪失ということで、やはり農薬・化学肥料に依存したいまの農業はもう見直さなければいけないということは共通認識になっていますが、では次に来る新しい農業、代替技術というのは何かというところではすごく意見が分かれています。

食料システムサミットやみどり戦略で示されている科学技術や技術革新、イノヴェーションというものは、ロボット技術やAI、情報通信技術、ICTとかゲノム編集がこの持続可能性に貢献すると言っていますけれども、それは言ってみれば、工業的スマート有機農業というふうに言えると思います。それに対して示されている懸念や批判は、知的財産権とか特許権によって技術が囲い込まれていたらどうするのか、農民はそこから恩恵を得られないのではないかということです。特に公的研究機関から民間企業主導型の開発に代わっていった場合、その懸念は強まります。日本でも実際に種子法の廃止や種苗法の「改正」によって農家の「種子への権利」が脆弱化してきています。そして、ゲノム編集による生態系や安全性への影響が消費者によって強く懸念されているにもかかわらず、日本では外来遺伝子を組み込んでいなければ、安全審査や表示の必要はなく、もう既に2つ販売されることになっていますので、そういう状況が懸念されている。そして大規模化、単作化というものが、気候変動や「農村の緩慢な死」に結び付いてきたにもかかわらず、それでもそれを推進しようとしている農政があるということが問題です。

そして、エコロジカルな集約化、持続可能な集約化ということで、これは日本語では聞きなれない言葉ですけれども、こういう表現で海外ではいろいろ批判されています。どういうことかと言うと、「持続可能性」とか「SDGs」、「グリーン」と聞くと、すべて正しいこととして受け入れがちなんですが、ではそれを語っている企業の実態はどうなっているかということが十分に私たちの目の届く状態になっていない、あるいは政府による規制がされる状態になっていないという懸念があります。そして、グリーンで環境には優しいかもしれないけれども、実はグリーンと言われる前の食料システム内に既にあった、既存の権力関係、力関係、パワーバランスというものはまったく変わっていないのではないか、という問題があります。先ほどの「1%対99%」のような問題が食料システムにもある。そして、「グリーン」とか「SDGs」「持続可能性」を口実として、新たな資源収奪や労働者の搾取につながるのではないか。こういうことを市民社会団体は強く懸念しているわけです。

そして、民主的で公正な農と食のあり方、これがアグロエコロジーというふうに言われていますが、これが何を意味しているかと言うと、単に環境に優しいだけではもう不十分だということです。社会的に公正で民主的な農と食のあり方、すなわちアグロエコロジーでなければダメだという、それが市民社会側からのメッセージです。そしてガバナンス、統治のあり方というのを、アグロエコロジーを実現するためには見直す必要があると思います。科学者が実験室で開発するいわゆる最先端技術、これがすごく重んじられているのがいまの日本社会であり、国連食料システムサミットなわけですが、実は農家の手で確立され、実践されている技術、経験知とか暗黙知、そして女性の知、先住民の知を排除しない統治のあり方が重要になるわけです。そして、農業試験場や大学や企業が開発した技術や品種をトップダウンで農家に普及しようとする、そういうモデルというのは、ヨーロッパなどではもう既に完全に時代遅れと言われていますが、日本ではまだまだこういう傾向が強いので、こういったものを見直す必要があると思います。 

5. 権利論の発展と貿易自由化の再考

最後に近づいてきましたけれども、ここで1つ、自由貿易、貿易自由化というものと権利論ということで少し見ていきたいと思います。これまで日本を含めアメリカでも、そしてヨーロッパでも、新自由主義的な農政観が何十年も続いてきました。有名なセリフに、1980年代にアメリカの農務長官だったR.バッツが言った「農業経営は大規模化するか、それができないのであれば廃業するべきだ」というのがあります。つまり、グローバルな市場競争下で生き残れない小規模家族農業は舞台から消えてください、退場してください、そういうメッセージだったんですけれども、いまは明らかに考え方が変化してきています。

スイスのジュネーブにある国連人権理事会からは、こうした考え方に明確に異議が唱えられ、農民組織のビア・カンペシーナが2008年に起草した宣言を元にした「農民の権利宣言」が、2018年12月に国連総会で賛成多数で採択されました。農民らの人権の擁護、つまり食料主権や土地への権利、種子への権利、こういったものを謳った権利が採択されました。そして私たちは、国際社会はいままで「開発が不十分だから貧困や飢餓があるんだ」というふうに考えていたわけですけれども、実は「食料危機とか貧困は低開発の問題ではなくて、権利保障が不十分だったからだ、あるいは権利が侵害されてきたからだ」という認識を示して、意識転換を図ったという意味で、たいへん画期的な宣言になっています。

そして、この国連人権理事会は、先ほどご紹介したマイケル・ファクリが、昨年7月に「現行の世界貿易機関(WTO)の農業協定は食料安全保障や気候変動対策、人権上の懸念などに有効な結果を残せなかった」として、「これは段階的に廃止するべきだ」とまで言っています。これも残念ながらほとんど日本では報道されていないですが、こういう段階に議論がきているということです。そして「食料への権利に基づく新たな国際的な食料協定に移行するべきだ」という提案をしていまして、この報告書の日本語訳、仮訳ですけれども、私たちのホームページで読むことができますので、興味のある方はぜひご覧ください。

6. おわりに-日本農業への示唆-

いま私たちはまさに移行期(transition)の時代にいる、歴史の分岐点にいるということだと思います。日本農業が「新たな装いのグリーンな工業的農業」に向かうのか、それとも「小規模・家族農業によるアグロエコロジー」に向かうのか、その選択を私たちはいま、しなければならない、迫られているということだと思います。社会的、環境的、そして経済的な指標で農と食の持続可能性を評価するならば、自ずと後者に旗が上がるということは、先ほどの図でご説明したとおりです。

政治の対応としては、実は2019年の国政選挙以降、与野党問わず、ほとんどすべての主要政党は家族農業を支援するべきだと言っています。ある意味で、争点はもうその次に移っているということです。農業の持続可能性だけではなく、農村社会の持続可能性を展望できるのか。そして、具体的な予算を伴う小規模家族農業、アグロエコロジーの支援ができているのか。そこが問われなければならないと思います。そして、農と食を超えて、私たちの社会や文明のあり方も、いま問われているのではないかと思います。気候変動や生物多様性、SDGsということを言われていますが、これは単に農や食のあり方が変わるだけでは不十分で、私たちの価値観とか、社会のシステム、仕組みそのものが変わらなければならない。こういったSDGsとか気候変動、生物多様性などは、「できることだけ可能なかぎり、できるだけ頑張ります」ということではまったく不十分で、いま現在、私たちが「その選択肢はない、あり得ない、無理だ、不可能だと思っていることをやらなければならない」ということだと思います。

最後にもっと知りたい方のために、今日お話したサミットや、それをボイコットしている市民社会団体、2つグループがありますが、そちらのホームページ、それから私たちのホームページ、私の論文などを資料に掲載しておきました。

以上で終わります。ありがとうございました。