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【報告】世界農業遺産と家族農業に関する国際シンポジウム

· イベント

FAOは、日本政府(農林水産省)のトラストファンドを受けて、世界農業遺産(GIAHS)と家族農業に関する国際シンポジウム(2021年10月18~20日)をオンラインで開催しました。本シンポジウムでは、世界農業遺産と国連「家族農業の10年」の行動計画(アクションプラン)が、どのように家族農業の多面性を強化できるのかに焦点を当てました。登壇者は、家族農業団体の代表者や世界農業遺産の登録地域の代表者です。主な参加者は、農業団体、国連「家族農業の10年」の関係者、世界農業遺産の関係者、政策立案者、政府職員、研究者、NGO、FAO、国際農業開発基金(IFAD)、および国連機関の職員等です。

1日目の開会あいさつでは、農林水産省の松本まさお審議官が、家族農業が世界の食料の80%以上を供給しており、貧困・飢餓の撲滅や農村開発において重要な役割を果たしていること、世界農業遺産の認定地域で実践されている農業が持続可能性に貢献していること、そのため日本政府としてトラストファンド「世界農業遺産を通じた持続可能な家族農業のための国際的活動支援」を拠出していることを説明しました。同トラストファンドでは、(1)家族農業がどのような貢献をしているかについてのデータ収集・分析、(2)成功事例の取り組みを他の地域に広めるためのトレーニングの実施、(3)国際シンポジウムや国際ワークショップの開催を3つの活動の柱としています。最後に、2021年12月に予定されている東京栄養サミットへの参加を呼びかけました。FAO気候変動・生物多様性・環境事務所のZitouni Ould副所長は、家族農業は多面的機能を果たしているものの、グローバル化と気候変動等による圧力にさらされていること、その中で、世界農業遺産は家族農業を基礎とした伝統的な農業実践であり、その保全、継承、高付加価値化に寄与していること、成功事例とともに教訓も学ぶ必要があること等を述べました。

続く第1セッションでは、5つの報告とパネルディスカッションが行われました。第1報告は、FAOで国連「家族農業の10年」を担当するMarcella Villarrealさんが、家族農業の定義や国連「家族農業の10年」の世界行動計画、家族農業の知のプラットフォーム(Family Farming Knowledge Platform: FFKP)、この「10年」の最初の2年間(2019~2020年)の取り組みと成果、世界農業遺産プログラムが国連「家族農業の10年」の後押しをすることを期待する旨を述べました。第2報告は、世界農村フォーラム(WRF)のLaura Lorenzoさんが、「国際家族農業年」(2014年)や「家族農業の10年」の設置に向けた長年の取り組み、「家族農業の10年」の最初の2年間の成果、コロナ禍による影響、世界農業遺産と「家族農業の10年」の共通性・親和性等について報告しました。

第3報告では、アジア農民の会(AFA)のIrish Banguilatさんが、アジア地域における家族農業の重要性、直面している課題、コロナ禍による影響、女性の役割、「家族農業の10年」の国内行動計画や地域行動計画の策定状況、今後の課題等を紹介しました。「家族農業の10年」を実施する際に重要なメッセージ「農民が持っているもの、農民が知っていることを土台とせよ」「農民・漁民を中心とした、農民・漁民が主導する、農民・漁民に親和的な取り組みをせよ」は、高度な先端技術(テクノロジー)に安易に頼ろうとする企業主導型の解決策(ソリューション)やそれを支援する政府・国際機関に対する痛烈な批判のようで印象に残りました。最後に、Irishさんはアグロエコロジー、伝統品種、食料主権にもとづく農村女性の能力向上の取り組みや協同組合による取り組みも紹介しました。

第4報告では、日本の家族農業団体として家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)の関根佳恵さん(常務理事)が、FFPJの活動、日本の家族農林漁業の状況と直面している課題、「家族農業の10年」開始後の農業関連政策の変化、この「10年」の間に実現するべき支援政策等について報告しました(報告資料発言)。第5報告では、FAOで世界農業遺産のコーディネーターをしている遠藤よしひでさんが、世界農業遺産の認定制度や理念、登録地域での実践、本シンポジウムのねらい等について報告しました。

パネルディスカッションでは、家族農業は国・地域によって多様であり、一つの定義を適用しようとするより、複数の指標や基準で国・地域ごとに定義した方が現実的であることが確認され、パネリストや参加者から様々な定義が共有されました。国連「家族農業の10年」では、家族労働力が主体となる農業であるとしていますが、それに加えて、農地面積が一定以下の規模であること、法人化したアグリビジネスではないこと、農業を営む地域に住んでいる農家であること等も重視されていることが指摘されました。また、世界農業遺産の認定地域で策定される行動計画を「家族農業の10年」の地域行動計画として発展させること、家族農業の知のプラットフォーム(FFKP)や家族農業団体、農民フォーラム等のネットワークと世界農業遺産プログラムが連携して成功事例等の情報交流を進めること、世界農業遺産やその他の地域の家族農業の生計を支えるための農産物の販路として、学校給食等の公共調達と連携することの重要性等が議論されました。

主催:国連食糧農業機関(FAO)

開催日:2021年10月18日、言語:英語(日本語の同時通訳あり)

会場:オンライン(Zoom)、参加費:無料

開催概要(FAOのイベントページ、英語)