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国連「家族農業の10年」の日本における国内行動計画(ナショナル・アクション・プラン)の作成に向けて

国連「家族農業の10年」では、各国は世界行動計画(グローバル・アクション・プラン)に沿いながら、国内行動計画(ナショナル・アクション・プラン)を策定し、実施することが求められています。2019年10月10日、東京都千代田区の衆議院第二議員会館で行われた「グローバル・アクション・プラン学習会」(講師:関根佳恵愛知学院大学准教授)をもとに解説します。

全会一致で可決した家族農業の10年

 国連「家族農業の10年」は、国連総会決議で決まっているため、全ての加盟国が取り組みの責務を負います。議案はコスタリカが他の13の政府と牽引して作成し、日本を含む104か国の支持を得て、2017年12月17日の国連総会で全会一致で可決されました。市民社会の活動は2008年ごろから始まっていましたが、当初は成立が難しいと言われただけに、偉大な成果として評価されています。

 家族農業の10年は持続可能な開発目標(SDGs)と密接な関係にあり、国連加盟国は、家族農業の10年を通じて各国の中で家族農業がSDGsに貢献できる環境をつくる責務を負っています。

 2018年11月にイタリアのローマに設置された国際運営委員会(ISC)は、25の国と組織で構成され、家族農業の10年の運営主体として世界行動計画の作成やモニタリング結果の国連総会への報告を担います。2019年5月29日、家族農業の10年の開幕式がイタリア・ローマの国連食糧農業機関(FAO)本部で開催され、世界行動計画(グローバル・アクション・プラン:GAP)が正式に発表されました。今後は毎年10月に開催される世界食料保障委員会(CFS)で各国の活動状況や計画の達成度をモニタリングして報告し、2年ごとに行動計画を見直すことになっています。

 日本では、農林水産省に家族農業の10年の窓口が設置され、国際部と経営局が担当しています。民間団体としては、2019年6月に設立された家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)が農林水産団体、市民団体、学識経験者などが集まる場として機能することが期待されています。

関根佳恵さん

家族農業の10年のビジョン

家族農業の10年のビジョンには、どのような世界のあり方を目指すのかが示されています。

  • 多様で健康的で持続可能な食と農のシステムが花開き、レジリエンスの高い農村と都市のコミュニティで質の高い生活を送れて、尊厳と平等を実現し、貧困と飢餓から解放されている世界を目指す。
  • 家族農林漁業は、このビジョンを達成するために欠くことができない存在である。
  • 現在および将来世代のニーズを考慮して、関連する政策、プログラム、規制によって家族農林漁業の組織、包摂、経済能力を保護、拡大する。
  • 家族農業の多様性を持続可能な発展の中心に据え、2030アジェンダ(持続可能な開発目標:SDGs)に貢献する。
  • この旅は今始めねばならない。

 レジリエンスとは、回復力、弾力性などと訳され、例えば自然災害や経済的危機など外的ショックに対する回復力のことを指します。

世界行動計画とは

 世界行動計画は、持続可能な発展の鍵となる家族農林漁業者を支援するために、家族農業の10年における世界の行動を共同で実施し、一貫性のある形で加速していくためのものです。各国で地理的状況や社会的状況に鑑みて適切な措置を講じ、国連の栄養の10年、生物多様性の10年、パリ協定、農民の権利宣言など関連する取り組みの実施と共同して進めなければなりません。

 世界行動計画は、世界各国の60の関係団体へのインタビュー調査、国際食料保障計画委員会、世界農村フォーラム(WRF)、ビア・カンペシーナによる提案、オンラインアンケート、世界家族農業会議での議論などを経て策定されました。

 世界行動計画には、いつまでに何を達成するのか、具体的な目標、行動、成果が明記されています。政府が介入すべき分野、家族農林漁業者にとっての障害などを包括的に分析し、幅広い活動計画を立てるとともに、データ収集や助言・普及活動、コミュニケーション、アドボカシー活動など、それぞれに適正な予算を伴う政策立案に結びつけることを目標にしています。

 政府がトップダウンで行うのではなく、多様な主体が協働して関わりながらも、家族農林漁業者が前面に出るような、ボトムアップ型、参加型であり、包括的なアプローチが重視されています。

世界行動計画の実施は各国、日本でいえば、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンが推進力となり、政府は各国における取り組みを把握することが求められます。

学習会会場で話を聞く参加者たち

行動計画実施における国連と各国の役割

 家族農業の10年の共同事務局である国連食糧農業機関(FAO)と国際農業開発基金(IFAD)は、家族農林漁業者と各国の行動計画を実施する組織を支援します。2024年までに世界100か国が国内行動計画(ナショナル・アクション・プラン:NAP)を提出することを目標としています。

 各国の主体は、家族農業の10年の共同事務局に国内行動計画を提出します。各国からの報告は2年に一度レポートとしてまとめられ、国連総会に提出され、2年ごとに行われる世界行動計画の見直しに活用されます。レポート作成の場は、政府とステークホルダーの対話の機会にもなります。FAO・IFADは各国のレポートを分析し、アドバイスを行います。

 家族農業の10年はSDGsの一角をなす位置付けになっており、その報告のメカニズムとタイムラインは、SDGsのモニタリングに沿って行われます。各国政府と家族農業の10年の実施主体は、2030アジェンダの定期任意ナショナル・レビューと連携して、活動成果を報告します。報告された成果は、家族農業の10年の国際運営委員会(ISC)が分析する。分析に当たっては、モニタリング・ワーキンググループが設置され、モニタリングのツールを開発する予定です。

 このようにして、各国の家族農林漁業の状況、成長、課題、教訓を共有、分析し、家族農業の10年の取り組みの有効性を評価し、アドバイスを行います。ステークホルダーはモニタリング実施に協力する役割を担うことが期待されており、家族農業の10年のウェブサイトにレポートとして投稿することも可能です。

世界行動計画の7つの柱

 世界行動計画は、以下の7つの柱で構成されます。

  1. 政策:家族農業の強化を実現できる政策環境を構築する
  2. 若者:若者を支援し、家族農業の世代間の持続可能性を確保する(横断的柱)
  3. 女性:家族農業における男女平等と農村の女性のリーダーシップを促進する(横断的柱)
  4. 農林漁業組織:家族農業組織とその知識を生み出す能力、加盟農民の代表性、農村と都市で包括的なサービスを提供する能力を強化する
  5. レジリエンス(回復力):家族農家、農村世帯および農村コミュニティの社会経済的統合、レジリエンスおよび福祉を改善する
  6. 気候変動:気候変動に強い食料システムのために家族農業の持続可能性を促進する
  7. 多面的機能/多就業:地域の発展と生物多様性、環境、文化を保護する食料システムに貢献する社会的イノベーションを促進するために、家族農家の多面性を強化する

 以下に、それぞれの内容と解説を紹介します。

1 政策
  • 家族農林漁業を支援する政策、投資、制度的枠組みを地域、国、国際レベルで構築し、強化する。
  • 包括的で効果的な統治とタイムリーで地理的に妥当なデータを提供する。
  • 政府・非政府の政治的コミットメントおよび投資を保証する。
  • 家族農林漁業の権利と多面的役割を理解し、国際、国、地域レベルの協力と連携を構築・強化する。

 世界的に統計データが取られておらず、実態が把握されずに政策が決められていることが背景にあります。エビデンスに基づいた政策立案のためにデータが必要です。また、プラットフォームやプラットフォームに入っていない農林漁業者、消費者も含めて政策に関与することを目指しています。

2 若者
  • 世代間の持続可能性(世代継承)を確保するために、若者が土地、その他の自然資源、情報、教育、インフラ、金融サービス(融資)、市場、農業関連政策の策定にアクセスできるようにする。
  • 若者が包括的な農村開発の主体になれるように、目に見える財、または見えない財の世代間継承を受けることができ、伝統的・地域的知恵と革新的なアイデアに触れることができるようにする。
3 女性
  • 食料・農産物生産における女性の権利と男女平等を達成するために役立つ手法と行動をとる。
  • 女性組織の強化、自己啓発の促進、自己能力開発プロセス、女性の自立促進を通じて、生産的資源(農地や農業機械)・金融的資源(融資など)、特に土地、情報、社会的保護政策、市場、就業機会、教育、機会、教育、適切な普及サービス、女性に優しい技術、政策決定過程への完全な参加にアクセスでき、運営することができるようになる。

 こうした問題は、途上国のことと思われがちですが、日本など先進国においても女性の権利状況は深刻です。若者や女性が農林水産業の分野で特に政策決定に関与できておらず、改善されるべきものとして位置付けられています。

4 農林漁業組織
  • 全ての農村組織(協会、協同組合、市民社会組織を含む)において、家族農林漁業者が自らを組織化する権利を確保できる。
  • それにより、変革主体としての彼らの能力強化、都市と相互に調和的な形でつながった農村地域の経済的・社会的・文化的・環境的多様性の強化、すべてのレベルにおける家族農林漁業者の意思決定プロセスへの実質的参加の強化を促す。

 個々の農林漁業者は規模が小さく、政府や企業を相手にした交渉力が弱いため、組織化することで影響力を持って発言することができるようになります。このことは農民の権利宣言にもうたわれています。

5 レジリエンス
  • 家族農林漁業者の生計を改善し、多様な危機に対する彼らのレジリエンスを強化する。
  • 農村コミュニティの基本的社会的・経済的サービスへのアクセスを向上する。
  • 家族農林漁業者の社会的・経済的・環境的脆弱性を改善し、人権を実現する。
  • リスク低減のために生産の多様化を促進する。健康的で栄養豊かな食料消費を促す。
  • 適正な報酬の確保と投資のために、包括的な市場と食料システムへアクセスする。幅広く多様な経済的機会を確保する。

 レジリエンスは、昨今の災害の時代には大変重要なポイントです。大量生産、画一的なモノカルチャーから抜け出し、多様な生産システムを作ることがレジリエンスにつながることを意味しています。日本では農産物の輸出が希望といわれていますが、国際的な市場に集中するのではなく、包括的な市場とは地域市場や国内市場を重視していくことが大切だということです

6 気候変動
  • 土地、水、その他の自然資源への家族農林漁業者のアクセスを改善し、責任ある管理を促すことにより、持続的で多様な生産を強化する。
  • それにより、家族農林漁業者の気候変動へのレジリエンスを高め、生産性を向上し、経済的生存力を強化する。
  • 家族農林漁業者にとってより可能性のある市場を促進し、彼らの活動を多様化し、農村における新しい就業機会を創出し、先住民の知識や伝統的な知識を評価・促進し、多様で栄養価が高く、文化的に適切な食を強化し、持続的でレジリエンスが高く、包括的な食料システムを促進し、農村と都市の双方において健康的な食生活を送れるようにする。

 可能性のある市場とは、例えば学校給食などが挙げられます。農林漁業者の活動を多様化することが、多就業化、雇用の創出にもつながります。

7 多面的機能・多就業
  • 環境を保護し、生態系の多様性、遺伝資源、文化と生活の多様性を保全し、家族農林漁業者のサービス、生産、加工に役立つ市場を強化する。
  • より多様な食料消費を実現し、経済的機会を増やしながら、伝統的な実践や知識、農的生物多様性を保護し、地域の発展に貢献する。

 日本では6次産業化や農商工連携などと呼ばれる、生産だけでなく加工などへの取り組みを促すことで、レジリエンスにつながります。

関根佳恵さん

国内行動計画(ナショナル・アクション・プラン)とは

 国内行動計画(ナショナル・アクション・プラン:NAP)とは、各国において家族農林漁業に関わる政策、プログラム、規制、確実な手法、具体的義務を定める、調整された計画のことです。家族農林漁業の持続可能な発展を支持する当該国のロードマップを含み、最終的には各国政府が家族農林漁業を利する責務を負います。

 国内行動計画は、持続可能な家族農林漁業の実現のための具体的メカニズムであり、いつまで何をしたらいいのか、そこに向けて行動していくために重要なものです。また、政府(農林水産省、国会議員等)と家族農林漁業者の代表が対話をする貴重な機会を提供し、計画作成のプロセス自体が政策対話の機会であり、包括的対話のツールでもあります。政府に家族農林漁業組織の意見を聞いてもらうことができ、家族農林漁業の優先事項を政府と一緒に定めることができ、政府やその他のステークホルダー(国際組織、研究機関、開発組織等)とともに合意に達することができます。

 国内行動計画は、政府、公共機関、地域の政府間組織が、家族農業全国会議(NCFF:日本では家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンが登録された)を含む主要なステークホルダーを巻き込んで包括的に策定することが推奨されています。FAO・IFADの各国・地域事務所も鍵となる役割を果たし、NCFFは家族農業の10年の各国レベルの推進力となります。国内行動計画が完成したら、各国政府は各国のFAO・IFADの事務所を通じてローマにあるFAO・IFAD本部(家族農業の10年の共同事務局)に提出します。

 各国は、政策、政府による投資(融資・補助金を含むと思われる)、および農村コミュニティにおけるその影響をモニタリングします。2年毎に活動のモニタリング報告書を、2030アジェンダの任意各国評価と関連付けながら作成します。NCFFおよびプラットフォームが国内行動計画の策定、モニタリング、実施に携わることは、家族農業の10年の成功にとって鍵となることは疑いないでしょう。

 今後は、短期的にはプラットフォームを強化し、国内行動計画の策定を促進し、中期的には行動計画の実施に貢献し、長期的には影響評価していくことを10年で実施することが大まかなロードマップとなります。日本でも、2024年までに何をするのか、2028年までに何を実現していることをゴールにするのかを考えていかなければなりません。

参考文献

FAO and IFAD. 2019. United Nations Decade of Family Farming 2019-2028. Global Action Plan. Rome.

http://www.fao.org/3/ca4672en/ca4672en.pdf

WRF. 2019. Guidelines for the Promotion of the National Plans for the United Nations Decade of Family Farming. Bilbao.

WRF. 2019. National Committees of Family Farming Roadmap. Bilbao.

※本記事は、2019年10月10日に家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)が開催した「家族農業の10年の世界行動計画(グローバル・アクション・プラン)学習会」を基に構成しました。

解説=関根佳恵(愛知学院大学准教授 、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン常務理事)、写真・構成=奥留遥樹