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【仮訳】国連食料への権利に関する特別報告者の中間報告

国際貿易法と政策における食料への権利

· ニュース,インターナショナル

「食料への権利」を実現するために国連人権理事会が任命する国連食料への権利特別報告者のマイケル・ファクリ(米オレゴン大学教授)は2020年7月22日、WTO農業協定の段階的廃止とそれに変わる尊厳、自給、連帯などを原則とする新しい食料協定の締結などを求める最初の報告書を出しました。以下、その仮訳を掲載します。

*注は省略されています。

*あくまで仮訳です。英語原文はこちらからご覧ください。

要旨

食料への権利に関する特別報告者マイケル・ファクリは最初の報告書で、国連総会に対して、貿易政策は主として経済的枠組みに焦点を当て、周辺化された人々の人権上の懸念事項に目を背けてきたと伝えた。同時に、人権政策は、貿易に関する強力な社会政治的批判を提供したが、既存の体制への制度的対案をもたらしてはいない。どちらのアプローチも気候変動に対して十分な対応とはなっていない。本報告書は、貿易の観点と人権の観点の双方を取り込み、政治・経済・環境の観点で食料への権利についての理解をあらためて向上させうる原則と制度地図を提供する。

I. 序論

1. 「通常には戻らない。『通常』には問題があるからだ」との人々の叫びが、チリで壁に投影され 、世界中のユニオンホールで耳にされる 。本報告書の時期、世界はコロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの只中にある。どれだけパンデミックが続くのか、今後どうなるか、誰も知らない。明白なのは、ウイルスが甚大な被害をすでに引き起こし、最悪の事態はまだこれからだということである。人々は前例のない速さで職を失っている。多くの子どもの食料源となっている学校が休校となり、多数が通常よりも食事をできていない。多くの政府が対応を急いでいるが、基本的な資源に手が届かない人々はいまだに何百万もいる。ウイルスは新しいが、その影響は周辺部、脆弱な人たちにとって最も厳しいと予想される。パンデミックは、何十年間、一部は何世紀も続いてきた不平等を悪化・増幅させる。

2. パンデミックの悲惨な状況は、人々や人々の権利がすべての公共的な保健対応の成功にとって極めて重要であるとする国連事務総長や人権高等弁務官の訴えの正しさを裏付けた 。すべての人権が不可欠であり、相互に結びつき、食料への権利は、すべての短期的・長期的解決にとってとりわけ重要な役割を果たす。

3. 世界は、パンデミックの前でさえ、食料への権利の十分な実現において遅れていた。統計によれば、飢餓や栄養不良の人々の数は2015年以降上昇してきた 。一方、世界の食生活が、過度な加工食品への明白な転換を含め、少数の作物にますます均質化される中、農業の生物多様性は失われつつある 。さらに、コロナウイルスは、動物からの病気感染リスクを高める動物生息地の継続的破壊の結果として人類を襲う最も新しいウイルスというだけで、これで終わりではない 。最後に、世界は、2007年から2010年に襲った食料価格変動から回復したばかりだった。

4. 食料への権利は、食料不安は不足の問題(利用可能な食料が十分にない)か、あるいは分配の問題(食料へのアクセスの欠如)かに過度に簡略化されている。むしろ、食料をどう生産し、分配するかという問いに答える前に、権力がどう生み出され、分配すべきなのかについて理解することが求められる。

5. 今までのところ、貿易政策は主として経済の枠組みに焦点を当て、人々の人権上の懸念事項について無視、あるいは脇に追いやっている。同時に、人権政策は、貿易に関して強固な社会政治的批判を行っているが、既存の体制に対して制度的対案を提示していない。どちらのアプローチも、気候変動に十分に対応していない。

6. 食料への権利特別報告者マイケル・ファクリの本報告書は、食料への権利を国際貿易法・政策の文脈内に位置付けることによって、この袋小路を乗り越える最初の一歩である。国際貿易は、極めて重要であり、食料への権利の完全な実施を保障するために取り組まなければならない中核要素である 。本報告書は、貿易と人権政策の双方に取り込み、国と人々が食料への権利を政治・経済・環境の観点からあらためて理解するよう導くことができる原則と制度地図を提供する。特別報告者は任期中、加盟国や利害関係者とともに、新たな貿易制度の構築に向けた効果的な国際食料政策を作成するため、これらの基本要素についてさらに詳しく展開していく。

7. 本報告書のⅡでは、食料への権利がどのような意味を持つのかについて日常用語で概要を示し、これは報告書全体と食料への権利特別報告者の権限に関わる 。Ⅲは、既存の世界貿易機関(WTO)農業協定の機能の仕方と、それが適切な貿易結果、ましてや人権に関わる結果を生み出すことが本来的に不可能であることについて要約する。Ⅳは、人権と貿易政策を新たな共通の方向に位置付け、国際貿易のための人権原則の概要を示す。Ⅴは、新たな国際食料条約がこれらの原則をどのように実施するのかについて概略を示す。

8. 2020年5月の任期開始以来、食料への権利特別報告者は、様々な利害関係者と連絡を取り、食料への権利の実現にとっての現在の困難と障害について一般的意見を求めてきた。新型コロナウイルス感染症のため、協議の一部が妨げられたが、バーチャル手法を活用して、多くの話し合いが成功裏に行われた。新型コロナウイルス感染症への対応として、食料への権利特別報告者は、他の委任保持者〔mandate holders〕とともに、加盟国、地域〔lobal〕・地方〔regional〕政府、各国の人権機関、市民社会組織、学者、国連機関、その他の利害関係者から意見を求めた 。アンケートを通じて、食料への権利特別報告者は、パンデミックの間の国際および国内の食料供給網の途絶、脆弱な状況にある個人を含めたすべての人が食料にアクセスできるようにする政府の措置、農業労働者、店員、輸送業者、料理人、店主など食料労働者の働く条件、そうした人々を守るための措置に関する質問について意見を伝えるようすべての人に依頼した。特別報告者は、極めて貴重な洞察の提供のため、時間と力を割いてくれたすべての利害関係者に感謝するものである。

Ⅱ.食料への権利の意味

A.食料は、コミュニティと主権の中心

9. 食料への権利は、飢餓を逃れる権利というだけではない。それは、すべての人が食料を通じて仲間とお互いに生を祝う権利である。コミュニティが自らを定義する最も重要な方法の一つは、何を、どのように、いつ、誰とともに食べるかによって、である。コミュニティは、共通の休日、記憶、レシピ、味覚、食べ方をもって形成されている。これらの食慣習を通じて、人々は社会的、政治的制度をつくる。

10. 食料は、人々がどのように土地との関係を築くのかにとって中心的な事柄である。ゆえに、食料は、どのように主権が表現されるのかに関してカギとなる要素である。食料は、人間と、動物、植物、微生物、霊的存在、風景の複雑な生態系を相互ケアという長期的関係に結びつける拠点〔hub〕をつくる。カイル・ホワイトが次のように完結に述べている。食料生産、労働、調理〔preparation〕、消費、廃棄は、土地所有、コミュニティの生活様式、相互の贈与や生命維持、コミュニティの住民の結束、人間以外の生命の尊重と固く結びついている。

B.食料は適切、利用可能、入手可能でなければならない

11. 学説的な意味では、食料への権利は、すべての人が、常に適切な食料を利用可能で、入手できるという食料への権利を持つことを意味する。

適切な

12. 人々は、それぞれの条件に基づき、何が文化的、栄養的、社会的および環境上適切な食料か、自ら決める権利を持つ。すなわち、人々は、どの食べ物が必要であると決める権利を含め、何が「良い食べ物」かについて決める機会を持つ。国は、既存の需要を満たす義務があり、また将来世代に対して手厚く〔generous〕なければならない。

利用可能な

13. よい食べ物を利用可能にするため、人々は常に食料の確実な供給源を持たなければならない。利用可能性は、土地またはその他の天然資源に働きかけることで直接的に自らに食料をもたらす可能性を指す 。ゆえに、国は、人々の土地やその他の資源へのアクセスが公正かつ公平に分配されるように保障しなければならない。

14. 食料は、市場や店で安全に利用可能でなければならない。したがって、利用可能性に求められるのは、需要に応じて食料を生産地点から必要とされる場所に移動させることができる良好に機能する流通、加工、市場システムである 。これらについて、国は、市場が公正かつ安定し、競争可能であるように保障しなければならない。ゆえに、各国およびグローバルな市場の力が少数の手に集中してはならない。食料生産者は、その商品、労働力に見合った価格、または働きに報いる公的支援を受け取らなければならない。

15. 食料の利用可能性にとってカギなのだが、あらゆる分野、水域、工場、キッチンの労働者が健康的かつ安全な労働条件を保持しなければならない。新型コロナウイルス感染症は、人々が飢餓の危機の瀬戸際にある理由の一つが、エッセンシャルな食料労働者の健康が危険にさらされているためであることを示している。パンデミックの最中、雇用者は、安全な職場を提供せず、国も適切な支援を怠った。健康な労働者なくして、世界は安定的かつ利用可能な食料を提供できない。

入手可能な〔Accessible〕

16. 食料が常にすべての人の手に届くように国は保障しなければならない。このことは、人々が常に、よい食事を得ることができなければならないことを意味し、無料の学校給食、公正な市場、または、人々が自宅で料理すること、自らのコミュニティに食料を提供することに必要な時間と資源を持てるようにする社会制度を通じて達成されることになるだろう。

17. 食料はまた、物理的に手に届くものでなければならない。このことは、国が、すべての食料システムや制度が普遍的に包摂的なものになるよう保障しなければならないことを意味する。個人の身体能力、健康状態、法的地位、住環境にかかわらず、国は、適切な食事を手に入れる、またはつくるためにキッチンにゆくというすべての人の能力を支援しなければならない。

C. 国の義務と普遍的説明責任

18. 国は、国際システムがすべての人の人権を保障するよう、共同かつ連帯して活動する義務がある 。これには、公的機関(国際、国内ともに)および民間団体(企業を含む)が、それらが奉仕、依拠する人々に対して公に説明責任を果たすようにさせることが含まれる。

19.「食料保障」(food security)が、法的な義務を生み出さず、食料への権利よりも狭い用語であることに留意することが重要である。食料保障は、利用可能性と入手可能性にのみ対処する。それは、政治的安定に重点を置く。食料保障政策はしばしば、人々が生存する、生き残るのに必要な量の食料(生存に必要な食料)を保障することに焦点を当てる。

20.食料への権利は、適切さという幅広い定義を盛り込み、人々が尊厳を持って食べることを国が保障することを義務付ける。ここで強調されるのは、単に生存に必要な食料ではなく、栄養と栄養ある食物〔sustenance〕である。食料は人々を身体的に強くするだけでなく、政治的にも文化的にも強くするものでなければならない。この観点において、食料への権利は、食料保障のしばしば用いられる専門用語の下に組み入れられず、そうした用語によって答えられることもない、食料を生産、流通、消費する方法についての根本的に政治的な問いを提示する。

21.要するに、すべての人が自らのコミュニティにとって適切な食料は何かについて決定する権利がある。経済機構を含め、すべての国と国際機関が、すべての人が適切な食料を常に入手することを保障する義務がある。

Ⅲ.世界貿易機関農業協定

A.今日の国際貿易と農業

22. WTOの一部として1995年に発効した農業協定は、食料への権利の十分な実現の障害となってきた 。WTO農業協定は、権利保有者としての人々に焦点を当てず、人々を、経済的な潜在力〔potential〕と活動の枠にはめる。WTO農業協定において、人々は、(「低所得または資源に乏しい生産者」を含む)生産者と消費者、または、「都市と農村の貧困者」、「困窮人口部門〔sections of population in need〕」と呼ばれる。

23. この多国間貿易協定〔WTOのこと〕の長期目標は、「公平かつ市場志向の農業貿易制度を樹立すること」であり、「これは農業支持と保護の大幅な漸進的削減を通じて達成されなければならない」ことが前提となっている 。WTO加盟国は、その他のいくつかの国際法上の義務を有しているが、「食料保障や環境保護の必要を含む非貿易事項に関心を向けること」を義務付けられているだけで、これらの問題を貿易問題の中心に置くことにはなっていない。この観点において、現在の貿易制度は、食料保障を例外として、商業取引を規範として扱い、食料への権利の広範な視点を除外している。

24. 1982年以来、そしてWTO農業協定の下でも継続したが、この間の農業貿易交渉は3本の「柱」に基づいて行われてきた。

(a) 数量規制を廃止すること、市場アクセスを向上させること、国内政策〔behind-the-border policies〕を関税に転換すること、すべての農産物関税を段階的に削減すること

(b) 輸出補助金を段階的に削減し、撤廃すること

(c) 国内支持の許容範囲を制限すること

25. WTOの批判者と賛同者の双方が共有する一致点は等しく、農業協定は現実として、自由なグローバル市場を創設することも、経済が農業部門に依存している貧しい国に利益をもたらすこともしていないということである。むしろ農業協定は、強国や大企業を守ってきた。 

B.農業協定の例外

26. 農業協定は、特定の国または国内の人のグループに対する貿易の否定的影響を改善しうる例外条項を含む。国際市場においてとりわけ脆弱な国は、これらの措置を増やそうと試みてきた。これらの例外と、不成功に終わった理由は以下の通りである。

特別かつ異なる待遇:途上国が世界貿易制度で直面する不利益を認識し、これらの国にWTO規則の実施方法に関してより多くの柔軟性を付与することを意図している。例えば、農業協定は、農村開発振興のため、低所得農民向けに国内支持削減の約束から途上国を除外している。しかし、(合意約束よりも長期の実施期間、より少ない削減率など)特別かつ異なる待遇の範囲は不十分であることが多いか、(持続不可能な債務水準や慢性的予算不足に直面する国向けの無制限の財政支出の容認など)最も貧しく脆弱な国にとっては役にたたない。さらに、WTO創設以降に加盟した途上国による特別かつ異なる待遇へのアクセスは非常に限られている。概して、特別かつ異なる待遇は、途上国に不利な基本政策〔baseline policy〕を制度化する手段として用いられ、限られた、しばしば役に立たない回り道〔deviations〕をさせたに過ぎない。

特別セーフガード:関税化を受け入れた国が利用可能である。輸入の急激な増大や世界価格の低下が起きた時に、国内の農家に対して一時的な保護を提供することを意図するものである。国内市場に対して、ダンピングからのいくらかの保護を提供するため(恒常的なダンピングからの保護とはならないが)、地域の農民に対する支援となりうる。しかし、特別セーフガードの主要な欠陥は、わずか21カ国の途上国しか利用できないことである。多くの途上国はそもそも非関税障壁をもたないため、関税化に進まなかった。

特別セーフガード措置:特別セーフガードと異なり、ほぼ20年の間、33カ国グループとして知られる途上国のグループが、輸入急増や世界市場の価格下落から保護するための特別セーフガード措置として多数の提案をしてきたが、交渉は無益に終わった。パラグアイやウルグアイなどの途上国の〔農産物〕輸出国が、この制度は、自国の小規模生産者の生活をむしばむ可能性があると主張した。

特別品目:これも33カ国グループが提案した、食料生産、生活保障、農村開発を保護・促進する仕組みである。この提案は、途上国が、一定の数の生産品を「特別」と指定し、関税化の義務やその他の規律から除外することを認めるものである。問題は、技術的にも(どの作物を適格とすべきか?)、政治的にも(作物の種類の数は? どの国が適格となるのか? どれだけの保護が付与されるのか?)複雑だということである 。

後発開発途上国と食料純輸入開発途上国の食料の需要への特別な注意:WTO農業協定を作成した交渉者たちは、この協定が、後発開発途上国や食料純輸入途上国に否定的な影響を与える可能性があることを認めていた。ゆえに、交渉者たちは、協定の一部として、後発開発途上国と食料純輸入開発途上国に関する改革プログラムの潜在的な否定的影響に関する措置についての1994年マラケシュ閣僚決定を採択した。この決定は、協定の実施に続いておきた食料価格の高騰と食料援助の減少によって否定的な影響を受けた場合の、後発開発途上国と食料純輸入開発途上国に対する補償を定めた。しかし、WTO加盟国は、この決定の適切な実施を怠った。 

C.固有の限界〔inherent limitations〕

27. 過去25年間を通じて、WTO農業協定のこれらの例外・改良条項は、公正な国際市場を保障することも、国内市場を安定化することもないということが示された。さらには、WTO交渉は、1995年以降、農業貿易政策に関して前進しなかった 。数十年にわたって、誰がどんな食料を、どこで、誰のために生産するのかについての詳細が大きく変わってきた。にもかかわらず、既存のWTOの規律は、極めて不公正な帰結を固定化している 。これらは、旧植民地国、先住民、農業労働者、農民〔peasants〕が貿易制度によって傷つけられる、何世紀にもわたる貿易様式を継続する 。

28. 加えて、WTO農業協定は、開発や人権を前進させる貿易政策を進めるのではなく、資源、インフラ、信用、外国市場へのアクセスを有する国や企業に特権を付与してきた。具体的には、最富裕国の貿易自由化と国内政策は、国境を超える商品取引業者と加工業者の市場の力を増大させた。WTO農業協定は、一握りの大企業が食料システムのあらゆるレベルで果たしている支配的な役割を無視することによって、企業の力の強化に寄与した。

29. 世界の投入部門(種子、肥料、化学薬品、機械、家畜飼料など)の市場集中度は、過去数十年で大幅に上昇した。例えば、1994年から2009年までに、世界の投入部門の4大企業が、世界の販売額の50%以上を占めるようになった。これは、種子業界で最も速く、4大企業の市場占有率は1994年から2009年の間に2倍以上となった 。

30. 合併・買収が、農業食料部門の市場集中をさらに強化し、世界の食料供給を変革しつつある。2015年に、デュポンとダウ・ケミカル社が合併で合意した。2016年には、バイエルが660億ドルでモンサント買収に成功した。同じ年、中国最大の国営企業の1つであるケムチャイナ〔中国化工集団〕が、スイスのアグリビジネスであるシンジェンタを430億ドルで買収し、カナダの2大肥料会社のポタシュとアグリウムが合併で合意した 。

31. もしも、市場を支配する企業から投入材を購入し、極めて集中度が強い市場に販売する農家が公平な価格を交渉できるように各国政府が保障するのなら、この状況はそれほど深刻ではないだろう。企業と競争に関わる法律を変更し、企業の行為に制裁を加えることによって、国はこの保障を達成できる。しかし、多くの国は、企業の力を抑制したがらないか、抑制できないし、WTO規則は問題を認識していない。 

D. WTO農業協定を廃止する

32. 既存の規則の変更が求められるが、何をどのように変更するのかについては不一致と苦々しい分断が存在する。WTO加盟国が、公正さを求める長きにわたる主張に応えるため、農業協定を見直すことはできそうにない。したがって農業協定は段階的に廃止すべきだ。そうすれば、各国政府と国民は、以下に記す原則に基づく新たな国際的な食料協定の交渉が可能となる。 

IV.国際貿易のための人権原則 

A. 尊厳

尊厳と食料への権利

33. 尊厳は、国際的人権の中核であり、数多くの国の憲法や法律にみることができる。個人が恐ろしい力によって打ちのめされ、不可侵の権利を行使できない場合でも、人々は、抑圧に対する最終手段として固有の尊厳への支配を維持する。尊厳を求める強い訴えは最近では、人々が政府に対して「パン、自由、尊厳」または「パン、自由、社会正義」を要求したエジプトやチュニジアの街頭から起きた。

34. 尊厳は、「すべての人間の固有の価値および人間であることのみによって払われる尊敬」 から生じる。生活条件に関する人々の叫びの中で、パンを求める声は、基本的食料の価格の上昇と飢餓の広がりに対応するものであった。自由は、市民的・政治的権利の要求であった。尊厳は社会正義と置き換え可能だった。それは、低賃金や劣悪な労働条件を通じて人々を辱めることのない仕事に対する要求の一部であり、より広く言えば、公正な経済システムへの要求の一部であった。これら3つの要求は、適切な生活〔decent life〕のための基本要件を求める声と不可分だった。

35. 政治プロセスとして、尊厳に焦点を当てることは、人々が相互に関わり、共通の価値観の条件について話し合い、適切な最小限の国際および国内義務で合意する道である。国は、人々が自らの自尊心を相互に等しく表現するのに必要な条件を提供しなければならない。

36. 食料への権利の観点では、すべての人が、尊厳を持って食べる権利を有する。尊厳の観念は、食事づくりに関する日常の決定において常に一定の役割を果たす。人々は、何を食べるか、文化的に適切な食料を十分に有しているかを決めるため、尊厳についてのある特定の共有観念に照らしてこれらの条件を評価する。

37. 重要なのは、食料への権利は慈善行為ではないということである。尊厳ある食料に焦点を当てることは理由を説明することに寄与する。歴史的に、慈善行為は、権力や富を持つ人の慈悲や命令に頼ってきた。ゆえに、慈善機関は、権力者が、とりわけ植民地征服の文脈で、民衆を支配しようとする手段であった 。この力学は今日も継続している。

38. 新型コロナウイルス感染症は、人々の尊厳がアクセス可能な食料とどれだけ本質的に結びついているかを浮き彫りにした。人々がどのように食料を獲得するかは、どのような食料を求めるかと同様に重要である。最近のリポートによると、学校が休校し、子どもたちが食事を得られていない。企業が従業員を解雇し、人々がフードバンクに頼らなければならなくなっている。公的食料支援プログラムに新しい需要が殺到する中、食料が容易に利用可能なのにもかかわらず、人々はギリギリの暮らしを強いられている。尊厳の喪失は、日常生活の最も基本的側面の1つへの支配と力の喪失を人々が経験するところから生じる。しかし、食べることができないことは恥ではない。

39. 恥ずべきは、飢餓がほぼ常に回避できる[のに回避されていない]ということである。

40. 飢餓と飢饉は、政治的失敗が引き起こすものであり、客観的な供給の欠如や自然災害によるものではない 。人々は2つの理由から飢える。ある場合には、権力者が食料供給を支配し、権力を維持または強化するための冷酷な戦術〔cynical tactic〕として意図的に食料を供給しないことが理由である。これは、戦時にも平和時にも起こる。もう一つには、公的および民間機関が非民主的で、民衆の要求に応じず、力の集中や秩序の維持によって人々を支配しようとする時に飢える。大抵は、両方のシナリオの組み合わせとなる。実際は、飢餓はこれまで「計画的な惨劇」(planned misery)の結果であり、この分析は今日でも当てはまる。 

貿易と尊厳の政治経済

41. 貿易制度は通常、貿易収支・国際収支の観点から国単位で測られるか、または、世界全体で、取引量〔volume〕として測られる。これらの数値を伝える基底にある価値観は、貿易が増えるのはいいことだという考えである。この考えに内在するのは、人々が貿易を増やせば、消費される物品が増え、経済がさらに成長する。すべてが、その価値が売買されることに基づく商品となる。食料の貿易は、他のすべての品目の貿易と同じように測られる。結果的に、このシステムを通じて、人々と国は、世界規模で、どれだけ多くのものを効率的に〔economically〕生産し、交換するかによって評価される。

42. そうではなく、食料・農業貿易制度が、食料は生来尊厳と結びついているという前提で始まり、そうした条件で判断されれば、貿易の機能と目的は変わる。食料・農業貿易は、人間の尊厳を主張し、認識し、保全する精神で国と人々が協力する手段となる。

43. 現在の貿易制度では、経済成長が基底的価値観であるため、人々は日常的な交換の場で、主として販売者または購買者として出会う。しかし、尊厳が経済成長の価値観に代われば、人々の社会的、文化的関係が日常の交換や交流を形成することになる。人々が物品やサービスを、尊厳をもって交換するようになれば、友人、隣人、縁者として交換する精神で、お互いに出会うことになる。

44. 貿易制度は、狭い商業的な意味で、人々を「購買者」として、または、各国を「輸入者」としてのみ扱ってはならない。食料への権利は、平等と恵み〔grace〕の精神で、すべての人がモノとサービスを受け取る地位にある権利を有することを意味する。すべての人の特有の文化にはすでに、友好やもてなしの慣習を通じて食料の分かち合い方についての共通の、インフォーマルなルールが含まれている。

45. もてなしの実践が、一種の供給管理である場合、食料の豊富な保存やすぐに利用できる備蓄が必要となる。理想的なのは、気前のよいホストとなることだからである。逆に、食料の提供を拒み、ためこみ、取引を禁ずることは、悪意に満ちた無慈悲な振る舞いである。

46. 食料への権利の観点は、これらの用語において、現在ある食料の生産、流通、消費のシステムを、平等と寛大さの枠組み中で、分析、判断、変革する道を提供する。この中には、すべての人が尊厳を持って食事をできるように保障する観点で食料の政治経済的状況を見直すことや、以下のような問いを発することが含まれる。

  • ある人々と国にとって尊厳ある食事を構成するのは何か。従って、どんな食材が、必要な、または主要な産品か(適切さ)
  • 食料の十分な供給と蓄えとは何か(利用可能性) 
  • 食料の備蓄・保存を管理すべきなのは誰か。この備蓄・保存が置かれるべき場所はどこか(入手可能性)
  • 恵みの季節において、食料の分かち合いのルールは何か(援助の形式での利用可能性とアクセス)
  • 食料の豊富な蓄えの確保が貯蔵となるのはいつか(利用可能性とアクセス)

47. これらの質問への答えは時に明瞭で不変である。しかし、気候が変動し、生態的条件が大きく転換する中、人々と政府はこれらの基本的問いを見直さなければならない。 

尊厳とアグロエコロジーの農学

48. 今日多くの人が問う最も差し迫った質問の1つは、我々はどのように食料システムを気候変動に対して回復力[レジリエンス]のあるものにできるかである 。さらには、農業が人間由来の温室効果ガス排出量の約3分の1(メタンの40%以上)を占める時、これらの排出量を削減するためどのように農業慣行を変更しなければならないのか、である。

49. これらの問いには、容易に解決の道が見出されるものではない。ゆえに、回復力の研究は、生態的安定と変化をどのように測定し、理解するのかという問いに答えるものとなる 。しかし、気候変動緩和(と適応)についての研究は、農業慣行と技術の転換を強調する。

50. とはいえ、回復力、緩和、適応は、人権の言葉を用いて結合することができる。まとめの問いは、我々の食料システムがすべての人の尊厳を維持する方法で大幅な生態系の変化に適応できるようにするにはどうすればいいのか、というものである。

51. 尊厳の強調は、急速な転換に対する人々を中心とするアプローチにおいて、社会的・生態的回復力と安定についての理解の土台となる。このアプローチは、気候変動の適応・緩和計画が、資源への平等なアクセスと社会的公正を問うことと分けられることはないことを保障する。気候変動は、科学技術だけで解決することはできない。

52. 食料回復力〔food resiliency〕において強まるコンセンサスは、アグロエコロジーと多様性の強調が、将来の変化を生きる最良の方法であるということである。この中には、生物多様性の向上、文化的多様性の拡大、地理的広がりや時期を通じて農産物を多様化すること、極めて豊富な食料供給源の維持が含まれる 。しばしば見落とされるが、この中には、アグロエコロジーの法的領域を相互に浸透し合う法秩序、または「様々な法律が重なる」領域と理解し、これらの領域で人々が尊厳を主張する機会を見出すことも含まれる。 

B.自給

53. 自給は、食料への権利と関わり、貿易政策を含め、食料への権利に影響を与える様々な政策の文脈で意思決定や戦略的計画策定に関して、政府、人々、機関に定性的および原則的な指針を提供できる価値観である。

54. 人権の文脈において、自給は、自己〔self〕の観念が個人主義、国家主義、経済的自給自足〔autarky〕を目指すのではなく、共同を意味する関係性の原理〔relational principle〕である。各国との関係および国内において、自給とは、食料、コミュニティ、および世界の食料システムや生態系システムとの関係においてそれらが共存する場である。国々と政治システムの間で、自給は、対等な〔horizontal〕共存の原則である。そうしたすべての様々な関係において、自給は自治、調和、共存、尊敬を強調する。 

55.  自給は、コミュニティを中心とし、政策や計画が可能な限り地域に根ざしたもの〔localized〕になるよう求める。何が効果的か判断の仕方について尺度が大事になる。理論上は、世界全体で、すべての人に食料を提供するのに十分な食料があり、「自給できている」が、8億人が慢性的に栄養不足〔undernourished〕にある(そして、栄養不良〔malnourished〕の数を考える場合にはさらに多い) 。地域コミュニティを重視し、そこに適合させることで、自給は、食料生産、流通、消費の主要な特徴、食品廃棄物のリサイクル、処理に関する決定の場を、第1に地域コミュニティ、第2に国、第3に国際社会とする。

56. 「自給」という用語は、他の文脈では異なる用いられ方をする。FAOは、「国が、国内生産で食料需要を満たすことができる程度」と定義している 。この用法では、自給は、国内生産で満たされる国内食料需要または、食料消費量に対する食料生産量の比率で測られることになり、これら2つの入れ替えも可能になる。自給を用いて、輸入食料への国境完全閉鎖を求める政治的志向を意味する評論家もいる。関連する解釈が示唆するのは、食料政策の問題の審議において経済事項よりも政治事項が優先されることを食料自給が意味することである。しかし、これらの特徴[付け]はすべて安定的でも、必要でも、現実的でもない。すべての政策選択は政治的でも、経済的でもある。100%国産食料だけに頼る国は存在しない。割合ベースの指標に依拠するのは、自給を量[の問題]に狭めることになる。自給を、自給自足経済に向かうを指標や傾向として扱うのではなく、明瞭なリスクがある中、食料への権利の実現を構成するという全体的目標に向けて航行する際に用いる規範的理念として自給にアプローチしなければならない。

57. 今日、食料への権利の実現はしばしば、人々や政策立案者にとって対立する選択肢として提示される。国内生産・消費に有利に法律を作成することは、(国際)市場を歪め、市場崩壊の「制度的リスク」を高めると主張する者もいる。しかし、この見方は、市場の非現実的なイメージから生じている。政策的な懸念の一つとして挙げられるのは、適切な食料への国内または地域の需要を満たすのに国内または地域食料生産にのみ依拠するのは、不作、干ばつ、政治紛争など緊急の出来事に対して国を脆弱にしてしまうということである。別の懸念として挙げられるのは、安定した食料供給を目指しながら国際市場に過度に依存しすぎるリスクである。ここでの危険は、貿易に依存し、変動しやすい食料価格にさらされることである。

59. 何が自給か、何が自給に当てはまらないのか、なぜ自給が有効なのかを提示する上で、4つの要素を示すのが重要である。すなわち、自治、調和、共存、尊敬である。これらの要素のそれぞれが、国の内部および各国間で機能する。

60. 自給は、地方自治を重視する。自給自足経済という戯画化されたアイデアとは全く異なり、自治は、それぞれのコミュニティが、人間、動物、植物、微生物、霊的存在、特定の場で特定の食料(一連の食料)を囲む情景といった複雑な生態系とどのように関わることを望むのかについて、自ら決定する権限に関するものである 。関係する問いは、誰が決定するのか、である。この原則を構成する要素は、2つのレベルで作用する。地域のレベルにおいて、その原則は、食習慣の中から抽出され、そこに現れる文化観(宇宙観さえも)が複数存在することを認める。この複数性は各国の内部に存在する。多様性を認めることは、自らのルールや法を決め、自らの慣習に従い、自らの伝統を実践する意味ある領域が伴われなければそれ自体ほとんど意味がない。規範的原理としての自給は、食料と農業に関わる貿易政策の策定において地域と国のコミュニティの間の共同決定を要求する。国のレベルにおいて、自給という規範的原理とその自治の強調は、すべての国が自ら採用する政策を決定し、輸出用食料生産、国内用食料生産、食料輸入の水準と要素〔parameters〕の間にある適切な政策を見つけることを可能にする。そのような問いについて意味ある意見の一致は存在しないし、今後もできないだろう。意見の一致が存在しない下で、貿易ルールが各国の政策的自律(手続きの権利〔process rights〕とともに)を保護しない限り、最も強力な主体が争うこともなく〔by default〕決定することになる。

61. 自給の中には、先住民、地域、国、地方、国際の法律について、規制を一致させること〔harmonization〕ではなく、調和〔harmony〕を求めることが含まれる。食料への権利を尊重することには、人々が複数の食料法、慣習、慣行に従う権利を尊重することを意味する。効率性を優先する政策は食料法の多様性を、価格の引き下げという野心的な〔overweening〕目標に対して、二次的(または敵対的)に扱う。一致させること〔harmonization〕は、より安い食料を約束することによって正当化されるが、食料への権利を尊重することは、食料をできるだけ安くすること以上のものである。食料への権利は、人々が、適切な社会的、環境的コストで、文化的に適切な食料にアクセスし、栽培し、育て、調理することができる条件をつくることを意味する。自治を重視するという背景からみて、複数性の尊重は、土台となる法律や慣習を通じて、貿易政策が第一に既存の食料生態系を守ることを追求しなければならないこと、食習慣や儀式の標準化を絶対的なものとして〔a priori〕促進すべきではないことを意味する。

62. 自給できるということはまた、他者と共存することでもある。食料への権利の観点から見て、地域または国のどちらであっても、自らのコミュニティの自給を重視することは、「近隣窮乏化」や貿易政策による戦術的侵略を行うことを意味するものではない。他者を犠牲にして、食料への権利を満たすことはできない。このことは、自給が、他の人々やその食料システムとの競争ではなく、共存を奨励するものでなければならないことを意味する。食料貿易の共通の目標を共存とすることは、また、廃棄物、過剰生産、過度の集中を抑制する可能性を持つ。共存の原理は、世界中の、大企業から数百万の小規模農民、農場労働者までを含む食料生産者の多様性に注目することに広がる。ここでは、自給は、小規模生産者を保護・支援すること、食料保障と農村生活を支えるその他の仕組みに、制度とルールの焦点を定め直すことに用いられる。共存は、食料への権利が、人間全体(消費者だけでなく、生産者、市民、移住者、農民)によって支えられていると考える。共存はまた、自然の中および人間を越える世界との関係を求めることを示唆している。食料への権利は、生物圏の破壊や生物圏からの収奪〔extraction〕を通じて表現されることはできない。

63. 最後に、食料への権利の観点において、自給は尊敬を重視する。尊敬は、各国政府が責任を負うコミュニティ構成員に向けられなければならない。尊敬は、正式には代表性、声、民主的関与と言われるが、[コミュニティ構成員の声に]耳を傾けることで払われる。それは、自治の要素にほぼ合致し、食料生態系を断絶させる可能性がある改革を提案する前に、まず政策立案者が地域コミュニティに耳を傾け、既存の食料生態系〔の価値〕を見出し、理解することが必要である。国境を越えた尊敬は、共存の価値観を補強し、政策立案者が、各国の違いを真剣に受け止めるように促す。これらの違いは、単に富の水準だけでなく、文化や有権者〔constituency〕、各国の食料への権利の内容を形成する絶対的原理という点でも存在する。 

C. 連帯

64. 連帯の上に築かれた経済は、利益や終わりのない成長ではなく、対等な協力や連携の原理に支配される組織に依拠する。連帯経済という考えは、互恵社会、信頼〔trusts〕、協同組合などの存在を通じて自らの力を組織化した、様々な国での数百万の経験に直接由来するものである 。その基底にある目的は、自らの利益を追求するのではなく、人間の必要を満たすために機能する市場を創設すること、民主的に管理される企業を通じて商業活動を管理すること、経済的領域と、ケア・余暇・文化の範囲の間の境界線を薄めることである。この点で、連帯経済は、利益を優先する民間企業とも、しばしば官僚的かつよそよそしく、排他的な国の介入とも異なる。重要なのは、これらの考え方や慣行は食料生産の領域で生き生きと存在するということである。 

経済成長の限界

65. 国連創設以来、経済成長に重点を置いた発展の追求が、国際法と制度の中心目標だった 。食料と飢餓の問題もこの傾向に従ってきた。一方で、経済成長は飢餓を根絶し、高い栄養水準をもたらすと主張された。もう一方では、飢餓の根絶は時に、経済成長の前提条件とみなされる。飢餓と経済成長をいかなる形にせよ結びつけることは、飢餓の根絶を極端な貧困の根絶とほぼ同義とみている。

66. この成長の重視はいくつかの根拠に基づいている。

67. 第一に、それは、市場という考えを前提としている。近年、各国内において、飢餓の増加と経済成長の鈍化(1人当たりの実質国内総生産で測られる)に相関関係があることが、研究によって説得力ある形で示されている。同じ研究が、経済成長と飢餓・栄養不良との直接の関係が不明瞭であると指摘している。さらに複雑な問題なのは、経済成長は、常に等しく共有されるわけではなく、極端な貧困の削減は、必ずしも食料保障や栄養の向上をもたらすわけではないということである。実際、食料を安定的に得られない(food-insecure)栄養不良の人々は常に最貧世帯のメンバーというわけではない 。ゆえに、経済成長の観点から見た時、飢餓と栄養に関する問題は、経済成長をいかに増大させるかを決めるのみでなく、より厳密には、食料を安定的に得られない栄養不良の人々が、そうした経済成長から利益を得、景気低迷から自らを守るのを、経済格差がいかに困難にしているのかについての問題である。

68. 経済成長をいかに人々のためになるようにするかという問いは重要であり、ゆえにもちろん、どのように成長と飢餓が計測されるのかについての長期にわたる議論も存在する 。とはいえ、食料への権利の観点は、そもそもなぜ飢餓・栄養と市場に相関関係があるのかについて問う。

69. なぜ所得と価格によって、人々が適切な食料へのアクセスを有するかどうかが決まるのかについて生得的な理由は存在しない。行うべきは、人々の食料へのアクセスがいつ、なぜ市場と結びつくのかについて吟味することであり、どのようにそれらの市場が構築されるのかについてよりよく理解することである。

70. 食料への権利の考え方は、経済について、単に商業的市場取引だけではないという点から、より広い理解をしている。経済には、家庭内の労働やインフォーマル市場(経済成長の基準では捉えられない、大抵の場合女性が担っている労働)も含まれる。人々はまた、贈与、学校、ケア施設、フードバンク/パントリー、刑務所を含め、市場以外の機関を通じて、食料を定期的に獲得する。

71. さらに、気候変動は、食料への権利を完全に実現するための手段としての、短期的成長の可能性さえも急速に脅かしている。干ばつの悪化、極端な気象現象の頻度の増大、長期にわたって観測されてきた天候パターンの変化が、現在および今後、食料の生産、流通、消費のあらゆるステップに影響を及ぼす。

72. 気候変動は、食料に関わって成長中心のパラダイムを見直すように国に要求している。気候変動に関するパリ協定の下で、締約国は、気温上昇を産業革命以前と比べて摂氏2度未満に抑え、1.5度への抑制を目指すと約束した 。食料生産、特に、工業的農業、食肉生産は、温室効果ガスの主要な排出源である。気候変動に関する政府間パネルの最近の研究は、農業、林業、その他の土地利用は、人間由来の温室効果ガス排出全体の約23%を占めていると推計している 。食料関連排出の多さ、増大傾向は、食料生産、貿易、消費のあり方を変革することが、気候変動に関する我々の共同の努力の不可欠の構成部分でなければならないことを意味する。

73. 気候変動に関する政府間パネルは、100を超える緩和シナリオを列挙し、そのほとんどが経済成長の継続を前提としている。しかし、経済成長とパリ[協定の]気候約束を両立させることは、極めて楽観的な予測や炭素回収・貯留技術に大きく依拠することによって初めて可能になる。これらの技術は、広範な利用向けに作られていないし、それらの有効性や幅広い影響については概して十分に研究されていない〔understudied〕 。他の「緑の成長」計画は、集中的採掘〔extraction〕、加工、希土類鉱物の使用に過度に依存している 。これらの物質は、少数人種の(racialized)人々や先住民の土地にあることが多く、放射性元素を含んでおり、採掘や加工がエネルギー集約的で、人間にも環境にも極めて危険である。

74. 同様に、食料への権利の実現にかかわって、いわゆる「緑の収奪」(green grabs)は特に憂慮すべきである。この現象は、環境目的で、とりわけ途上国において、資源を奪うことであり、先進国の炭素排出は、途上国での炭素削減プロジェクトへの資金供与を通じて相殺されるといわれる 。これらの市場基盤メカニズムは実際に排出量を減らす上で効果がないということに加え、緑の収奪は、地域の食料生産慣習を破壊し、農業・狩猟・採取から土地利用を転換することによって食料への権利も侵害する。しばしば、土地は、次のような人権要件を満たさないことで奪われることになる。すなわち、自由意志に基づく事前の十分な情報に基づく先住民の合意を得ること、農民と農村で働く人々と誠実に協力・連携すること、企業に人権義務上の責任を果たさせること、である 。

75. 概して、緑の成長を進めるため潜在的な技術上の「応急処置」〔fixes〕に楽観的に依拠することは、我々の食料システムを含む、経済の必要な転換を延期するだけである。これらのシステムは、気候変動の影響を抑制するため、生態系との間で真に持続可能な関係を築くため、さらには、乏しい資源しかもたない人たちが自らの生活を支配できるように力を付けるため、成長を中心とした目標から転換しなければならない。いかなる遅れも、すべての人が自らの食料への権利を十分に実現する力を著しく制限することになる。障害を持つ人、女性、青年、子ども、先住民、少数人種の〔racialized〕人々、貧困層がこれらの、気候を要因とする破壊によって不相応な影響を受け、将来も受け続ける。 

経済の転換

76. 我々の食料システムについての課題が根本的なものであるなら、食料と飢餓の政治経済についての我々の再検討もそうでなければならない。成長を優先することは、社会的セーフティネットが含まれたとしても、約束を果たさず、気候変動を悪化させる。むしろ、すべての人の食料への権利を実現することは、生産者の間の協力および、耕作、狩猟、採取、運輸、食料の調理〔preparation〕と消費へのすべての参加者の連帯を中心にした根本的に異なるアプローチを求める。

77. 連帯経済の実践は、国と民間の主体が共に失敗した時、生まれ広がった。新型コロナ感染症のパンデミックの間の互助グループの誕生と、社会的ネットワークへの依拠の増大が、この現象、およびそのような実践を増やす社会的、政治的条件を説明している。振り返れば、1980年代以降の先進国における産業空洞化と福祉国家の後退が、協同組合や保育をはじめとするコミュニティが運営するサービスの発生をもたらした。途上国では、社会の大きな部分が「フォーマル」経済や「オフィシャル」政治から除外されたことにより、生計手段だけでなく、帰属意識を与え、[自分たちの利益を]代表する協同組合の発展につながった。

78. 途上国やその国民の利益にとって根本的に有害だとみなされる国際貿易体制に不満を募らせ、「フェアトレード」の慣行を生み出した人々もいた。これらは、先進国と途上国の協同組合を結束させ、交換と雇用の公正な条件を保障し、仲介業者の役割を最小化または除去し、消費者に対して、購入した商品に埋め込まれた歴史、社会関係、文化的重要性の感覚を提供した。そのような協同組合の新たな試みを奨励するための重要な政策ツールとして表示が登場した。しかし、重要ではあるが、表示は「消費者の選択」に依拠しており*、国際貿易法の原則を変えるものとはならない。したがって、そのような慣行が、われわれの食料システムの中核を拡大、変更するには、国内および国際的なインフラが、これらのイニシアティヴの規模を拡大し、地域および国際関係を促進することが求められる。

〔*Coexistence also implies seeking relations within nature and with the more than human worldの部分は省略〕

79. 食料生産、流通、加工はすでに、ローカル化された〔localized〕連帯経済の中心となっている。これは、一部には、規制のない(国内および国際の)食料市場と少数の企業への市場のパワーの世界的集中が、激しく変動する価格をもたらしたためである。加えて、大きく膨らんだ中間業者の役割が、過度に長距離にわたるサプライチェーンを作り出している。また、食料は、まさにそれ自身の持つ性質のため、商品経済はケアの経済と明確に異なるとの仮定を乗り越え、否定する。

80. 連帯経済への転換は、食料への権利が、単に飢餓の根絶を超えて、その幅広い内容を実現するのにも必要である。例えば、FAOのアグロエコロジーの10要素は、循環型の連帯経済および知識の共同創出や共有の重要性を強調している 。利用可能性、適正さ、入手可能性という食料への権利の中心にある3本柱は、人々が食料の生産、流通、消費を支配することを求めている。また、これらすべてのステップが、民主的対話や状況の発展に応じた再構築に道を開くことを求めている。

81. 連帯経済は、緊急の必要を満たすとともに、新たな関係をどう築くかについて参加者に教えてくれることを経験が示している。連帯経済の中核的な考えは、今すぐここで共存する様々な方法を実践することで、社会の根本的な転換に向け、ある種の先行事例〔prefiguring〕または、基盤構築として機能するというものである 。連帯経済は、本来的な意味で〔by definition〕、社会運動とそれを支える政府の試行錯誤や成功例から生まれ、国際法と制度が指令することはできない。とはいえ、先進国と途上国の40年間の実験が示すように、国際政策は、そのようなイニシアティヴを支援(または妨害)できる。

82. ガーナやブラジルの政府のイニシアティヴは、国が連帯経済プロジェクトを導入し、飢餓とのたたかいに成功する方法の例を示している。どちらのケースでも、政府は「セーフティネット」にだけ焦点をあてることはなかった。むしろ、2000年代初頭の食に関するガーナのイニシアティヴは、農民青空学校〔farmer field schools〕や協同組合といった参加型プログラムを政府が奨励するなど、小規模農民に力をつけるやり方で市場を形成した。その結果の1つは、わずか6年の間で農業協同組合が251%増えたことである 。同じく、ブラジルでは、国立の学校に対して、連帯経済部門から学校給食の食材を相当な割合〔a substantial percentage〕購入することを義務付けることで、農業協同組合〔agricultural collectives〕を支援した 。

83. 概して、連帯経済を中心に置くことで、量的充足や福祉の最低水準だけに焦点を当てることなく、変革をもたらすような人権ビジョンが可能となる。むしろ、本報告書が提案するアプローチは、生産、流通〔circulation〕、消費を含め、人間、人間以外の動物、生態系全体の間の公平で持続可能な関係を築くやり方で、食料を民主的に管理することを重視する。 

V.国際食料協定〔International food agreements〕

84. 人権原則を基盤として新しい食料・農業協定を構築することは、人々の必要に応じた貿易制度を保障するだけでなく、国際市場の性格をも転換することになる。関税貿易一般協定(GATT)は世界を国内市場の相互のつながりと描き、WTOは、世界市場の建設に歩み出した。国際食料協定は、今後もGATTおよび、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約を土台とする。国際食料協定は、地域または多国間食料ハブ〔拠点〕を作り出すために、様々な社会生態的食料状況を反映するだろう。 

A. 国際貿易のための新しい法地理学

85. WTO農業協定を段階的に廃止することで、GATTが貿易法の土台となる。GATT単独では、WTOとは異なる 。GATTは、どのような問題も規制の調和を通じて解決する義務を持たず、様々な種類の経済を認め、これらの違いによって引き起こされる国際的な緊張を改善する「相互作用の」〔interface〕システムである 。これは、新しい種類の貿易協定を創り出すのに必要な柔軟な枠組みを形成している。すなわち、概して人権に由来し、具体的には、食料への権利を重視する協定である。

86. GATTは、地域貿易協定と国際商品協定という2つの法的形式を提供しており、そこから国際食料協定が形成されうる。国際食料協定は、食料への権利の重視に向け、これらの協定の機能を再設定することによって作り出される。

87. 地域貿易協定は、その数が多く、各国が新たな協定の交渉を続けていることから、よりなじみが深い。GATTは、各国が無差別 という基本原則から逸脱し、地域パートナー国の貿易物品を、他のWTO加盟国よりも優遇することを認めている 。

88. しかし、地域貿易協定は、加盟国間の貿易の流れを増大させることに主な焦点を当てているため、限定的である。各国は、多くの地政学的、経済的理由から地域貿易協定を通じて経済を統合するため、その目的は様々である 。最も重要なのは、地域貿易協定は、途上国で生活を改善する有効な道とはならなかったし、しばしば各国間の不平等な関係を再固定化しているということだ 。

89. 国際商品協定はより多くの約束をもたらす。GATTはもともと、より大きな国際貿易機関の一部として交渉された。国際貿易機関の計画(ハバナ憲章)の下、国際農業貿易は、GATT(第4章)ではなく、国際商品協定(第6章)によって統制されることが意図されていた。この構造は今日も有効であり、いかなる新たな国際商品協定も、次の一定の原則に従う必要が今なお存在する。すなわち、そのような協定は、深刻な市場の断絶に対処するためにのみ採用されうる。協定の目的は、価格引き上げではなく、価格の安定化に限定される。輸入国と輸出国は平等な議決権を持つ 。

90. GATT第20条(h)は、ゆえに、国際商品協定をGATTの規則の適用から除外し、将来の国際食料協定に必要な柔軟性を提供している。さらには、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約の第11条(2)(b)は、食料の公平な貿易を求めている。これらの2つの条項を組み合わせ、国際商品協定は、尊厳、自給、連帯の原則を土台とし、国際食料協定になるように目的を再設定できる。国際食料協定のための法的土台を確保するため、2つの条項の解釈を各国が更新することを妨げるものは何もない。 

B.国際食料協定の形式と機能

91. 新たな人権重視の食料協定は、尊厳についての共通の理解によって結びついた、地域の自給と連帯のための協力の場となる。

92. [食料協定の]役割の一部は、様々な地域食料ハブをつなぐ窓口〔interface〕インターフェイスを形成することになる。これには、様々な食料システムの共存を認める仕組みの創設が必要となる。政治的な問いとしては、国連貿易開発会議(UNCTAD)が、いくつかの自立した国際商品協定のベースを提供してきたように、どの政府間組織が、様々な国際食料協定の間の調和プロセス〔interface process〕を主導するのかに関してのものとなる。

93. 人々が中心になるアプローチを保障するために、この基盤となる機関は、世界食料保障委員会、ILO、北極評議会のような包摂的な機関を足場とし、すべての関係者がテーブルにつくようにしなければならない。これらの機関は、単に国だけでなく、小農〔peasants〕、雇用者、労働組合、先住民を含めた様々な形態の参加を実現してきた。世界食料保障委員会は、一定の改良が必要とはいえ、この役割に最適である。同委員会は、政府、国際機関、民間部門、市民社会が飢餓と栄養不良に取り組む努力を連携させる比類のない国際的な空間である。市民社会メカニズムおよび先住民メカニズムを通じて、権利保持者は、世界食料保障委員会に有効な席を持つ。このメカニズムは、様々な社会運動、先住民、労働組合、アドボカシー組織が協力し、委員会の方針を作成することを可能にする自立した場である。どの機関が基礎となるかにかかわらず、この水準の参加を最低限保障しなければならない。

94. 人権アプローチはまた、国際食料協定の実質的な重視を特徴としなければならない。したがって、国際食料協定は、土地、労働、移住の3つの要素に焦点を当てるべきである。 

土地:土地との良好な関係を維持する

95. 先住民や小農の間の法の一般原則は、コミュニティが相互に、土地と良好な関係を維持するのに必要な権限と資源を得る資格があるというものである 。ここでは多くのことを、キム・トールベア〔Kim Tallbear〕の労作と、「『良い関係である』ことを重視するダコタの日常的な存在理解」についての経験から学ぶことができる 。概して、「良い関係を維持する」ことは、「良い食」という考えと同様に、それぞれのコミュニティが、尊厳についての独自の考え方を通して自ら決定する事柄である。しかし重要なのは、良い関係には、支配的および収奪的な〔extractive〕関係を通じずに、土地と調和しながら機能する食習慣が求められるということである。

96. 食料への権利は、政治的手段やアグロエコロジーの実践を通じて、よい関係を維持するというケアの原則〔the caretaking principle〕を普遍化するのによく適している 。貿易の観点では、国際食料協定が、人々の地域での土地保有権を妨げるようなことがないようにすること、人々が土地と相互に良い関係を維持する能力を常に維持できるようにすることを意味する。 

労働:効果的な労働法を保障

97. 国際食料協定は、ILO条約や[政策]手段を足場に築かれ、すべての食料労働者が保護されることを保障する最低水準を打ち立てる。同食料協定は、締約国に対して、労働者の健康、安全、命を守る明瞭かつ一貫した有効なルールを制定するよう義務付ける。すべてを等しく商品のように扱うことを保障した貿易協定とは異なり、国際食料協定は、人間の尊厳の普遍性から導かれ、すべての労働者が平等に扱われることを保障する。 

移住:人とモノの移動

98. この協定の範囲は、締約国が決定するものが必需食料品なのか、必需食料品に焦点を当てたいだけなのか、広範な食料品を含めたいのか、によって決まる。国際食料協定は安定した食料市場を築くとともに、人々が多様な(余剰の)食料供給にアクセスするのに必要な手段を政府に提供することで、食料の利用可能性を保障する。

99. 国際食料協定は次のような問題に取り組むことができる。

(a)(単に安定した価格だけではなく)食料保障を確保する様々な価格メカニズムを開発すること

(b)国内、国際の備蓄制度を管理すること

(c)食料援助が農林水産品のダンピングとならないような方策を提供すること

(d)危機の際は、地域食料ハブ間の取引上のすべての障壁の除去に重点を置きつつ、食料が必要とする人に届くようにすること

100. さらに、尊厳を維持し促進するため、貿易は人々が実際に食べる方法について考慮するものとする。大半の人々が、地域レベルの分かち合いのインフォーマルな市場と経済に大幅に依拠している 。国際食料協定は、これらの既存の慣行をなくしてしまうのはなく、地域の市場が人々の食料への権利の実現を保障するように設計されなければならない。すべての農産物のうちわずか10〜12%が国際市場で取り引きされている 。ゆえに、地域市場が規範であり、貿易は例外として取り扱われるだろう。

101. 国際食料協定の主な要素は、公正な市場を作る季節的関税と季節的移住の規則からなるシステムを形成することになる。すでに多くの国で、物品や人の移動を規制する季節的ルールが存在するが、これらは、国内生産者を保護することに重点を置き、移住労働者を軽視している。国際食料協定は、食料を豊富に有する者が、必要とする者と分かち合い、販売できるようにするため、季節のパターンおよび生態学的条件に合致するやり方で国境が機能するようにする。

102. 要約すると、国際食料協定は、食料への権利を実現するため、市場を支配者ではなく、奉仕者として利用するpeas。 

VI. 結論

103. 食料への権利に関する特別報告者は、総会への最初の報告書で、WTO農業協定は適切な貿易結果、まして食料安全保障上の結果をもたらすことはできなかったと結論づけている。報告者は、加盟国に対して、次の勧告に基づき、食料への権利の観点から貿易政策を進めるように要請する。

(a) WTO農業協定を段階的に廃止すること

(b) 尊厳・自給・連帯の人権原則に基づき、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約の第11条(2)(b)(食料の公平な貿易)とともに、関税貿易一般協定の第20条(h)(商品協定)の解釈を更新すること

(c) 本報告書に記述された規定や原則に基づき、新たな国際的食料協定の交渉をすること。

104. 最終目標は、すべての人が尊厳を持って食べ、飢餓から逃れることである。この中には、成長中心の目標から脱却し、生態系との真に持続可能な関係に向かうこと、および、乏しい資源しかもたない人々に自らの人生を指揮する力を付与することによって、気候変動に対応することが含まれなければならない。

105. 食料への権利報告者は、適切な食料の十分かつ多様な供給にすべての人がアクセスする権利を保障されることに焦点を当てる国際貿易について、新たな論議が開始されるようにするため、自らの職務を捧げる決意である。